DAY1-6 花田
八月十七日 十四時 国営テレビ渋谷スタジオ 花田直哉
国営テレビの取材まで後数分だった。クロックイズヘッドの社内に帰った時にまた一人死んでいたらと思うと落ち着きがなくなる。スーツとネクタイを触るとメイクの人間に怒られる可能性があることもあり全てのソワソワ感が貧乏ゆすりに集中していた。国営テレビのスタッフ達は渋谷にある大きなビル中にあるスタジオで白を基調とした部屋を作り取材の準備をしている。
楽屋があると思ったが他にも取材対象者が数名奥の方で待機している。リモートで取材を受けるのは都外の「プロ」のみのようだ。マスクをギリギリまでつける必要があるため照明の暑苦しさと相まって気分が悪い。一時間で帰れるとはいえ今をときめくネットメディアをよく知る教材のダイジェスト版の一部になるだけの仕事だった。
一人をピックアップして取材する「プロの真髄」製作陣営から声がかかるのはこの先無いような気がした。日々努力し続ければ十年後くらいには出演できるかも知れない。椅子に座りながらクロへで問題が起きていないかスマホの通知を頻繁に確認していた。
「今のところ問題なし。なんか嫌な予感がするな。警察も事故の処理だけをして特に会社に入ってくるわけでもなさそうだ。そんなものか」
涼しい顔をしてインタビューに答えるのは無理かもしれないと思っていたが不思議と落ち着いてきた。緊張には強い方かも知れない。
これ以上何も起きなければなんの問題もない。テレビの台本を見る。いつもならこれがテレビの台本かと気分が盛り上がるところではあるのだがパラパラとめくってため息をついて椅子の下に置いた。ネット配信が誰でもできる時代になってから台本の類はどこにでもあるし突貫で作ったものよりも綺麗にレイアウトされているに過ぎない。アシスタントディレクターが声をかけてくる。
「あ、花田さん台本に目を通されましたか。カメラに映るとアレなので荷物もまとめてあちらに置いておきますね。メイク直します。あのメイクさん髪直して」
どうやら速急に俺のインタビューを片付けようとしているようだ。俺はクロックイズヘッドの立ち上げに参加したメンバーの一人ではあるし現在株主を除けば実質社長なのだが。会長「工藤蓮斗」は今、ロサンゼルスにいるらしい。まあこの世のどこかにいる。
たまにリモートで社員を集めて雑談するときは日焼けしているからハワイにいるかもしれない。俺は現社長として会社のまとめ役をしているわけだがクロックイズヘッドは中小企業の中でも小さい方なので広告収入や宣伝のロイヤリティーは余るほどある。新しい生き方働き方の中では無から有を作るのではなく。有るものを共有するのがコンセプトだ。 一人一人の賃金も上方修正した上で六本木のような大きなビルに社を移すことも夢ではない。決めるのは会長の工藤なのだが。
こういった感じだろうか今日インタビューで言うことを頭の中で確認したもちろん画面の向こうに不快感を与えないように丁寧に語るつもりだ。態度が悪いとすぐにネットでこき下ろされてしまう。
こういったことを考えている様子をボーッとしている姿と思われたようだ。
「花田さん、そろそろ荷物をどけてもらっていいですか。すいません」
「ああはいすいません、実は現在、社員が事故で二人も死んでいて携帯はマナーにしておくのでなるべく近くに置いてもらっていいですか」
「あ。それは大変ですねわかりました撮影スタッフに持っておいてもらいます」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
カバンの中にスマホをしまうとき雑に小さいポケットに刺してある名刺が目に止まった。
「刑事の桜庭だったっけ。呪いの映像、ではなくてなんかの傷害事件として調べているのかもしれないな。電話番号を登録しよう。名前を入れないとな。すいません。少し電話使います一分ください」
「ああハイ勿論。どうぞ」
白い背景布の上でスマホをいじる。クロックイズヘッドでは派遣も雇う事が多いがみんな大事な社員だ。面接の段階で自由でそれでいて苦悩やコンプレックスを抱えていても社会を見つめる事ができる人間ばかりで気が合うのだ。そう何人も死んでもらっては困る。
中には社長になるための足がかりとしていきたいと言うような奴もいるが日々ニュースを見ている人たちに情報を繋いでいくことを忘れて自分が主役になりたいやつはダメだ。くだらない情報でもそれを通じて繋がっているのだ。
なぜか感傷的な気分になった。そうやって人材を厳選しても派遣はすぐに「貴重な経験をした」といってやめていく。人事など長くやっていないので別の意味でも不安に駆られる。また二人。しかも深夜担当とアニメ担当を新卒や既卒、転職の枠から採用するのは非常に面倒だ。
インタビューが終わったら刑事に電話だ。
「桜庭ってラグビー選手の名前みたいだな」
「荷物預かりますよ花田さん。撮影二分前―」
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