0151 ジャベックの展示と販売

 メディシナー区画を見終わると、次はジャベックの一般展示販売区画だった。

ここでは実際にジャベックの展示販売をしているらしい。

そこでも俺は声をかけられた。


「よお、シノブ!来たな!」

「あ、バッカンさん、参加してたんですか?」


バッカンさんはかなり有名なジャベック職人らしい。

それならばこの大会に参加していても不思議は無いだろう。


「まあ、わしは渋ったんだがな。

今回はどうしても出て欲しいと頼まれて仕方がなくな。

しかし、こりゃまたずいぶんとたくさんいるな。

みんなお前さんの友人なのか?」

「ええ、みんな僕の友人なんです。

そうそう、ここにいるエレノアは一応僕の奴隷なんですけど、魔法の師匠なんですよ」

「ほう?すると、お前さんにタロスを仕込んだのはこの人かい?」

「はい、そうです」


そのエレノアを見たバッカンさんが、不思議そうな顔をして話す。


「ん?しかし・・・あんた・・・まさか・・・?」

「はい?何でしょう?」

「どうかしましたか?バッカンさん?」


バッカンさんはエレノアを見てかなり驚いた様子だったが、俺の言葉でハッ!と我に帰ったようだ。


「いや、単なるわしの勘違いだったようだ、すまん。

まあ、みんな、楽しんでいってくれ。

わしはバッカンだ。

シノブとは茶飲み友達でな」


バッカンさんの自己紹介にエトワールさんが驚く。


「ええ?バッカンさんって?

まさか、あの伝説の名工バッカンさんですか?」

「伝説の名工は大げさだな。

まあ、確かにゴーレム作りには年季が入っているがな」


そう笑って話すバッカンさんに、エトワールさんが感激して話す。


「御会いできて光栄です!

 私、あなたのファンなんです!」

「おや、そうかい?

 こんな可愛い御嬢ちゃんにそんなに気に入られるとは俺も捨てたもんじゃないな。

ま、この期間中は忙しくてあまり話も出来ないが、今度御嬢ちゃんもシノブと一緒にわしの店に遊びにおいで」

「はい!是非!」


そのままバッカンさんの展示品を見るが、すでにそのほとんどが売約済みになっているようだ。

さすがは伝説の名工と言われるだけあって、俺も改めて感心した。

エトワールさんも展示品のジャベックの作りに感心したようだ。

バッカンさんの場所を離れると、俺がエトワールさんに尋ねる。


「バッカンさんって、そんなに有名なんですか?」

「そうね、有名って言うよりも、知る人ぞ知るって感じかしら?

一般には知られていないけど、ゴーレム使いの人の間では有名な人よ」

「エトワールさんが憧れていた人って、バッカンさんだったんですか?」

「ああ、それは違うわ。

 バッカンさんはもちろん尊敬しているけど、私の憧れている人はまた別の人で、この前も言った通り、今回の試合に出場しているわ」

「そうなんですか?」


その先にはまた大きな区画があった。

そこはただ大きいだけでなく、人もずいぶん居て混んでいる様子だ。


「あれ?またずいぶんと大きな区画がありますね?」

「ああ、これはノーザンシティの区画のようね」

「あのゴーレムで有名だって言う?」

「そうね」

「へえ、それは楽しみですね」


そういえば確か今回は高レベルのジャベックを売り出すとか聞いている。

どういう物を売るのか興味深い。

もし良さそうだったら俺も一体買ってみたいと思った。


俺はそう思って展示品を見始めた。

いくつかの展示品を見て回ると、そこには俺の顔見知りもいた。

サイラスさんとザイドリックさんだ。


「あれ?サイラスさんとザイドリックさん?」

「おや、これはホウジョウさん、こんにちは」

「おう、ホウジョウの!」


二人とも機嫌よく俺に挨拶をする。


「こんにちは、二人ともここで何をしているんですか?」

「ああ、私達は例のジャベックを買いに来たんですよ」

「ああ、あのレベルの高いという?」

「そうだ、レベル150の奴が格安に売り始めるって聞いてやってきたんだが、確かに安い」

「どれ位の金額なんです?」

「レベル150で戦士型の戦闘ジャベックが金貨120枚、魔戦士型で準魔道士級の物が金貨230枚、魔法使い型で魔道士級の物が、やはり金貨230枚ですね」


そう言われてもあまり相場がわからない俺が二人に聞いてみた。


「それは安い方なんですか?」

「ああ、まさに格安だな!

 レベル150もあって、金貨が120枚程度で買えるジャベックなんて、よほどの粗悪品でもなきゃありえないぜ?」

「そうですね。

 私も魔戦士型ジャベックで、それも魔道士級の魔法が使えて金貨230枚などというのは初めて聞きました。

量産型とはいえ、これはかなり破格の値段ですね。

しかもノーザンシティの作品となれば、戦闘用と言えでも汎用で、かなりの活躍が期待できるでしょう」

「そうなんですか?」

「おう、だから俺もこの際だから多少無理をしてでも2・3体買っておこうかと思ったんだが、今回はお一人様一体までと来たもんだ。

しかももう全部売り切れなんだぜ?

