第15話 イジマール戦3



 あっ、よく見たら、いた! あまりにもちっこくて、気づいてなかった。

 イジマールの足元に、白くて丸っこい可愛い生き物がいる。リスかハムスターっぽいもののひたいにユニコーンみたいな一角がある。


「あれ、さっき逃げだした動物だね」

「動物じゃないぞ。かーくん。モンスターみたいだ」


 どれどれ。聞き耳はお供にも効果ある。見ると、幻獣ソロモーンって書いてある。特技は……封引? ふういんって読むのかな?


「封引ってなんだろ?」


 そのときだ。急に、目の前に、ワレスさんが姿を現す。隠れ身を解いたみたいだ。


「敵のスキルを封じ、吸いとる技だ。封じた技はそのスキルがやぶられるまで自身とそのパーティーが使用可能。しかも、対象が敵全体だな。スキルをうばっていたのは、イジマールではなく、あのチビのほうだ」


 うーん。封じ噛みの進化版みたいなものか! 敵全体がターゲットって、すごすぎる。しかも、封じてるあいだは自分たちが使えるって。封じ噛みは封じるだけなんだよ。


「それ、やられたら、また僕らのスキルがとられちゃうってことじゃないですか!」

「だから、今のうちに、おれがあのチビを倒す」


 ワレスさんは言ったんだけど、風のようにかけていこうとする彼を、ひきとめる者がある。なんと、ゴライだ。ゴライがしゃべってる!


「待て。あれはウールリカでは聖なる神獣だ。ただし、ぬしの心に依りて、善にも悪にもなる。イジマールの悪心にふれ、悪しきおこないをなしているのだ。イジマールさえ倒せば……」


 そんなことを話してるうちにも、イジマールはソロモーンくんに命じている。というより、どう見ても、ムチをふるって虐待してるんだけど……。


「やれ! もう一度、やつらの技を盗むのだー! さっさとしろ。このグズが!」

「チュウ……!」


 ああ、小動物がイジメられてブルブルふるえてる。見てらんないよ。


「——やめろよ!」


 僕が叫んだときには、すでに誰かが走りだしていた。ゴライだ。寡黙な巨漢がステージにダイブすると、チビコロの前に身をなげだす。守るを敵モンスターのために使ってる。


 故郷の聖獣だもんね。そうか。ゴライ、しゃべんないから誤解されやすいけど、心は優しいんだね。ごめん。スパイかもしれないなんて疑って。


「なんだ、きさま? ジャマだ! どけ! どかぬか!」


 ああ、敵モンスターをかばってるから、反射カウンターが効かないんだ。ゴライはいいようにムチの雨をあびている。


「チュウ……」


 ソロモーンは戸惑っているようだ。


「あなたは聖なる神獣。悪しき心になど染まってはならぬ!」

「チュウ……」


 よく考えたら、イジマールの力はゼロになってるから、武器の威力だけなんだけど、それでも、ゴライのHPがみるみる減っていくのがわかる。そうとういい武器だな。


「ど、どうするの? 猛?」

「どうするって、敵が仲間に対してしてることだ。おれたちにはどうしようもないよ。おれが『のっとる』使えば、とりあえず、ターンをこっちには戻せるけど、仲間への行動はそのあいだもできるだろ?」


 ああっ、あたふたしてるうちに、ゴライが失神してしまった! チュウくんがおびえてる。勝ち誇ったように、ビシリ、ビシリと二、三回ムチで床を打つイジマール。ほんと、やなヤツだ。


 すると、ぽつりとロランがつぶやく。


「あれは……もしや?」

「ロラン?」


 今度はロランが走りだした。

 ああっ、勇者が敵のムチの前に!


「ロラン! 危ないよ! 戻ってきなよ!」


 でも、ロランは聞いてない。

 イジマールとチュウくんのあいだに割って入る。


「君は、ラランじゃないの? そうでしょ? ラランだよね?」

「……チュウ?」


 あっ、チュウくんが困惑顔に。


「ロラン。ラランって?」

「かーくん。僕が子どものころ、素性を隠すために、人目から隠されて育てられたことは知ってるでしょ?」

「うん」


 そう。ロランは勇者だってことがバレると、魔王に命を狙われる危険性があった。じっさい、のちにロランの両親の居城は、魔物の大群に襲われて陥落かんらくした。だから、女の子だと偽って育てられたばかりか、ほとんど軟禁状態で少年時代をすごした。両親と一部のお世話係以外とは、いっさい交流を絶つ生活。もちろん、友達を作ることも禁じられていた。遊びたい盛りの子どもに、それは酷な話。ロランにとってはつらい思い出だ。


「僕は友達がほしかったけど、外に出ることができなかった。そんなとき、庭に一匹の子ウサギというか、子ネズミというか、不思議な生き物が迷いこんできたんです。僕は喜んで友達になりました。でも、父に見つかって、『これは魔物だから、かかわってはいけない』って、とりあげられてしまったんです。僕はすてないでって懇願したけど、ダメでした。いつもは僕に甘い父上が怖い顔をして、魔物は始末すると言うんです。僕、あの子は死んでしまったんだと思ってた。けど……君があのときのラランだよね? ララン。僕だよ? ロランだよ」


 ラランはロランのこと、おぼえてるみたいだ。でも、なんかようすがおかしいぞ?

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