『無能』扱いで追放されましたが、実は『バフ』に特化していたことが判明したので最強のパーティーを作ろうと思います
たけし888
第1話 『無能』、追放される
「はあぁぁぁ……」
「おい、うるさいぞ無能」
僕は馬車の中で大きなため息をついていた。
つきまくっていた。
そんな僕を、一緒に乗り込んだ兵士さんが小突いてくる。
「護衛がついただけありがたいと思えよ。
街からほっぽり出されて野垂れ死ぬ奴も大勢いるんだぞ?」
「そうですけど……今向かってるとこもそんなにいい場所ではないじゃないですか……」
「しょうがねぇよ、だってお前『無能』なんだから」
「ぐうぅぅぅ……」
僕はまた深々とため息をついた。
状況を説明しよう。
僕はいま、王都から辺境の田舎町へと追放される真っ最中だ。
それというのも、原因は僕が『無能』と診断されてしまったことにある。
*****
「アルテミー王国へようこそいらっしゃいました!
あなたが新しい転生者の方ですね!」
「は? なんですかこれ? トラックは……?」
「うん? ……チッ、分かってねぇタイプの転生者さんですか……」
確か僕は、ボールを取ろうと道路に飛び出した女の子をかばって車に激突したはず。
それが気付いたら荘厳な神殿みたいなところにいて、しかも神官っぽい人にいきなり舌打ちされるってどういうことなんだ。
「簡単ですよ。
あなたは死んだ、そして魂を異世界からこの世界に移されてきた。以上です」
「えぇぇ……!?」
「しょうがないでしょう、神様が勝手にやってることですから。
ほら、さっさとコレを付けてください」
「これ……リストバンド?」
「曲がりなりにも転生してきたということは、神様が何かの才能を見出したということです。
これはそんな貴方が与えられた、特別な『スキル』を確認するための装置。
いいから付ける!」
「はっはいっ!」
……
…………
………………
「あの、何も起きませんよ?」
「……はぁ。あ~、ご愁傷様です」
「えっ何!? 何なんですか!?」
分からないことだらけの僕に対し、神官さんは容赦なく告げた。
「反応なし。つまり貴方には何の『スキル』もない……『無能』ってことですね」
「えぇぇ!? 失礼にも程があるでしょう!」
「こんなこと滅多にないんですけどねぇ……まぁこうなったらしょうがないです。
E級扱いで登録……と」
「あの……僕はこれからどうなるんですか?」
「安心してください。
こういったカスみたいな転生者が現れた場合でも、我々転生神殿はきちんとしたサポートを提供しています」
神官さんは満面の笑みで言った。
「カネも後ろ盾もスキルもない。
そんな人間が王都で生きていくことは不可能です。
ですから貴方には、これからE級冒険者に相応しい辺境へ行っていただきます」
*****
そんなわけで、僕はあれよあれよと言う間に辺境行きの馬車へ乗せられたわけだ。
「めちゃくちゃじゃないですか。
僕の1つ後に来てた人は『キャー! 激レアスキルの二刀流じゃないですか!! すぐS級冒険者として登録させていただきます!!』なんて言われてたのに」
「ふーん。どうせならそいつに媚売っておけば良かったのにな」
「イヤですよそんなの!!」
僕が不満をうだうだ垂れ流していると、兵士さんはドスッと壁を殴りつけた。
地面を行く馬車の揺れとはまるで違う衝撃に、僕は固まってしまう。
「『無能』のくせして他人に頼るのもイヤだってか、あぁ?
世の中そんな甘くねえんだよ、ガキが……。
どんな手を使ったってな、強い奴が正義なんだよ。
この世界で生き残りたいなら、よく覚えとけ」
「は……はい……」
それからは馬車が目的地に辿り着くまで、二人とも無言のままだった……。
*****
「うわぁ……田舎町っていうか、これは……」
貧民街。
僕が送り込まれた街の様子は、そんな感じの第一印象だった。
建物はけっこう立ち並んでいるし、人も居ないわけじゃない。
ただ、この空間の雰囲気は全体的に暗かった。
建物の壁はラクガキだらけだし、道にゴミは散らかってるし道行く人の目が死んでいる。
直感的に分かってしまう。
ここは僕みたいな『無能』、それかもっと良い街でマトモな生活を送るのに失敗した人達が流れ着く場所なんだ……。
「おい、キミは新入りか?」
「えっ!? はっ、はい! 今来たばっかりで」
突然肩を叩かれ、驚きながら振り返る。
そこには他と違った雰囲気をまとった男性が居た。
「かくかくしかじかで……」
「なるほどな……可哀想によぉ!
見てられねぇ……!
オレが力になってやる!」
「ほ、本当ですか!」
よかった!
こんなところにも僕みたいな弱い人を助けてくれる良い人が居るんだ!
「ああ、まずはこの街を案内する。
それから安全な寝床とギルドを紹介しよう。
ただオレにも生活があるし、いつ暴漢に襲われるか分からないからな。
タダとは言いにくいが……」
「そ、それなら大丈夫です!
