第10話 お風呂
「優姫、一緒にお風呂に入ろう!」
一旦自分の家に帰り、部屋着に着替えてから優姫の家の鍵を開け、開口一番にそう言った。
それを優姫は、驚きつつも笑顔を浮かべていて、「ふふっふふふっ」と怪しげな声を出した。
「本当にいいの?」
「うん。」
「水着は?」
「優姫が大丈夫なら、着なくていい。」
「もー敦人大好き!」
優姫は、そう叫びながら俺に飛び付き、頬をスリスリと擦り、最後に一回キスをして来た。
正直、ここまで喜ばれるとは思わなかったし、何より優姫がかわいすぎて照れが隠せない。顔が熱くなるのが分かる。
優姫の顔も赤くて、それを自覚しているのか、どちらからともなく噴き出した。
「今日は敦人に頭洗ってもーらお!」
優姫はかなりテンションが上がっていて、夕飯を作りながらの鼻歌と独り言が止まらない。
「「いただきます」」
「「ご馳走様でした」」
ずっとニヤニヤしている優姫に色々と頼まれて、いつも以上にわがままになっていた。
ここまで楽しみにされると、俺のソレがどうとかどうでもいいのかもしれない。いつかは必ずその時が来るんだしいいや。と思えた。
とは言え、めちゃくちゃに緊張してるから、食べこぼしが多かった。
夕飯を終えて一時間が経ち、遂に入浴の時間となった。
「ど、どどどどうする…?いざとなると緊張するもんなんだね……」
そう聞いてきたのは、意外にも優姫だった。
一昨日にもあったこの二人とも下着姿で見つめ合う時間だけど、今日の俺は少し違った。
「えっと、どうする?」
ただ、その覚悟こそあれど、身体は全く動いてくれない。
「あ!あれだ!」
しばらく無言が続いたところで、優姫が何かを閃いたらしい。
「アニメだと、男の子がお風呂入ってるところに、女の子が『一緒にどうかな…』って言って入るの!あれ、あれにしよう!」
「け、結局は見られるんだし、最初から隠す物がない状況にあればって事か…よし、やろう!」
そして、優姫が一旦脱衣所から出て、俺だけが浴室に入る。
「あ、敦人…は、入るよ?」
すると、すぐに優姫が浴室のドアをノックしてそう聞いてくる。
「うん、いいよ。」
そして、ゆっくりとドアが開かれて、足からゆっくりと優姫が入って来た。
膝の上からは見ちゃいけないと強く思い、視線をそこで止める。
しばらくシャワーの流れる音だけが聞こえて、俺も優姫も微動だにしない。
こう言う時は、男から動かないとだめな気がするけど、男から動かれると怖いんじゃないかと言う気もする。
でも、どちらにせよ動いてみて優姫の反応があって初めてどっちが良かったのかが分かる。だから、動くべきだ。
「あ、頭──え……」
そこで、声が出なくなった。
「ごめん…嬉しくて、なんか凄く嬉しくて…幸せで……」
優姫の声は震えていて、いや、そんなところで察さなくとも、優姫はその綺麗な顔を歪ませながら泣いていた。
「私、敦人は本当に結婚してくれるのかなとか、いつ何かを求めてくれるのかなとか、そんな事ばっかり考えてて、だから嬉しくて……」
正直に言えば、今日は彩葉に言われたからだけど、一緒にお風呂に入りたいとか結婚したいとかは、ずっと思ってはいた。
ただ、思ってただけであって、実際にやろうとすると、何個も言い訳を考えていて、言葉にしていて…多分、それだけで優姫の心に傷を付けてたんだと思った。
「毎日一緒に入ろう。」
「うん……」
「あと、まだ時間かかるかもしれないけど、そう言う事もしたいとは思ってる。」
「うん……」
「結婚も絶対にする。」
「うん……」
「優姫の事が大好きだし、絶対に幸せにするから、俺の事を幸せにして欲しいなと。思ってます。」
「うん──ハグしていい?」
「う、うん…」
「なんで吃ったの……」
「い、色々当たるし……」
「ちょうどおへそくらいかな?」
「ばっ……そう言う事は──」
「この際だから言っておくけど、映画観る時のやつあるじゃん?あれ想像以上に感触あるから、今更大丈夫だよ。」
「そう言う事言われるとやりにくくなる…」
「でも、敦人だって腕に私の胸当たる事あるでしょ?それと同じだよ。」
「それは、優姫が当ててきてるやつでしょ?」
「細かい事はいいから、頭洗ってくーださい!」
そうして、優姫が前の椅子に座り、続いて俺は後ろの椅子に座る。
優姫の髪の毛は柔らかくサラサラで、とにかく綺麗だった。
「ちなみに、私のおっぱいどう?」
俺が優姫の髪の毛を濡らしていると、唐突にそんな事を聞いてきた。
「見てないから、分かんない。」
「えー見てないの?」
「当たり前でしょ…」
「一緒に入ってるんだから、見るのが当たり前と言うか、最低限のマナーじゃない?」
