第120話 二人の超越者【side:Everyone】

 ◆ ◇ ◆



 ミツルギ学園メインアリーナ・観客席。


 試合を終えた烈火がごった返すピット内で足止めを食らっている最中、一般生徒たちは驚愕で固まっていた。

 というのも、在校生を含め、烈火の戦いを間近で観戦したのは、これが初めてのことであるからだ。


 “サベージタウロス”戦は、Fクラス関係者のみ。

 駐屯地での戦いも選抜生徒と軍関係者のみに留まっている。

 当然、研究施設の一件に関しては、一般人が知り得るはずがない。

 それは神宮寺・一柳の一件についても同様であり、対抗戦に関しても避難中の出来事とあって、それどころではなかった。


 故に天月烈火がちゃんとした場で力を振るうのは、今日が初めてだと称して差し支えない。

 何より、土守陸夜との決闘ではほぼ手の内を見せていなかった故に、今日の一件でノーカン兼、上書きされてしまっているのだから――。


「これが、ミツルギの固有ワンオフ機持ちの力……!?」

「い、いや……そういう次元じゃないっしょ。だって、勝負にすらなってないんだから……」


 烈火の闘いっぷりもさることながら、最も驚くべきは一分足らずでの高速決着についてだ。

 実際問題、この大人数なのだから、最低でも三〇分は戦い続けなければ勝敗など決まるはずがない。現に学園側もある程度余裕を持った時間配分を見越して、朝一番からこの試験を開始している。

 だからこそ、初っ端から全員を相手にした上で瞬殺、たった一人生き残る――など、異常という他ないだろう。

 あれではバトルロイヤルというより、ハンデ有りのスパーリング。

 生徒たちは、まるで殴り合いの喧嘩に戦闘機が来てしまったのではないか――と、思わされるほどに力の差を感じていた。


「ら、ラッキーだったわね」

「あ、ああ……どんなに化け物染みていても、出番は一人一回だけだしな」


 もし自分があの白騎士の前に立ったとして、一体何が出来る


 斬りかかっても、魔力弾を放っても勝ち目がない。

 というより、閃光の軌跡すら追えるのだろうか。

 そういうレベルの力量差だ。


 加えて、あんな無様な形で瞬殺されてしまえば、アピールポイント無しで合格は絶望的となってしまうはず。

 よって、早々に烈火が出番を終えたことに対し、誰もが胸を撫で下ろしていたわけだが――。


『……第二試合、ここまで! 各員、手当と回収をお願いします』

「え、っ、第二試合……もう、終わりっ!?」


 多くの生徒が現実逃避で意識を飛ばしている最中、またも瞬殺劇が繰り広げられていた。こちらに戻って来た生徒たちが目を向ければ、先ほどの焼き直しのように二九人が地に伏せている。

 試合時間、二分足らず。

 氷山の頂上に佇むのは、白銀の戦女神ヴァルキュリア


「ちょっ、もう何なのっ!?」

「こっちも、化け物ッ!?」

「あのアマっ!?」


 その眼下に崩れ落ちているのは、移り行く情勢で没落した元名家と雪那の美貌に嫉妬する女子の混合生徒。

 当然、全員がミツルギの一年生。

 つまり烈火と同様、実力を信じられてこその厄介払いを押し付けられたわけだ。


 その上、当の試合内容もほぼ同一であり、手抜き状態の雪那が敵意全開の全員を圧倒。威力を落とした大技で戦闘能力を無効化しての一人勝ち。

 当然、一般生徒の驚愕が激しさを増したことは言うまでもないだろう。

 ただ雪那の実力と真実を知った根本京子は、己のプライドを傷付けられた怒りに震えていた。


「あの日は私服で優雅におサボりか!? しかもミツルギ生とか……おちょくってやがったのかよ!?」


 ズンズンとピットに向かう足取りは重い。

 言うなれば、最新の玩具おもちゃを買って自慢したところ、既に周りがそれを持っていたどころか流行が終わっていたような気恥しさ。

 プライドの高い京子としては、心中穏やかでいられるはずがない。


「まあいい、あの連中へのお返しは……来年の春から……!」


 自分もかましてやる。

 そんな決意を胸に、“固有魔導兵装ワンオフアルミュール”――“アプロディーテ”を起動。

 黄金の戦闘装束を纏い、身の丈ほどのスナイパーライフル――“ミュンツァーⅣ”を展開する。

 そして第三試合の生徒と共にアリーナの空へと旅立っていくわけであるが――。


「あ……っ!?」


 規格外二人が不良債権を軒並み排除したことにより、ようやく見知らぬ顔同士がアリーナにひしめく。

 その影響もあってか、京子の前に現れたのは、ミツルギ学園一年生――風破アリア。

 互いに目を見開き、少しばかり表情を強張らせている。


「ふんっ……!」


 直後、鼻を鳴らしてそっぽを向く京子であったが、少しばかりの違和感を覚えていた。


 アリアの“魔導兵装アルミュール”は、“テンペスタ・ルーチェ”。何の変哲もない学園の貸出機だ。

 しかし彼女が手にしているのは、京子の“ミュンツァーⅣ”と同サイズのスナイパーライフル。

 決して、ルーチェの標準装備であるアサルトライフルやアーミーナイフではない。


「……」


 一方のアリアは、緊張した面持ちで自身のスナイパーライフル――“濃霧の長銃ミスト・クローフィー”を一瞥する。

 これは零華の厚意で第二研究所から貸し出された複合兵装であり、今日の試験に向けて扱えるように努力して来た代物。

 そして己の夢のために絶対負けられない――と、京子を含め、数名混じっている固有ワンオフ機持ちを睨み付ける。


 もう二人の超越者はいない。

 ここからが本当の意味での試験開始。


「では、第三試合……始め!」


 それぞれの想いを胸に、若き騎士たちが宙を舞う。

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