第3話 女という悲しい性
ひろみは慶次の秘書になる前は庶務課の事務員だった。あるときから慶次は、事務処理に長けて美人の彼女の存在を知った。
そのひろみには彼氏がいないことも分かっていた。
そのとき慶次にはその程度の認識しか無い。一般的に、一介の事務員から社長秘書ともなれば異例の抜擢である。結果的にはそうなったが、その一端を知れば『青木ひろみ』と言う一人の女性の生き様が見えてくる。
ひろみが聞いた条件とは、社長の慶次の愛人になることであり、考えた末に彼女が決断した結果はそれを受け入れることだった。それは悲しい女の
彼女が身体を張って貰う愛人手当の中から、病気がちの母と、妹の二人だけの実家に毎月の仕送りをしていた。それがひろみを決断させた唯一の動機だった。
入社していた頃は、実家への仕送りのために受け取る給料では足りずに、休日などもアルバイトもして、彼女は
そのために結果的には、彼女の肉体と心は彼に捧げたようなものである。実際にはバーキンの高級バッグ等、慶次にせがんだ物は買わずに貯めて、こっそりと仕送りに当てたし、ミニスカートも慶次の好みに合わせて身につけていた。
しかし、慶次がマンションにやってくる時以外では、ひろみの装いはどちらかというとジーパンなどのラフな格好が多かった。それを慶次は知らない。いわゆる、ひろみは自分を使い分ける二面性を持った女だった。
(これでいいの、私がこうすることで母や妹達があのどん底の世界から抜け出して、少しはましな生活が出来るのだから……)
同僚や他の社員の中で、そんなひろみを冷ややかに見る視線を感じながらも彼女はじっと耐えていた。本来は真面目な性格だけに、罪悪感を感じないわけではなかったが、今はそれを割り切るしかない。
(今夜は慶次さんが好きなお酒を買って、煮物でも作って待っていようかな……)
秘書になる前に、付き合っていた彼氏とは別れ、今は慶次に借りて貰った高級マンションで抱かれている時間以外のひろみはいつも孤独だった。そんな彼女に近寄る男はいなかった。
そんなひろみだったが、いつしか慶次の相手をしている内に彼の好む女になっていたし、彼の好む嗜好品まで知り尽くしていた。
この先がどうなるかは分からない。しかし、人から指を指されるような愛人生活を続けながらも、その生活を捨てられなかった。
家計を助けるために地方から上京し、アパートの部屋を借り、苦しくとも働きながら経理の専門学校に通い学んでいたころは真面目な学生だった。
しかし、アルバイトをしながら誰に頼れるわけでもなく、実家への仕送りをするのは大変だった。ギリギリの生活の中で、食べるものにも事欠いていたこともある。
辛うじて入社できた慶次の会社の事務員となり、たまたま社長の慶次の目に止まってからは、青木ひろみの人生は大きく変わった。
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