俺は魔法使い型を1体買えたから良かったけどな!」

「え?じゃあ、もう買えないんですが?」

「ええ、私も魔戦士型を一体買って、もう一体、魔道士型を購入しようとしたのですが、ダメでした。

残念ながら今回の取引分はもう全部完売で、後は予約待ちだそうですよ。

格安とは言え、金貨200枚以上もするのに、もう完売とは凄い人気です。

もっとも魔道士並に魔法が使えてこのレベルならば、金貨500枚以上が相場なので、当然かも知れませんね」


それを聞いて俺は残念がる。


「ええ?それは残念ですね?

私も1体位は買おうかと思っていたのですが・・・」

「そりゃ残念だったな。

だがお前さんにはレベルが冗談みたいな奴が2体もいるんだから、そりゃ贅沢ってもんよ」


そう言ってザイドリックさんは改めてガルドとラピーダを眺める。


「それはそうですが・・・」


少々残念がる俺にサイラスさんが話しかける。


「まあ、一応見本は見れるようですから、参考までに御覧になっていってはいかがですか?」

「ええ、そうします」


そう言って俺はみんなと見本のジャベックを見に行った。

見本展示の場所に行くと案内をしてくれる少年がいた。


「いらっしゃいませ、ジャベックの見学ですか?」

「はい、そうです」


そのやさしく微笑む少年を見て俺は驚いた。

何?この案内係?

俺と同じ年位に見えるけど、フワッとした柔らかそうなゆるい波がかった金髪で、やさしい笑顔。

もちろん顔は非常に整った美少年だ!

物腰も優雅で気品があって、まるでどこかの王子様みたいだ。

俺が女だったら絶対に惚れるわ~!

その少年が説明をしてくれる。


「こちらで展示しているのはノーザンシティが誇る最新型のジャベック3体で、それぞれ戦士型、魔戦士型、魔法使い型の3種類です。

残念ながら今回は全て売り切れてしまいましたが、今後の参考のために、どうぞ御覧になっていってください」

「わかりました」


俺はそう言って、みんなと展示されているジャベックを見始めた。


戦士型ジャベックは、見た目が屈強な赤い髪の毛の青年型ジャベックだ。

うちのガルドにちょっと似ている。

攻守のバランスもよく、確かに前衛で大活躍しそうだ。

魔戦士型ジャベックは黄色髪で20代の美女型ジャベックだ。

攻撃と防御は戦士型とほぼ拮抗していて、魔道士に近い魔法も使えるようだ。

魔道士の呪文で使えない呪文は使役物体魔法だけなので、準魔道士級と名乗っているようだ。

魔法使い型は魔戦士型のジャベックと同じく女性型だが、こちらは青髪で、少し背が小さい。

完全に魔道士級の魔法が使えて、それは魔法協会も認定しているとの事で、魔力量も魔戦士型よりもかなり多いらしい。

その魔力量は5万以上以上もあって、戦闘タロスを400体以上出せるのが自慢らしい。


この3体は全てノーザンシティの公式発行物で、アースフィア広域総合組合の一級審査魔物であるキマイラを単独で倒す保証がついているそうだ。

しかも、魔戦士型と魔道士型は、魔法協会がそれぞれ準魔道士級と魔道士級に公式認定をしているという優れものだ。


確かにどれも中々優秀そうで、俺も感心した。


「これは全部中々強そうだね」

「ええ、ただ強いだけでなく、知能も高く、使い勝手も良さそうです。

流石に汎用型だけの事はありますね。

これが金貨230枚とは驚きの値段です」


エレノアも感心して説明をする。


「やっぱりそれはかなり安いんだ?」

「そうですね。

例えば多少は魔法を使える奴隷が金貨150枚から200枚程度。

滅多にありえませんが、もし正規の魔道士が奴隷になどなれば、最低でも金貨300枚以上は間違いありません。

この魔戦士型と魔法使い型は魔法協会が公式に認定をするほどですから、実際の正規魔道士と、ほぼ実力は拮抗すると考えて良いでしょう。

しかもレベル150とは普通ならありえません。

通常の正規の魔道士でも、レベルは50から80程度が普通ですからね。

それほどの性能を持ったジャベックが量産されて、この金額で売買されるとは正直驚きです。

これだけの性能を持っていれば、普通は金貨500枚以上が相場でしょう。

何しろ高レベルの魔道士を一人買うのに近いですから」

「やっぱりそんなに凄いんだ」

「そうですね。

 例えば汎用性や使える範囲、日常会話でしたらテレーゼの方が上でしょうが、こと戦闘に至っては、テレーゼよりもこちらのジャベックの方が上でしょう。

レベルは150ですが、実際には装備を整えれば、レベル200程度の活躍が可能でしょう。

人間の装備で機能を強化可能なのも人型ジャベックの利点であり、強みですから」

「なるほど」


確かに煉瓦を積み上げたようなジャベックや岩石型のゴーレムでは普通の人間用防具を装備をするのは不可能だ。

俺が感心していると、シルビアさんやエトワールさんも賛同する。


「ええ、私も感心しました」

「私もよ!

是非一体欲しい所だけど、いくら安いとは言っても、金貨230枚は厳しいわね。

私にはちょっと高い買い物だわ」

「そうね。

さすがに私達の給料ではちょっと難しいわね」


確かに金貨230枚と言えば、令和の世で言えば2300万円位になるだろう。

それこそ高級車か、ちょっとした家かマンションが買えてしまう。

しかしそれでもこのジャベックを見た人たちが、誰も高いと言わない所を見ると、このジャベックにはそれだけの性能があるという事か。


大会初日はこんな感じで一通りの見学をして家に帰った。

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