神殿の人に手切れ金を持たされました」
僕はあわててカバンから革袋を取り出す。
確か銀貨が10枚と銅貨が20枚……装備とかを買って数日食べるのには苦労しない量、らしい。
どれくらい渡せばいいかなと思っていると、男性が突然明後日の方向を指差した。
「あ! やべえ! あっちに魔物が!!」
「えぇ!?」
街中に魔物なんて大変だ!
と思って指差されたほうに目を凝らすけど、何も居ない。
あ、いや正確に言うとネコがいる。建物の陰でゴロゴロしている。
「あのネコが魔物なんですか……って、あれ?」
ついさっきまで手に感じていた重量感がない。
振り返ると、さっきの男性はいつの間にか遠く離れていた……!?
「はっ、バカがよぉ!
他人の前で油断したらカモられるってこと、これを勉強代にして覚えとくんだなぁ!!」
ハメられた!!
あいつ、僕の全財産を騙し取って行ったんだ!!
「くそっ! 待てぇ!!」
必死で追いかけるけど、いくつか角を曲がったところですぐに奴を見失ってしまった。
あいつは多分ずっと前からこの街にいるんだ。
いきなり来た人間には分からない裏道なんかも知っているんだろう……。
*****
良い人に案内してもらえると思ったのに、実際は有り金を奪われただけ。
結局知らない町に放り出されて右も左も分からないままだ。
僕は絶望して、道端に座り込んでしまった。
「はぁぁぁ……」
「はあぁぁぁぁ……」
また重たいため息をついていると、すぐ横から負けず劣らず大きなため息が聞こえた。
「なんだよ、うるさいな……」
「なによ、うるさいわね……」
顔を見合わせる。
そこには金色のショートヘアをした蒼い目の女の子が座っていた。
僕と同じように、いかにも安い布の服とズボンを着ている。
「……じろじろ見るんじゃないわよ。変態」
女の子は胸を隠すように腕を組んだ。
そんなとこ見てないってば……。
「変態じゃない……僕にはちゃんとリムって名前があるんだぞ」
「はぁ……そう。あたしはミア。これでいい?」
「なんなんだよもう……」
ミアは僕に警戒の色を隠さない。
どうしてこう、この世界の人って初対面から感じ悪いんだ。
「いや……あれ? もしかして」
「何よ」
「もしかしてなんだけど……キミ……お金盗られた?」
「………………」
「図星だ」
「な、な、何よっ! あたしは何も悪いことしてないわ!
ただ魔物が居るとか言われてびっくりしたスキに盗られただけで……」
あ、これ完全に同じ犯人だ。
座り込んでたのも僕がちょうどアイツを見失った場所だし。
そういうことなら、周りを警戒するのも無理ないか……。
僕の事情を話すと、彼女は少しだけ態度を軟らかくした。
「なんだ、そうだったの……リム、あんたバカなのねぇ」
ミアはアハハッと愉快そうに笑う。
唇の端から真っ白な八重歯が覗いて、僕は何だか小動物みたいだなと思った。
この世界に来てから、ようやくちゃんと名前を呼んでもらえたけど……
でも、やっぱり見下されてるな。
「バカバカって、ミアには言われたくないよ……」
「うぐ……う、うるさいわね『無能』のくせに」
「ぐう……! そういうキミは『無能』じゃないって言うのかよ!」
「そりゃそうでしょ!
アタシにはきちんとしたスキルが与えられてるんだから!」
「……じゃあ何でこんなとこに居るんだよ」
「いや……アタシが転生した神殿は別のとこだったけど、
普通に『このレベルのスキルだとこちらの町が丁度いいですね~』って言われて……」
「やっぱり同じようなもんじゃないか……
あれ? でも待てよ」
「なによ」
「それでも一応スキルがあるならさ、普通に戦ったらあんなヤツ倒せるんじゃないの?
泥棒してるようなヤツだし……」
するとミアは、あんぐりと口を開けた。
「な、何だよその顔は」
「変態……あんた賢いじゃない!」
「だから変態って言うなって!」
こうして僕たちは、イチかバチかあの泥棒を探し出すことに決めたのだ。
*****
「ようやく見つけたわね……!」
「うん……ネコが通るような道の先に居るとは思わなかったけど……」
「でも、これで街の外れと正門を行き来できるんだから隠れ場所としては最適だわ」
僕らは町と森の境界線にほど近い郊外までやって来た。
体感で1, 2時間くらいかな?
けっこう歩き回ったけど、ようやく泥棒のキャンプを見つけ出せた。
「ひいふうみい……へへ、今日はツイてたな……」
あいつは熱心にコインを数えていた。
僕らから奪ったお金を勘定しているんだろう。
許せない……!
「まだ気付かれてないみたいだ。今のうちだよ!」
「そうね……あんなヤツに容赦しないわ!」
ミアは意を決したように、正面に手を構える。
何もなかったその場所には、次第に熱く燃え盛る火の玉が出来上がっていく……!
「喰らいなさい! 『ファイアボール』!!」
ドヒュゥッ!
