愚か者達の末路
「今日はダンジョンじゃなくてモンスター退治なんですね」
森の入り口の前に、ライラ達はいた。
「ああ、森にゴーレムが多数出現して狩りができない、木を切れないとのことだ」
「モンスター退治でも、頑張っちゃいますよ!」
ライラはぴょんぴょんと跳ねた。
「ああ、頼りにしてる」
コルヴォは無意識に頭を撫でようとしたところをレイナに止められた。
「そういうのは仕事終わりにしてね?」
「あ、ああ……すまない」
「?」
「ライラちゃん、森のどこら辺にゴーレムがいるか分かる」
「はいはいー! お任せあれー!」
ライラは森の入り口に足を踏み入れると少し黙った。
「こちらに急接近しているのが五体! 臨戦態勢を!!」
「了解!」
「普通のゴーレムなので魔術で攻撃しましょう!!」
「任せて!」
「任せろ」
コルヴォとレイナが魔術を詠唱しはじめる。
ゴーレムが五体姿を見せると、鋭い風の刃がゴーレムを切り刻んだ。
「次は?」
「……森の中心部にミスリルゴーレムが10体、ゴーレム生成器があります。ゴーレム生成器を壊さない限りゴーレムは増えますし、動き続けます──おかしいですね」
「何がおかしいんだよ、ライラ」
「何も無かった森に急にゴーレム生成器が出現するなんてありえません」
「つまりこれは……」
「誰かが仕組んだものでしょう。でもおかしいです、ゴーレム生成器なんて早々簡単に手に入る物じゃないですし」
「そうだな、村人達の生活水準から言って買える物じゃない」
ここに来るまでに見た村人の生活水準を見る限り、ゴーレム生成器を購入するなんて不可能だったのだ。
「誰かが置いたとか言う話は無かったし……」
「とにかく進み──危ないここから離れて!」
ライラの言葉にコルヴォ達はその場を離れた。
ミスリルゴーレムがその場に着地し、地響きがなると同時に炎の魔法がその場に渦巻く。
「──何のようですか? 『サンダーソード』の方々」
ライラが見据えた先には「サンダーソード」のメンバーがいた。
「何で避けられんだよ、おい」
「しらないわよ、こっちが知りたいわ!」
「なるほど、ゴーレム生成器をこの森に置いたのは貴様等か」
コルヴォがアレス達を睨む。
「そうだぜ、何でかしらねぇがギルド長にひいきされてるテメェ等なら依頼を受けさせられるだろうと思ってな」
アレスはにたにたと笑いながら言っていた。
「なんて身勝手な……!」
レイナが吐き捨てるように言う。
「お前等が──ライラ、テメェが悪いんだ。案内人ってお荷物──」
「誰が、お荷物ですか?」
ライラが短剣を振りかざすと、ミスリルゴーレムはバラバラにになった。
「な?!」
「えいや!」
球体状の物体を投げるとそれは破裂し、ネバネバとした物体になって「サンダーソード」のメンバー全員にまとわりついた。
「これくらいできるんですよ」
「なによこれぇ!」
「う、うごけん!! 魔法も唱えられない?!」
「動けば動くほどくっつくわ!」
「おいライラ何した?!」
「洞窟タランチュラの巣とバルキアの実に、魔法封じの粉末とそのほか色々を混ぜ込んだ私特製の対人型アイテムです。動けば動く程くっつきますよ」
「なんでそんなもんを……!!」
「盗賊とかに襲われた時のことを想定して作ってたんですよ。まさか初めて使うのが元仲間なのが悲しいですが」
「全くだ、俺のギルドでこんな馬鹿な事をやる奴がいるとはな!!」
「「「ギルド長!!」」」
予想外の人物の登場にほとんどの者が驚愕する。
「お……ギルド長!!」
ライラも予想外だったのか、驚いていた。
「グレアギルド長、どうしてここに?」
唯一冷静なコルヴォが、問いかける。
「どうしたも何も、馬鹿な行動を取ってる輩がいると聞いて出てきたんだよ。話を聞いている限りでは、そこの案内人に一方的に恨みを持ってるらしいな」
「い、一方的じゃない! 正当──」
「黙れ糞ガキ」
グレアの圧に、アレスは黙る。
「さて、今回の件どうしてくれようか」
グレアは黙ってから、指を鳴らした。
すると、王国の兵士達が姿を現した。
「案内人ライラ、そいつらのネバネバ解いて、拘束するってできるか」
