第7話、転生希望者はみんな、『死にたがり屋』?
「──どうして、どうしてなの? どうして、私の邪魔ばかりするの⁉ 私はただ、
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【内務省警視庁衛生部直轄、『転生病監察医務院』にて、前回に引き続いての、監察医務院警務課主査警部と、聖レーン転生教団渉外担当司教との、極秘会話
「……いや、乙女ゲーム転生は、異世界転生じゃないだろう?」
「えっ、そうなんですか? ──ていうか、最初に突っ込むのが、そこなんですか⁉」
「ううむ、こうして転生病監察医務院なんかに勤めていると、どうしても細かいところまで、気になってしまってな。まあ、一種の職業病みたいなものさ」
「……あー、わかります。私も転生教団においては、特に外部との窓口を担っていますので、そう言ったところはありますねえ」
「あのな、『ゲーム転生』って、現実世界の人間が、ゲーム内のキャラクターそのものに──すなわち、『デジタルデータ』になることなんだぞ?」
「は?」
「ほら、数十年前に一世を風靡した、『SA○』なんかが、いい例だよ」
「ああ、『VRMMOの世界へのダイブ』ってことですね。……なるほど、ゲームの世界に『転生』──すなわち、『生まれ変わる』と言うことは、ちゃんとゲームのキャラとして、デジタルデータ化しないとおかしいと言うことですね?」
「それに対して、この転生病患者のような『なろう族』の憧れの、非合法な異世界転生系のWeb小説で言うところの、『乙女ゲーム転生』は、けしてゲーム転生では無くて、『ゲームのような異世界への転生』に過ぎないんだ」
「つまり、俗に言う『ゲーム転生』とは、厳密には『ゲームの世界への転生』では無く、『ゲームそっくりだけど、あくまでも異世界への転生』というわけですか?」
「そういうこと。そしてVRMMOなどでは無く、異世界といえど『現実の世界』であるならば、量子論等に則るまでもなく、その未来には無限の可能性があり得るので、『ゲームの知識』なんて何の役にも立たず、異世界転生系のWeb小説によくあるような、常に主人公にとってのみ有利に事が運ぶ、御都合主義的展開なんて、絶対にあり得ないのさ」
「──乙女ゲーム転生、全否定ではありませんか⁉」
「ていうか、この囚人──もとい、患者の盗聴記録──もとい、独白記録って、もはや異世界転生希望と言うよりも、『自殺志望者のメンヘラ告白』以外の何物でも無いじゃないか?」
「そりゃそうですよ、何せ『転生』と言うくらいだから、この現実世界で『死ななければ』、異世界に行くことはできないのですからね。──それに何よりも、あなた方内務省警視庁衛生部における、異世界系Web小説の非合法化のためのお題目は、『異世界転生系の創作物は、自殺教唆の効果が高いから』ということだったじゃないですか?」
「くくく、どんなに『表現の自由』を尊ぶ輩であろうが、『自殺を促す作品』だけは、その絶対的禁止に、無条件で賛同してくれるからな」
「……何か、『拡大解釈』と言うか『言いがかり』と言うかのレベルですが、我々教団にとっても、好都合ですので、これ以上言いますまい」
「好都合って?」
「──もちろん、転生病患者たちの身に、異世界から『オーク』や『ゴブリン』等の精神体だけを転生させて、理性や知性を奪い凶暴化させて、自爆テロも辞さない狂戦士に仕立て上げるための、人体実験を実施する上でですよ」
「ええっ⁉ 乙女ゲーム転生希望のメンヘラ女たちまで、戦争やテロに使うつもりだったの?」
「だって、いかにも荒事向きじゃない、陰キャのオタク女のほうが、群衆の中に溶け込みやすく、敵の油断を誘って、突発的なテロ行為等に打ってつけじゃないですか?」
「……うん、その非人道的な作戦案はともかく、乙女ゲーム転生者を十把一絡げに、『陰キャのオタク女』と決めつけるのはやめような?」
「おや、どこが非人道的なのですか? 完璧にご本人の希望を叶えて差し上げているというのに」
「は? 犬死に確実のテロ行為が、転生病患者たちの望みを叶えるだと?」
「何せ、この現実世界で
「──っ」
「しかも本当に、異世界転生をさせてあげるのですから、むしろ『至れり尽くせり』ですしね」
「……異世界転生って、あくまでもこの世界で、『オーク』や『ゴブリン』になることがか? ──いや、あいつらは他の世界で生まれ変わって、乙女ゲームのヒロインになりたいのであって、全然望み通りでは無いのでは?」
「はあ? 何をおっしゃっているんですか? もはや物理学の基本的理論を紐解くまでもなく、世界というものはその時点においては、『ただ一つしか存在しない』のですよ? 異世界転生だろうがタイムトラベルだろうが、三流Web小説でもあるまいし、他の世界や時代と行ったり来たりなんか、できるわけないじゃないですか?」
「──今度は、異世界転生自体を、全否定かよ⁉」
「だったらお伺いしますけど、人類史上初めて異世界転生が実現した、かの『令和事変』においては、あなた方の国の自衛隊は、『何』と闘われましたっけ?」
「うっ」
「……ほんと、すごい闘いでしたよね。敵『異世界帝国軍』の最初の出現地である
「……ああ、
「しかも、完全に不意討ちでしたけど、そりゃあ誰にも予想できませんよ、警視庁の機動隊さえ手をつけられないまでに凶暴化した、暴徒を鎮圧しに出動した自衛隊において、一部の10式戦車が突然、同じ自衛隊の部隊に対して砲撃を始めるなんてね」
「──ち、違う! あれは同士討ちなんかじゃなくて、自衛隊員たちが、卑怯極まる異世界帝国側の『逆転生の秘術』によって、身も心も異世界人に乗っ取られてしまっていたんだ!」
「そうです、『世界というものがただ一つしか存在し得ない』この現実世界においては、Web小説あたりの異世界転生や異世界転移なぞ、けして実現するはずがなく、自衛隊が異世界の軍団と闘う場合においても、異世界から突然実際に軍隊が現れたり、自衛隊が超次元トンネル(w)を通って異世界に侵攻したりなんか、できるわけがなく、あくまでもこの現実世界ただ一つだけにおいて、あたかも自衛隊員が中二病妄想をこじらせたようにして、突発的に自分のことを『異世界帝国軍』とか言い出して、仲間の自衛隊員と闘い始める以外は無いのですよ」
「ちゅ、中二病妄想だって⁉」
「『逆転生の秘術』とか『転生病』とかって言ったところで、あくまでも傍目には、本人がとち狂ったかお芝居をしているようにしか、見えないじゃないですか?」
「──またしても、ぶっちゃけたな、おい⁉ こいつとうとう、自分たち
「このように『世界というものは一つしかあり得ない』という大前提に立てば、万一異世界転生が実現したとしても、この世界においてのみ完結しなければならず、現代日本からありもしない別の世界──いわゆる異世界に、肉体丸ごとはもちろん、たとえ精神のみでも転移するなんてことはあり得ず、あくまでもこの世界の中において、むしろ『異世界転生の受け皿』として、『異世界帝国軍』や『オーク』や『ゴブリン』とかになる以外は無いのですよ」
「……つまり『
「──そうなのです! よって、異世界からの『オーク』や『ゴブリン』等の転生の受け皿となり、その結果理性や知性を失い凶暴化して、戦争やテロによって犬死にして、晴れこの現実世界からおさらばするのは、『なろう族』の皆様の長年の宿願と合致しているのですから、心置きなく人体実験の『検体』として使い倒して差し上げようとも、構わないわけなのですよ♡」
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