第10話 初めての盗賊退治
オレは街から出て草原の道を歩き始めた。草原の道をしばらく進むと街道は深い森の中へ入っていった。すると、オレの頭のマップに大勢の人間の反応があった。すべて赤表示だ。つまり、魔物か盗賊だ。
“リン。何かいるみたいだよ。魔物かな~? それに、結構な数がいるぞ!”
“盗賊の可能性があります。お気を付けください。マスター。”
“盗賊?”
“そうです。人を殺すことを何とも思わない連中です。”
オレが赤い表示を目指して森の中に入ってくと、大勢の武装した者達がいた。風に乗って話し声が聞こえてくる。
「あの街をいつ襲うんだ?」
「ドンキ様が今夜とか言っていたぞ。」
「そうか。楽しみだな。あの街には金もあるし、女も大勢いるんだろ。」
周りを確認すると50人程度の盗賊団のようだ。このまま素通りするのも気が引ける。それに、あの街には世話にもなった。オレは意を決して、盗賊団のいる場所まで行った。
「お前達、あの街を襲うつもりなのか? やめた方がいいぞ! あの街にはAランク冒険者もいるからな。」
「貴様何者だ?」
「オレのことはどうでもいいだろう。それより忠告してやってるんだよ。」
すると、盗賊団の中から強そうな者達が前に出てきた。
「Aランクがどうしたって?」
「あの街には強いAランクがいるってことさ。」
「別に大したことじゃねぇな。俺達5人も元々A ランクだ。負けることはないぜ。ハッハッハッ」
「そうか~。言っても無駄か~。」
オレは背中の剣を抜いた。
「お前馬鹿か? 俺達相手にたった一人で勝てると思っているのか?」
「簡単な事さ。」
「なめた野郎だ! やっちまえ!」
盗賊団の連中がオレに切りかかって来た。オレは背中の剣を抜いて、彼らに向かっていく。シルバーウルフの討伐の時も思ったが、彼らの動きが止まって見える。あまりにも遅いのだ。オレが本気で動くと盗賊達にオレの姿が見え無くなった。そして、一人また一人と片足を失って地面に倒れていく。そこはまるで地獄のような光景だ。盗賊達の絶叫と悲鳴が響き渡った。
「た、た、助けてくれ—————!!!」
「な、な、何が起こってるんだ~!」
「痛ぇよ————!」
「あ、あ、足が—————!」
盗賊団はもうパニックだ。50人いた盗賊も気付けばすでに5人だけしかいない。だが、残っているのは全員がAランク冒険者だ。
「き、貴様~! 何者だ?」
「お前達が知っても仕方ないだろ。」
「ふざけるな!」
5人が一斉に切りかかってくる。Aランクの冒険者と言っても、オレにとっては動きが止まって見える。オレは全員の片足を切り落とした。
「ギャ———!!!」
「た、た、助けてくれ!」
「お前達は命乞いしたものを助けたのか?」
「お、俺はドンキの命令に従っただけだ! 悪いのはドンキだ!」
「貴様何をいまさら!」
地面には盗賊達全員が大声でうめきながら転げまわっている。
「痛ぇよ————! 助けてくれ————!」
“リン。こいつらを拘束する魔法ってないかな?”
“聖魔法に『正義の輪』があります。”
“『正義の輪』って?”
“体を拘束する光の輪です。逃げようとすると、身体ごと切断されます。”
“なんか。その魔法って怖ないな~! まっ、この際仕方ないな。”
オレは魔法を発動し、全員を拘束して門兵のいる場所まで転移した。そして、盗賊達を門の近くに残したまま姿を見せずに再び草原まで転移した。突然大勢の盗賊達が片足を失った状態で現れたことに、門兵達は全員が驚いた。もう大騒ぎだ。
「こいつらはなんなんだ? 急に現れたぞ!」
「おい、あいつは盗賊のドンキじゃねぇか? やっぱりそうだぜ。」
「すぐに領主様に知らせろ!」
どうやら、首領のドンキを始め、元Aランクの冒険者達はこの国のお尋ね者だったらしい。大勢の人々を手にかけ、国が必死に追いかけていた盗賊のようだった。
そして、その日の夜、メアリーとセバスは宿屋の食堂で座って話をしていた。既に、盗賊団が捕らえられたことは街中に知れ渡っている。
「恐らく、50人もの盗賊を討伐したのはケンだろうな。あいつなら、その程度のことを平気でやりそうだ。」
「あの子はそんなに強かったの?」
「ああ、人間離れしてるな。しかも、盗賊達の話からすると、彼らを捕らえた少年は、失われたとされる『転移魔法』を使ったそうだ。」
「そんなにすごい子だったのね。」
「まっ、なんか事情がありそうだがな。また、戻ってくるだろうさ。」
盗賊を討伐したオレは次の街に向かって歩いていた。のどかだ。だが、たまに魔物も現れる。頭から角が出た猪や兎だ。オレはそれらを狩って空間収納に入れた。
“リン。魔物にも名前があるんだろ?”
“あります。ウサギの方はホーンラビット。猪の方はホーンボアです。”
夜になると、火を切らさないようにしながら野宿した。腹が減れば、空間収納から狩った魔物を取り出して、解体して焼いて食べた。すべて、一人でやらなければならない。それでも、あの洞窟の中の生活に比べれば楽しく感じられた。
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