彼の彼女は邪悪極まりない存在でした
火海坂猫
第一部 邂逅編
プロローグ
その日、八月蓮太は夜中に小腹が空いてコンビニへ行くことにした。時刻は日付が変わるくらいの時間であったが、こういう時に小言を口にする両親のいない一人暮らしは便利だ。
その反面学業の傍ら家事をするのが面倒ではあるが、仕送りはしっかりくれているのでちょっとした贅沢をする余裕があるのはありがたい。
コンビニはアパートから歩いて五分程度の距離にある。夜食はいつも買ってるコンビニ限定のポテチにでもするかと考えつつ、最近一軒家を取り壊してできた空き地の前を通りすがる。
そこに何かいた、のだと思う。ただそれが何であったのかを後からいくら思い出そうとしても蓮太は思い出せなかった。
ただ、名状しがたい何かがそこにいたのだけは覚えている。
それだけが事実として彼の中には残った…………それ以外は全てが真っ白だ。それを見たその瞬間に思考が全て擦り切れたらしい。
人には理解しえないその存在は、視覚から得られる情報量だけでも人の精神を破砕する。
ああ、綺麗だな
だがその真っ白な、壊れたはずの思考の中でそんなことを蓮太は呟いた。
…………らしい。
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