第157話 交錯する魔導

「のわぁぁあああっっ!?!?」


 放り投げたとは言っても、直接攻撃を加えたわけじゃない。

 錐揉きりもみしながら、どうにか体勢を整える伊佐だったが――。


「ふぇっ!?」

「なっ!? 割り込んで来るとか、まぢふざけんなし!?」

「いや、俺に文句を言わないでくださいますかねぇッ!?!?」


 そこは銃撃戦のド真ん中。

 飛び交う魔力弾は脅威の象徴でしかない。まあ驚いて双方手を止めてしまっている以上、予想していた展開とは少しばかり違う。

 完全に仕切り直しムードが漂い始めてしまっていた。


「そう怒るなよ。せっかくの機会なんだから、連携とか戦略とか、ちゃんと駆使しないと意味がないだろ?」

「だから、アタシはテッペンを取りに来たんだっつーのッ!!」


 だが程なくして、根本が激昂。

 マシンガン宛らの速度で魔力弾を撃ち放ってくる。


「狙いがめちゃくちゃなんだけど!?」

「俺も巻き込まれてるんですがねぇ!?」

「うっさいわよ! アタシの役に立ちなさい!!」


 試合再開。

 俺の意図しない形で四人が顔を突き合わせる展開と相成った。


 ただ個々それぞれ回避していく中、俺は飛び交う魔力弾に少しばかりの驚きを感じていた。

 その理由は、年度末試験の時と比べて、明らかに魔力弾の質が向上していたからだ。

 男子三日会わざれば刮目して見よ――なんてことわざもあるが、流石は成長期のエリート。春休み中、かなり鍛えて来たのだろう。


「“ガルフバレット”――ッ!!」


 脅威に感じる必要は一切ないが。


「なァ!? 素手で受け止めた!?!?」


 差し出した右掌で光り輝く橙の魔力弾。

 今何をしたのかについては、根本自身が語っている通りだ。

 更に右手を振り、受け止めた魔力弾を伊佐に向けて投げ返した。


「良い所を見せたいのは分かるが、見事に逆効果だ」

「ちょっ!? 俺ぇっ!?」

「い、一体何なのよっ!? このぉぉっ!!」


 当の伊佐は慌てて穂先を突き出して迎撃。

 根本は軽くあしらわれたことが不服だったのか、これまで以上に激しく追い立てて来るが――。


「よく分かんないけどっ!」


 二人まとめて、翡翠の魔力弾の嵐に晒さられる。


「くそぉっ!?」

「何なのよォ!?」


 各々武装や障壁で防いではいるが、横から叩かれて取り乱してしまっている。つまりは隙だらけ。根本的な対抗策を講じていないのだから、各個撃破は時間の問題だった。

 現に少しずつ風破の弾丸に接触する回数が増えている。


「さて、連携しないと抜け出せないが?」


 更に俺も呼び出した可変拳銃から魔力弾を撃ち込んでいけば、連中は空中を逃げ回る羽虫同然。

 飽和射撃で撃墜されないために出来ることは一つだけであるはず。

 だが連中の行動は、俺も予想だにしないものだった。


「こなくそォっ!!」

「ざけんな! アタシを踏み台にするなんてぇッ!!!!」


 何と伊佐は、根本のスナイパーライフルを蹴っ飛ばしながら、こちらへ突っ込んで来ていた。


「……なるほど、確かにそれもチームワークだな」

「へっ! 二人仲良く引っ付いていたって吹っ飛ばされるだけだ! なら……ッ!!」


 仲間からの攻撃。

 結果、凄まじい勢いでアリーナ壁面に激突させられた根本ではあるが、見方を変えれば飽和射撃の包囲網から強制脱出させられたとも取れる。

 加えて、敵が一気に二方向へ分散したことにより、風破も混乱。目を白黒させながら動きを止めてしまっていた。


 攪乱かくらんと回避行動を同時に行いながらの最速カウンター攻撃。

 年度末試験でも最後まで残っていた辺り、やはり一定以上の評価をせざるを得ない。もし学園対抗戦の時にコイツがいれば、また違う戦いになっていたのかもしれないと思わされるほどに――。


「“迅雷槍撃”――ッ!!」


 雷撃を纏う高速刺突。

 恐らくは基本斬撃魔導――“ディバインスラッシュ”を奴なりに改良して、“雷”の属性を付与した術式。


 更に評価を改める必要がありそうだ。

 ようやく雪那以外に刃を向ける価値のある相手が出て来たようだ。


 だからこそ、俺も自らの斬撃魔導をもって応えるのみ。


「“エクシードフィアーズ”……」


 蒼滅斬撃。

 白刃を奔らせ、蒼穹の三日月を撃ち放つ。


「……ッ!?」


 雷撃と蒼穹。

 斬撃激突の瞬間、アリーナ中が激しい閃光に包まれる。

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