「で、できます。ちょっと待ってください!」
ライラは荷物から、また球体状のものを取り出し、投げつけた。
煙に包まれ、煙が晴れると「サンダーソード」のメンバーは皆グルグル巻きにされ、身動きがとれなくなっていた。
「なによこれぇ!」
「おいふざけんな!!」
「『サンダーソード』。お前等は今後冒険者の資格永久剥奪だ、そんで牢屋行きだ」
グレアの言葉に「サンダーソード」のメンバーは青ざめ、自分たちは悪くないと主張し始めた。
リーダーであるアレスが悪いと言い出した。
「お前等?! お前等だって賛成してたじゃねぇか!!」
「やかましい!! 兵士さん達、すまんがこいつら全員連れてってくれないか」
「かしこまりました」
「了解です!」
兵士達は「サンダーソード」のパーティ全員を連れて行った。
ライラはぽかんとそれを見送った。
「よっしゃ、これで後片付けは終了だ。お前等はゴーレム生成器を破壊するなり、回収するなりしてギルドに収めるなりしてくれ」
「分かりました、ライラ。案内を頼む」
「は、はい!」
ライラは先陣切ってコルヴォ達を案内し始めた。
明かりがわずかに差し込む森を進んでいくと、ミスリルゴーレムがゴーレム生成器を守っている場所にたどり着いた。
「数が多いので、ミスリルゴーレムの魔術魔法耐性と防御力を一時的にかなり下げます、その間にバラバラにしちゃってください!」
「わかった」
「わかったわ」
「おう!」
「ぼ、僕は補助するよ!」
ライラは、銀色の矢を取り出し、弓を手に持ち、ミスリルゴーレムの頭上へ矢を放った。
矢は、ゴーレムの頭上で破裂、雨のように鉛色の液体がミスリルゴーレムに降り注いだ。
「やっちゃってください!」
「いくぞ!」
「任せて!」
「おっしゃあ!」
コルヴォの風魔術とレイナの風精霊魔術で、ミスリルゴーレムはバラバラになった。
グレイの爪でミスリルゴーレムも細切れにされた。
その間にライラはゴーレム生成器を止める。
「ふぅ、これで一安心」
「ギルド長に渡すの」
「それが一番安全かと、横流ししないでしょうし」
「確かに」
「さて、その間にバラバラになったミスリルゴーレムを袋に詰めますか、ミスリルですから売れますよ!」
「逞しいな」
「これが皆さんのボーナスになりますから、あとこの村の方々への迷惑料にも……」
「そうだ、それがあったな」
コルヴォが納得して頷く。
「じゃあ、一度帰りましょうか」
魔法袋に詰め終わったライラはそう言って再びコルヴォ達を先導しはじめた。
後日、村に別の冒険者がやった事だからという名目で迷惑料として村人全員にお金を支給すると、ライラ達は崇められ、歓待された。
別の冒険者がやったことだから、褒められる訳にはいかないとコルヴォも言ったが、村人は、それでも森を元に戻し、その上こんな事までしてくれる冒険者は見たことがない、と言って宴が行われた。
「村人の方々、森でまた仕事ができるようになって良かったですね」
「でも、あの宴は疲れたわ」
「同感だ」
「俺は楽しかったぜ? 豚の丸焼きなんて豪華じゃねぇか」
「そんなに食べるとグレイが豚になっちゃうよ」
「んだと、グラン? どの口が言うか~?」
グレイはグランの両方の頬をつねり引っ張った。
「いひゃいいひゃい!」
「グレイ、グランをいじめないの! グランも豚は言い過ぎよ!」
レイナはそう言って二人を引き離した。
「……」
ライラはソレを見ながら料理の手を止める。
「何で俺が止めないのかと思っただろう」
「うひゃ?!」
いきなり背後に立ったコルヴォにライラは驚いた。
「すまんな、驚かせて」
「い、いえ、私が未熟で……」
「そんなことはない、ダンピールは気配を消すのも得意でな。……俺が叱らないのは俺が未熟だからだ、レイナがリーダーになって欲しかったが、彼女は拒否して俺がリーダーになった」
「……コルヴォさんは、未熟じゃないです。優しいだけです」
そう言ってライラは調理を再開した。
コルヴォは何か言いたそうだったが、何も言うこと無く部屋へと戻っていった。
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