「そんな事ないでしょ…」
「ちなみに、私が敦人の敦人を見て、形が面白くてなんかかわいいって思ったよ?」
「は、はあ!?」
「敦人も私の事ちゃんと見て。お願い。」
「わ、分かった…」
優姫の表情は全く分からないけど、最後の言葉だけはかなり真面目な声色に聞こえた。
そして、衝撃的な事実を知って狼狽えつつも、俺は少し震える指先で優姫の頭を洗う。
「最高の彼氏に頭を洗ってもらえるなんて、幸せだあああああああ」
ずっと「ふふーん」と笑を零している優姫はいつも通りかわいい。
少し緊張が解れてきた今になって分かるのは、優姫の背中が真っ白で細くて、とにかく綺麗な事。
唐突にお腹をくすぐってみたらどうなるのか──なんて事を考えたけど、まだ実行はできない。
やがて、しっかりと丁寧にシャワーで泡を流し、コンディショナーを塗ると、優姫が「こうたーい!」と言って振り向いた。
もちろん、一糸纏わない優姫の姿が目に入り、海馬に焼き付く。
「ちゃ、ちゃんと見てとは言ったけど…そんなに見られると恥ずかしい……」
「綺麗……」
優姫の身体は、漫画やアニメの入浴シーンでも見るような、綺麗としか言いようがない
「あ、ありがとう…わ、私のおっぱい、意外とおっきいでしょ?」
「それは知らない…」
「ちゃとお手入れしてるから、褒めて欲しかったんだけどな…」
「えっと……はい……」
「触ってみ?もちっふわってしてて気持ちいいから!」
「それは遠慮しておく…」
「そっか……まあ、今日は初めてだしね、うん。」
少し悲しげな声色だったけど、表情はずっとニヤニヤしていて、「ふふーん」と満足気に笑っていた。
「頭に手が届かないんだけど…」
椅子を交代し、優姫が俺の頭を洗うと言ってたけど、優姫が立たないと俺の頭に届かないらしく、そう言って立ち上がった。
「背中に私の胸が当たるかもしれないけど、わざとじゃないからね?仕方なくだからね?敦人の座高が高いのがいけないんだからね?」
と、そんなにも念を押されると、返って意識してしまう。
頭にはいつもとは全然違う、優しく心地よい感触があり、背中にはときたま柔らかさの中に少し硬さを感じたりする。
「ヒェッ!」
しばらく頭から手が離れて、 手が疲れたのかと思いながら待っていたのだが、突如として両脇腹にコソコソっとすばしっこく動く何かを感じて飛び上がってしまった。
直後に「きゃははっ」と言う優姫の笑い声が聞こえて、あの時やってれば…と後悔した。
「ねえ敦人。」
俺の頭の泡をシャワーで流しながら、優姫がそんな改まった声色で俺の名前を呼ぶ。
「ん?」
「幸せだね。楽しいね。」
「確かに、今内面的にもめっちゃ自然体かも。」
「毎日一緒に入ってくれるんでしょ?」
「うん。俺がそう言ったしね。」
俺がそう答えると、優姫は俺を背中から抱き締め、耳元で話し始めた。
「敦人、愛してるよ。私、敦人との未来しか考えられないんだ…こんなメンヘラでも、ずっと好きでいてくれる?」
「うん。俺も優姫の事を愛してる。優姫以外との未来は描けない。俺言い訳ばかりだけど、ずっと一緒にいてくれる?」
「うん、当たり前。」
「「──────」」
そして、さすがに前の方と下の方はいずれ…と言う形になったけど、背中はお互いに洗い合い、拭き合った。
そして、今日はそのまま優姫のベッドで寝る事になった。
「この調子だと、来週には初めての営みができそうだねぇ〜」
「そんなにしたいの…?」
「今すぐにでも。」
「分かった──」
「へ!?」
「──なるべく早くできるように、頑張る」
「わ、分かった!私も早くしたいって思って貰えるように、誘惑する!」
「いや、したいとは思ってるんだけど──」
「うぅ……」
「──どうしてもまだ怖くて…」
「そっか……でも、毎日一緒にお風呂入れば裸には慣れてくると思うから、徐々に緩ませていこうか。目標は夏休み中!って事でいい?」
「うん…申し訳ない……」
「いいのいいの、敦人と一緒にいるだけで幸せだし、こう言うのはゆっくりやるものだと思うしね。」
「ありがとう。」
「とりあえず、明日は服の上から私の胸を揉んでみようか。」
「いきなりハードル高くない!?」
「まあ、気が向いたら揉んでみてよ。めっちゃもちもちふわふわだから!」
「頑張ってみる……」
「楽しみにしてるね!じゃあ、おやすみ〜」
「うん、おやすみ。」
真っ暗で優姫の表情は分からないけど、なんとなく今日は向かい合って寝たい気分だった。
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