第55話 浸食される日常
俺は“陽炎”を
駆け抜けるのは、訓練場の空。
対抗戦へ向けて――という、慌ただしさこそあるものの、
結局のところ、雪那が置かれている状況は、国家の行く末すら左右しかねない程に重要なもの。
色んな要因や思惑が絡み合い過ぎていて、すぐに解決出来る問題ではないというのが現状だった。
高度に政治的要因が関わって来る――なんて、映画やドラマでしか聞かないセリフだと思っていたが、実際に直面するとこうも厄介だとは――。
ともかく、タイムリミットは雪那が卒業するまでの約二年。
それまでに何とか解決出来ればいいのだが――。
しかしそんな
「そろそろ……当たってよね!」
「気合の入れ過ぎだ」
俺は今も降り注ぐ弾丸を舞い踊るように回避する。
だが模擬戦相手である風破の意気込みは相当なものだ。
それに何より、対抗戦へ向けての模擬戦とはいえ、戦闘中には変わりない。
ここで考え込んでもどうにかなる問題ではないのだから、今は目の前のことを一つ一つこなしていくしかないだろう。
考えすぎて押し潰されては本末転倒。
無気力に過ごしていても、世界は何も変わらないのだから――。
そして俺は目の前の戦いへと意識の全てを向ける。
ちなみに今ここにいるのは、俺と風破だけ。
土守は奴の側から出席拒否。
雪那はどうしても抜けられない用事で欠席。
もう一人は学級委員会。
結果、 随分と悪い出席率となってしまったわけだが、風破の強い希望によって模擬戦形式で相手をしているわけだ。
「大口を叩くだけのことはある。命中精度と弾速だけなら土守よりも上だ」
比較対象として真っ先に名前を挙げるべき土守と風破の間に、大きな差は見受けられない。
こうして彼女と戦うのは初めてだが、確かに学年三位に恥じないだけの力は持っているようだ。
「それはどうも! でも、そんな涼しい顔をされたままだと、ちょっと傷付くかなッ!!」
しかも土守が魔弾の嵐と称していたのは、低級術式の“マジックバレット”。
対する風破は、その一段上の術式である“ガルフバレット”を放っている。
当然、出力の高い術式は、扱うのに相応の技量が求められる。
それを制御できているのだから、“魔力運用”という一点に関しては、土守を上回っていると断言してもいいのかもしれない。
まあ“ガルフバレット”で奴の“マジックバレット”と威力に大きな差がない以上、どちらの方が強いのか――ということは、また別の問題ではあるが。
とはいえ、AE校生徒の実力を騎士団級とするなら、土守も風破も力不足は否めない。
故にどう力を伸ばしていくか――という話になるわけだ。
「とりあえずは、ここまでだな」
ひとまず現状の戦力分析は完了。
俺は急速反転と共に加速すると、剣に蒼い光を
「このっ!?」
突然の攻勢で目を
良い反応ではあるが、身体の舵を右へ左へと取って、弾丸の間をすり抜けるように迫れば、
――“ディバインスラッシュ”。
遠距離武装の泣き所である懐に飛び込み、蒼閃を
「これ、は……っ!?」
だが魔力を炸裂させようとした瞬間、突如として“陽炎”が噴煙を上げながらスパークし始める。
勿論、風破から反撃を受けたわけでも、俺が雷の魔導を放ったわけでもない。
ましてや“サベージタウロス”戦のように、機体の限界を超えた運用をしたわけでもない。
完全に不測の事態だ。
「ちっ……“アイオーン”!!」
「ふ、ふぇ!?」
経験したことがない現象ではあるが、何かがマズい。
そう判断を下した瞬間、俺は即座に“陽炎”を解除して“アイオーン”を
高速機動を取りながらの空中“
俺は待機状態になっていく“陽炎”を投げ捨てながら、風破の腰に手を回して一気に加速した。
瞬間――。
「――ッ!?」
スパークの果て、俺たちの背後で“陽炎”が
「“
俺の腕の中で顔を赤くしたり青くしたりと忙しない風破ではあるが、それに関しては全くの同感だ。
肝心の“陽炎”が大破してしまったため、解決の糸口がないことも含めて。
「さあな。一番可能性が高いのは、
「個人のならともかく、学園の機体は定期的にメンテされてるはずでしょ!? そんなのって……」
そう、学園所属の機体は専用の整備スタッフが常に気を配っており、完璧な一括管理が行われている。
生徒に危険を及ぼす整備不良が起きることは、万に一つというレベルでありえないはずだ。
ましてや戦闘中に“
であれば、考えられる要因は一つだけ。
全ては人の手で意図的に引き起こされた事故であるというもの。
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