第5-2便:社長の真意と意外な事実
すると社長はここに来てようやく表情を緩め、いつもの優しい眼差しを私に向ける。
「解雇? どうして? キミはディックくんの命を助けるため、自分の身の危険を承知で行動した。僕はそのことを最上級に評価している。解雇なんてするもんか。それにそもそもシルフィほど整備技術の高い社員を手放すわけがないよ」
「社長……。あ、ありがとうございます!」
「ディックくんを運ぶために使った船の魔導エンジン、それを組み上げるために最近は余暇や睡眠時間を削っていたみたいだね。クロードから聞いたよ。でも無理はダメだよ。だからこの停職期間は体をしっかり休ませることに使うように」
「っ!? えっ? もしかして、そのための停職なんですかッ?」
「いや、停職は罰としての正式な処分だよ。休養というのはあくまでも過ごし方の例を挙げただけ。勘違いしないように」
そう淡々と念を押しつつも、社長は私に向かって目配せをした。それを見て、やはりこの停職処分の真意は私を休養させることなのだと確信する。
社長の優しい気遣いに触れ、私の心は温かくなる。
「――はいっ! 私、停職期間は休養に専念します」
「うん、作業場やドックは立ち入り禁止だよ。機械に触れるのも禁止」
「分かってますっ! ところで、私がいない間は誰が整備を担当するんです?」
私は自分が停職になると聞いた時からそれが気になっていた。
現在、ソレイユ水運で整備をメインで担当しているのは私だけ。もちろん、社員の中には整備スキルを持っている人が何人かいるけど、みんな操舵手などほかの仕事がメインとなっている。だからとてもじゃないけど整備にまで手が回らない。
でもそんな懸念を持つ私に対し、社長は平然とした様子で即答する。
「僕がやるよ。社長業の仕事は会長に全部ぶん投げるつもり。あの人、どうせ暇を持て余してるし」
会長は社長の父親で50歳。昨年の春に社長職を現社長のフォレスさんに譲り、自分は会長職に就いた。子爵の爵位も持っていて、現在はそちらの仕事をメインにやっている。
だからソレイユ水運の業務に関しては、すでにほぼノータッチになっていると言っていい。
確かに元々は会長自身がやっていた仕事なんだし、ブランクはあるけどたった1週間の代行だ。それで問題ないのかもしれない。
…………。
……………………。
……え? ちょっと待って? なんか社長が整備を担当するって言わなかった?
それを認識した途端、私は喉が潰れてしまうのではないかというくらいの大声を上げてしまう。
「えぇえええええええええええぇーっ! 社長って整備が出来るんですかっ? イメージが全く湧かないんですけどっ! 初耳なんですけどッ!?」
「言ってなかったっけ? シルフィが入社する前、僕が整備を担当していた時期もあるんだ。だから任せておいてよ」
「じゃ、じゃあ、社長が整備をしている時にドックへ見学に行ってもいいですかッ?」
「ダメー! 停職期間中はドックへの立ち入り禁止って言ったよね。でもいつか機会があれば……その時は……ね……」
「約束ですよっ? 私、今の言葉を絶対に忘れませんからねっ!」
「ははは、シルフィは整備のこととなると本当に目の色が変わるなぁ」
社長は苦笑いをしながら当惑していた。興奮しすぎている私の反応を見て、ちょっと呆れているのかもしれない。
でも本当に意外だった。社長が整備を担当していた時期があったなんて。
どんな整備をして、どれだけの技術を持っているのか興味がある。絶対に見てみたい。その機会がなるべく早く来ることを祈りたいなぁ……。
「あ、そうそう。シルフィ、このあと施療院へ行ってくれないか? ディックくんが会って話をしたがっているらしいんだ」
「えっ? ディックくん、もう会話が出来るまで回復してるんですか?」
「うん、そうなんじゃないかな。だから僕のところへアルトさんから連絡が来たんだと思う。病室番号を書いたメモを渡すよ」
「分かりました。行ってみます」
私はメモと懲戒処分通知書を受け取ると社長に深々と頭を下げ、社長室を出たのだった。
懲戒処分通知書の方はあまり他人に見られたくないし見せるものでもないから、そっちはさっさと適切に処分しておこう……。
(つづく……)
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