バタークッキーとお魚

 アイテムボックスからお菓子を取り出す。特に選ばず適当に。よいしょと。


「えっと……。バタークッキー」


 紙の箱に入ってるクッキーだ。何度も食べてるけど、食べ飽きない美味しさで好き。

 箱を開けて、中の袋も開ける。一枚取り出してかじると、さくっとした軽い食感。この食感がとっても楽しい。バターの風味もちゃんとあって、とっても美味しい。


「さくさくしてるのが好き」


『わかる』

『そのサクサク感がくせになるよね』

『素朴な味でなかなか飽きないのもいい』


 お家の前でのんびりと食べていたら、お家のドアが開いた。振り返ると、カリちゃんだ。あれ、と首を傾げてる。


「リタちゃん、おかえりなさいー。今日はおでかけって言ってませんでしたー?」

「ん。ちょっと戻ってきた。クッキー食べる?」

「わはー。ありがとうございますー」


 カリちゃんはクッキーを受け取ると、かりかりと食べ始めた。カリちゃんからするとクッキーはとても大きいと思うけど、それでも美味しそうに食べてくれてる。


「ところで……どう?」

「まだ見つかりませんねー」

「ん……。そっか」


 大丈夫。分かってる。すぐに見つかるとは思ってない。まだ、大丈夫。


「大丈夫ですよ、リタちゃん」

「ん?」

「きっと、見つかりますー」

「ん……」


 なんだか慰められてしまった。そこまで落ち込んではないんだけどね。まだ一年も経ってないんだから。

 でも。


「ありがとう、カリちゃん」

「いえいえー」

「なでなで」

「わはー」


 お礼の気持ちをこめて、なんとなく、ちょっとだけ撫でておいた。


『カリちゃんはかわいいなあ』

『これも一種のてえてえかな……?』

『カリちゃんが食べてるクッキーになりたい』

『急に変態がまざってくんなw』


 視聴者さんはいつも通りで、それはそれで落ち着くよ。

 カリちゃんとのんびりクッキーを食べながら、珍しくゆっくり過ごさせてもらった。たまにはのんびりも悪くないと思う。




 夜。晩ご飯の時間。


「晩ご飯欲しい」

「うわ!? あんた部屋にいたのかい!?」


 部屋から出ておばさんに声をかけたらとても驚かれてしまった。


「肉か魚どっちがいいか聞きに行ったんだけど、返事がなかったからね。出かけているかと思っていたよ」

「あー……。ちょっと、お昼寝してた」

「それは悪いことしたね。で、どっちだい?」

「お魚。楽しみ」

「あっはっは! じゃあすぐ作るからカウンター席で待ってな!」


 おばさんに言われた通りに、一階のカウンター席に座る。もう日も暮れたためか、食堂はとっても人が多い。ギルドで紹介してもらった宿だけあって、冒険者らしい人もたくさんだ。

 それよりも。ご飯。お魚。まだかな?


『リタちゃんがすごく子供っぽくなってるw』

『足ぷらぷらさせてかわいいなあ』


「最近みんなの言葉がちょっと気持ち悪い」


『ありがとうございます!』

『我々の業界ではご褒美です!』

『ここまでテンプレなのでリタちゃんは気にしなくていいよ』


「ええ……」


 視聴者さんは本当に、たまによく分からなくなる。みんな楽しんでくれてるのなら、別に私はいいんだけどね。


「はい、お待ちどう!」


 のんびり待っていたら、おばさんが料理を持ってきてくれた。大きな焼き魚にたくさんの香辛料がふりかけただけのシンプルな料理だ。とてもいい香り。


「パンに入れても美味しいから試してみな。ただし骨には気をつけなよ!」


 おばさんはパンを置くと、さっさと戻ってしまった。

 それじゃ、お魚。お魚だ。大きなお魚。食べ応えがありそう。一緒にもらったフォークで身を削って、一口食べてみる。


「んー……。塩味がちょっと強めだけど、香辛料の香りもしっかり感じられるね。ちょっと辛め、かな? でも美味しい」


『見た目ですでに美味しそうです』

『彩りがすごくいい。異世界の料理とは思えないな!』

『お前ら異世界を下に見過ぎだろ』

『戦犯は師匠さんです』

『あいつは、その、料理が下手だから……』


 日本の料理の方が種類がたくさんで美味しいけど、こっちの料理も美味しいものは美味しい。大雑把だからこその美味しさって言えばいいのかな? そういうのがあるよ。


「すまない。あんた、隠遁の魔女様だよな?」


 もぐもぐと食べ進めていたら、話しかけてくる人がいた。冒険者さん、かな? 剣士さんだ。


「もぐもぐ」

「あんたが魔女様なら、是非とも手合わせ願いたい。俺とあんたの差がどれほどのものか知りたいんだ。だから……」


 ちょっと、うるさい。

 ぎゅっと、影の縄で剣士さんの体を締め上げる。驚いてる剣士さんに、私は短く言った。


「ご飯の邪魔は許さない」


 それだけ言って解放してあげる。あとはご飯。お魚。続き。


「し、失礼した……」


 剣士さんはそれだけ言って、帰っていった。


『びびった、ぶっ殺すかと思った』

『リタちゃんが冷静で安心したよ』

『すぷらったかと……』


 みんなは私のことを何だと思ってるのかな。ご飯の邪魔をされるのは嫌いだけど、別にご飯を台無しにされたわけでもないから、そこまで怒らないよ。

 そのまま一人で食べ続けて、完食。うん。たくさん食べられて、満足。


「んふー」


『リタちゃんが嬉しそうで何よりです』

『さっきの剣士さんは探さなくてええの?』


「別にいい。手合わせとか、面倒だよ。そもそも私は魔法使い」


 剣士が魔法使いと勝負をしても意味はないと思うよ。本当に。アリシアさんを探すべきだと思う。

 おばさんにお礼を言って、部屋に戻る。あとは森に戻って、寝るだけ。明日はお船だ。楽しみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る