第42話 狂気の地にて
「なんだか、悪い事をしているみたいでドキドキしますわね」
「その割には、随分落ち着いているように見えるが……」
「そんなことありませんわ。こんな時間に出歩くなんて、これまで片手で数えるくらいしかありません。ましてや殿方と二人きりなんて、貴方が初めてですもの……」
今、俺とディオネは夜の林地を歩いている。
しかも上着のフードを被り、その下には
それから謎にゴリ押しされた色違いの
つまり色気の欠片もない放課後デートは、夜の部に突入しているということだ。
「顔を赤くするな。要らん勘違いをされかねない」
「あら? 勘違いでは……って、これは……?」
そのまま
「それにしても、よくあの仮面男に追跡用の魔導をかけられましたね。あれだけ素早く動き回っていたのに……」
「まあ、
ディオネの言う通り、さっきの戦闘で逆手に持ち替えた魔力剣を“
結果、俺たちは奴の足取りを追うことが出来ているというわけだ。
当然、子供たちを守って奴を逃がした際、取り乱さなかった理由も同じだった。
「しかしこんな所を拠点にしていたとは……。やっぱりキナ臭くなってきたな」
目の前に
廃墟と呼ぶには真新しく、新築と呼ぶには薄汚れている。
何とも言えない雰囲気を放つ建物だった。
当然、俺の言葉にディオネが首を傾げる。
「ここは一体……?」
「
「なるほど……しかし未だ解体されておらず、あの仮面男の根城にされている……と」
解体費用がいくらかかるのかは分からないが、業者の
俺とディオネは侵入ポイントを探すべく、廃棄された研究施設を観察する。
「普通にお邪魔するなら、正面出入口に裏口が一つ」
「それと窓からでしょうか? しかしこの建物、窓が少なくありませんか? それに施設に対して窓周りは随分と手狭ですし……」
「ああ、まるで
二人は少々異質な造りをしている研究施設を
「周りを削る必要がある以上、大きさ的に窓は論外。表か裏か……」
「一つ提案なのですが、ここは二手に分かれませんか? 閉鎖空間では私たちの方が不利ですし、簡単に取り逃がしてしまいますわ。それに別々に動いていれば、挟み撃ちも可能ですし……」
「言いたいことは分からないでもないが……」
一ヶ所にまとまって動けば敵に
加えて建物の中では移動範囲が制限される上に、出力の高い魔導は使えない。
確かに二人で行動するメリットが薄いのは事実。
ディオネの提案は的を射たものであったが――。
「施設内で各個撃破される可能性もあるし、相手は
「腕にはそれなりに覚えがありますので、問題ありませんわ。それに、いざとなれば……えっと、“
さっきの戦闘からしても、ディオネの力量を疑う必要はないだろう。
だが俺だけならともかく、ディオネを一人にするわけにいかない。
相手の異常さを理解しているのだから尚更だった。
「私の端末に“
「はぁ……分かった。何かあったら、すぐに連絡をくれ」
「ええ、頼りにさせて頂きますわ」
実力と覚悟は本物。
なら、彼女を信じるしかないようだ。
「……行くぞ」
「はい!」
そして俺は正面、ディオネは裏口から、廃棄された研究所に突入する。
狂気渦巻く地獄へと――。
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