第54話 おや? お姫様のようすが
予め、目を付けていた宿は幸いなことに空室あり!
良かったわ。
ただし、最上級のお部屋が……。
でも、それ自体には特に問題がないですわ。
フロントで問い合わせると庶民階級が泊まれるような価格ではないということを説明されて、支配人まで現れたのには驚きましたけど。
まるで子供相手に言い聞かせるような言い方なのはなぜかしら?
「これなら、問題ないでしょ?」
レオはともかくとして、わたしまで子供扱いされたということなの?
そんなに子供っぽく見えるのかしら?
心配そうな顔をしているレオを不安にさせたくないので実力行使ですわ。
ただ、これでもダメだったら、本当に実力行使するつもりでしたから、分かっていただけたようで良かったわ。
「そのお金を見せるだけで態度が変わったね」
ベッドの上で器用に逆立ちをしているレオ。
何だか、難しい顔をしているわね。
何で逆立ちをしているのかが、分かりませんけど……。
「これ一枚で一等地のお家が余裕で買えますのよ?」
「この前、リーナはそれでカードを買ったよね」
レオは逆立ちをやめるとそのまま、ベッドの上に仰向けに寝転んだ。
その傍らに腰掛けることにしたわ。
これなら、身体がぴったりとくっついているので安心出来るもの。
「このカードがないとわたしはレオと一緒に戦えないんですもの。仕方がないわ」
「そっか。それだけの価値があるんだね。でもさ……」
真面目な顔をしていたレオですが、急に目を潤ませて、情けない表情に変わったので驚いたわ。
何事ですの!?
「この部屋、落ち着かないよ」
気持ちが分からないでもないわ。
わたしはお城に住んでいたから、調度品や華美な家具類もそれなりに見慣れているのよね。
大きなベッドには慣れているはず。
寝室に置いているベッドが超ビッグサイズなんですもの。
だから、大きさに圧倒されている訳ではなさそうですわね。
無駄に豪華に見えるせいかしら?
シーツは濃いブラウンに刺繍が施されたもので、フレームもやや過剰なほどに彫刻が施されていますわ。
それが華美に感じられて、レオにとっては落ち着かない環境なのだわ。
「じゃあ、まずは食事にしましょ♪」
「うん!」
君の扱い方が大分、分かってきたのよ?
好奇心が旺盛だから、興味を逸らせてしまえばいいの。
そうしたら、案外、どうとでもなるのよね。
お食事が有名だから、この宿を選んだのはわたしですわ。
美味しい物を食べて、満足した幸せな顔をしている君が見たかったの。
そう言わなくても分かってもらえると思ってしまうのは、わたしの我儘かしら?
「これ、美味しいね」
「じゃあ、わたしのも食べる?」
「いいの?」
この町の名物料理の一つね。
穀物とチーズを衣で包んで揚げた物だわ。
赤く、熟したトミャトの実をベースに香草類を混ぜたソースでいただくのよね。
でも、意外なのはレオがとても、きれいに食べることかしら?
人間のいない島で育った子なのにものすごく、洗練された手つきでナイフとフォークを使うのよ。
「これは何かな?」
「このパスタはこうやって、巻きつけていただくのよ」
「へえ」
パスタは食べたことがなかったのね。
初めて見る不思議な食べ物に興味津々みたい。
慣れてないと食べにくいわね。
これも名物料理の一つで濃厚なチーズと卵黄がベースになったクリームソースが絡んだ麺のような形状のパスタ――スパゲッティと呼ばれる――が特徴なのよね。
やや濃い目の味付けなのでレオの好みにも合うと思うの。
なぜか、巻きつけるのに苦戦しているわね。
器用で何でもそつなく、こなしているのに珍しいわ。
「はい、レオ。お口をあ~んして」
「えー? いいのかな」
代わりにスパゲッティを巻きつけたフォークを口に運ぶと一瞬、躊躇ったものの素直に受け入れてくれるのよね。
君のそういう素直なところが好きよ?
マナーとしてはあまり、よろしくない気がするけど。
「うぅ~ん。この果実しゅい、あみゃくてぇ……あら? レオが二人に増えたわぁ」
気分が良くて一気に流し込んだ果実水はとても甘かった。
頭も体もまるで熱を帯びたようにホワホワとしてくるの。
凄く眠いわ……。
「あれ、リーナ? これ……果実水じゃない!? この匂い……果実酒だ!」
お酒でしたの?
それで眠くなってきて、気分がいいのね。
もうダメ……おやすみなさぁい。
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