ミアが叫ぶと、火の玉が一直線に泥棒へと突き進んでいく!
火の玉はそのまま直撃して──
直撃して、空中でフッと消え失せた。
「あん? なんだ──
あぁ、そういうことかよ」
泥棒がこちらに気付き、ゆっくりと振り返る。
「な……何なの? 後ろから撃ち込んだのに……」
「ふーん。ちったぁ頭を使ったみてぇだけどよ」
泥棒は挑発するように、自分の頭をこつこつと指でつついて見せる。
「まだオツムが足りなかったみてーだなぁ?
こんなトコでキャンプするからには、
身の回りに防護呪文を敷いてるに決まってんだろうがぁっ!」
ドドドッ……!
泥棒は叫びながら、凄い勢いで突進してくる。
ギリィッと音を立てて抜かれたのは、いかにも重たそうな真剣……!
「危ないっ!」
「きゃあっ!」
僕はミアをかばって前に飛び出す。
その直後、横に振り払われた長剣の腹にぶつかってしまう。
「うぐぅっ……!」
「まだまだぁ!!」
泥棒は僕がよろめいたのを見逃さず、思いっきり蹴りつけてきた。
地面に倒れ込んでも、何度も何度も柔らかい腹を蹴ってくる。
ドスドスと鈍い音が辺りに響く。
「うぅ……はぁ……はぁ……」
「はっ……真っ二つにされなかっただけ感謝するんだな」
「リムッ!!」
悲痛な叫び声を上げてミアが駆けてきた。
握られた手をよろよろと掴み返す。
「なんなのよアンタ……さっき会ったばっかのアタシにこんなこと……」
「それでも僕のこと……初めて名前で呼んでくれた人だから……」
「は、はあぁ……? バッカみたい……」
「おい、何終わった感出してんだよ」
「ひっ!?」
いきなり、泥棒がミアの髪の毛をグッと掴んだ。
「お前らまだ"謝罪"をしてねえよなぁ?
いきなり人様に攻撃呪文撃ち込んでおいてよ、殴られたくらいで被害者ぶってんじゃねぇぞ」
「なっ……離して……!」
「謝れっつってんだよ。
『おカネを盗られたクソザコ冒険者の分際で刃向かってすみませんでした』ってな」
「誰がそんなこと……!」
「……ミア、ダメだ……僕が代わりにあやま、がぁっ!!」
「リムッ!」
今度はみぞおちを蹴られた。
痛くてまともに声が出せなくなる。
「お前には聞いてねぇんだよ。
つまんねー男なんかよりオンナの媚びる声が聞きてえんだわ。分かるか?」
「あぁ……ぐ……」
「おい、ガキ。キチンと謝れねぇなら、コイツ殺すぞ」
つぅっ……
僕の首に、泥棒の持つ長剣があてがわれる。
泥棒が少し手を動かしただけで、それは薄い皮へ食い込んで赤い血を流した……。
そんな光景を見て、ミアは僕の手をさらに強く握る。
白い肌を屈辱で真っ赤に震わせながら、とうとう絞り出すように声を上げた。
「すみません……でした……」
「あ? 聞こえねーよ!!」
「おカネを盗られたクソザコ冒険者の分際で……刃向かってすみませんでした……ッ!!」
泥棒はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべた。
「もういいでしょ……言ったから! 謝ったから……見逃してよ……!」
「見逃さねえ」
「ひっ!?」
泥棒が再びミアの髪を強く掴む。
男の顔はサディスティックな喜びに満ちていた。
「その嫌がる顔……たまんねえな。
そそるわ。ソイツの目の前でひん剥いてやる」
「ぐっ……この……!」
「イヤ……イヤイヤイヤぁっ!!」
ミアを守りたくても、僕にはもう身体が動かせない。
繋いだ手さえも男の力で引き剥がされそうになる。
それでも諦めず、ミアは必死にもがいて──
「離してよぉぉっ!!!」
ドゴォォォォォッ!!!!!
バキバキバキッ……ズゥゥ……ン……
「……あれ?」
暴れたミアが片方の手で男の胴を叩くと、その瞬間男が消えた。
どこに行ったんだ!?
痛む身体をよじってあたりを見回すと……
「あれ……あの……ミア……あっち見て……」
「え? あ……えぇぇっ!?」
男が居たのは、森の中だった。
正確に言うと、何本も薙ぎ倒された木の上に倒れ込んでいる。
その身体はピクピクと痙攣していて、僕と同じくらい、いやそれ以上に弱っているようだった。
「わぁぁぁっ!? なんでなんでなんでっ!?」
「わかんない、わかんないけどあのままだと死ぬよあの人! 助けっぐうぅう!!」
「あぁもうリムは動いちゃダメでしょ!! とにかく誰か呼んでこないと!!」
「うぅ……早目にお願い……」
こうして、僕たちは悪人を撃退することに成功した。
成功した……というか、結局なんで男が吹っ飛んでいったのか分からないんだけど……。
その後は何人もの人が助けに来てくれて、僕たちはまたどこか知らない場所へと運ばれていった……。
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