第31話 愛の園

 その日、真一郎は房江の小さなアパートの部屋にいた。そこは狭い部屋だったが、キチンと整理され清潔感が漂っていた。最近、真一郎が訪れるためにおそろいのカップや、泊まったときの為の、男性用のパジャマ等をそろえているときの房江は幸せだった。

 真一郎は房江との結婚の約束をしたわけではない。しかし、二人の心の中には暗黙の了解があった。いつか、そのときが訪れたときにと……。


 それはいつも真一郎が忙しいのを房江が知っていたからであり、少し落ち着いたら真剣に話そう……。

 それが房江の偽らざる気持ちであり、真一郎もそれに近い考えだったが、今はそれに浦島愛子のことが重なり、房江を想う彼の気持ちは憂鬱だった。


 それゆえに房江には浦島愛子との見合いの話しはしていない。何度もそれを告白しようとしたが、彼女の心を思うと気が優しい真一郎にはそれが出来なかった。このときの彼の決断の甘さが関わった人々を翻弄ほんろうさせてしまうことになるとは、彼自身も思っていなかったのだが。


「真一郎さん。また来てくれたのですね。こんな狭い部屋なのに。房江は嬉しいです」

「このところ忙しかったので……ごめん」

「いいえ。いいんです。あなたがこの部屋に来てくれるだけで嬉しくて」

「ええ、僕はこの部屋に来ると落ち着くんです」

「そうですか、真一郎さんにそう言って頂くと房江は嬉しいです」


 愛する者同士が、結ばれるのは自然の摂理と言えるのではないだろうか。お互いを見つめ合い、ひしと抱き合った後で、二人はやがて着ている物を脱ぎ捨ててアダムとイブの姿になった。それから布団の中に潜り混み、抱き合いながら身体をピタリと重ねていた。


 熱い体温が二人の絡み合った身体をとおしてお互いに導体のように伝わり、じわじわと芯から暖めていく。房江は熱い乳房を真一郎の胸に押しつけ、真一郎は固くなった彼の陰茎を房江の太股に押しつけていた。子供のようにじゃれながら汗ばんでいく二人。少し恥じらいながらも少しずつ房江の額には汗が流れそれが滲んで光っていた。


 真一郎の身体は学生時代からなんでもスポーツをこなしているためにアスリートのような見事な身体をしている。

 抱き合いながら、房江はその身体を慈しむように触れて撫で回し、唇で引き締まった真一郎の体躯にキスの嵐を浴びせた。


「くすぐったいな、房江さん」

「あのお願いが……」

「なんでしょう?」

「もう、こういう仲になったのですから、わたしのことを『房江』と言っていただけますか?」

「そうですね、房江、これでいいですか」

「あん、嬉しいです。もっと強く抱いて……」


 その返事の代わりに、真一郎の手は真っ白く汗に濡れて光るビーナスのような房江のヌードを抱きしめていた。とろけるような肉体の柔らかさと滑るような感触を感じてさらに彼のものは固くなっていく。それに応えるように房江の秘部はしっとりと湿り始めていた。


「欲しいです。あなたが……」

「えっ……このままでいいのですか?」

「ええ……」


 その行為はまだ結婚を誓った仲ではないのに、それを確信している二人だからこそ突き進むことが出来るのだろう。その結果が思わぬ結果になるとは夢にも思わない二人はその禁断の園の中に入っていった。


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