第8話 はじめてのお仕事 

 オレはセバスさんと別れて、薬草を調べに資料室に向かった。本がたくさんある。その中で薬草の本を見つけたが、よくわからない。



“リン。この本を記憶できる魔法あるかな?”


“ありますよ。本の上に手を置いて『リメンバー』を発動してください。”



 リンに言われるまま魔法を発動した。



『リメンバー』



 すると、頭の中に魔法の本が記憶された時のように一気に情報が流れ込んできた。



“すごいな! この魔法。学生時代に使えたら、オレ、天才になれたかもしれないな。”



 オレは本の内容をすべて頭に入れて資料室を後にした。その後、1階まで下りて受付のリリーさんのところに行った。



「リリーさん。ポーションの原料となるオミナエ草を取りに行きたいんだけど、どこに生えてるか知ってますか?」


「オミナエ草なら街を出て、西に行ったところの草原地帯にあるわよ。でも、あそこにはシルバーウルフが現れるから気を付けた方がいいわよ。」


「シルバーウルフって魔物なんですか?」


「そうよ。肉食で、群れで行動するの。人も襲われるから気を付けてね。」


「はい。」



 オレは、最初に来た門を出ようとした。すると、昨日の兵士が声をかけてきた。



「宿は見つかったか?」


「はい。ありがとうございます。今から薬草を取りに行くんですよ。」


「ギルドに登録したのか?」


「ええ。」



 オレはカードを見せた。すると、兵士は、気を付けて行ってくるようにと、ニコニコしながら送り出してくれた。



“さて、マップを使って探そうかな。”



 オレは頭の中で薬草をイメージすると、頭の中にマップが出てきた。薬草のありかを次々と示してくれる。オレは何の苦も無く、マップに出てくる場所で薬草をたくさん採った。採りすぎて両手に持ちきれない。



“リン。収納できるような魔法ってない?”


“空間収納の使用をおすすめします。”


“どうするの?”


“頭の中で別の空間を作るイメージを思い描いてください。”



 オレはリンに言われた通りやってみた。すると、目の前に黒い渦が発生した。恐る恐るその中に手を入れてみたが何もない。次に取ったばかりの薬草をその中に入れた。



“リン。中に入れたけど、どうやって取り出すのさ。”


“出したいものを思い描きながら手を入れればいいんですよ。”



 再び頭の中に空間を思い描くと、いったん消えた黒い渦が再び現れた。薬草を思い描きながら恐る恐る手を入れると、不思議なことに手に薬草を掴むことができた。



“ありがとう。リン。この空間って食べ物も入れられるの?”


“はい。生きているもの以外なら何でも入れられますよ。時間の経過もありませんから、食べ物が傷むこともないですよ。”


“凄いね。なんかリン様様って感じだよ。”


“どういたしまして。”



オレは魔法で作った空間収納を利用して、そこに薬草をすべて入れた。



「さてと、帰ろうかな。」



 独り言を言って帰ろうとすると、南の方から悲鳴が聞こえた。マップで確認すると、人間が複数の魔物に囲まれている。オレは、悲鳴のしたところまで急いで向かった。



「キャ————」



 オレが駆け寄ると、シルバーウルフが5匹、女の子を取り囲んでいた。ここで見捨てるわけにはいかない。でも、本気を見せるのもまずい。そこで、背中から剣を抜いてシルバーウルフにゆっくりと切りかかった。



「大丈夫かい? オレの後ろに下がって。」


「は、はい。」



 偶然シルバーウルフに当たったように見せかけるため、やみくもに剣を振って戦った。



「えい! あっち行け! やー!」



さすがに、シルバーウルフも手強い。なかなか逃げようとしない。逆に手や足を何か所か噛まれてしまった。



「痛てて! この野郎! あっちに行け!」



それでも、少女に気付かれないように大声を出して、剣を出鱈目に見えるように振った。



「あっちに行け! えい! やー!」



すると、諦めたのかシルバーウルフ達は逃げて行った。



「大丈夫だったかい?」


「うん。でも、お兄ちゃん、噛まれてたよね。手から血が出てる!」


「このぐらい大丈夫だから。それより、危ないから一緒に街に帰ろう。」


「でも、まだ薬草を取らないと。」


「大丈夫。オレがたくさん採ったから分けてあげるよ。」


「本当?」


「ああ、本当さ。ちょっと待ってて。」



 オレは少女から少し離れた場所で、採取した薬草を空間収納から取り出した。両手にいっぱいだ。それを持って少女のところまで行った。



「お兄ちゃんすごいね。こんなに一杯!」


「だから言ったろ。ほら。」



 オレは薬草を少女に渡した。



「ありがとう。これでお母さんの病気が治るかもしれない。」


「お母さんの病気?」


「うん。」



 街に帰る途中で少女に話を聞いた。少女の名前はカンナ。オレより6歳下の10歳だ。父親はいない。唯一の肉親の母親が病気らしい。オミナエ草を煎じて飲むと薬になると聞いたようだ。



「カンナちゃんの家はどこなの? 家まで一緒に行くよ。」


「うん。門を入って左の方に行ったとこだよ。」



 オレはカンナを家まで送っていくことにした。



「カンナちゃん。お母さんの様子を見せてもらっていいかな?」


「ケン兄ちゃんってお医者様なの?」


「違うけど、薬草の知識はあるからね。どの薬草が効くのか調べてみたいんだ。」


「分かった。」



 カンナは自分の家まで案内してくれた。カンナが言った通り門を入って左側にすすんだ。オレの泊まっている宿の反対側だ。その地区は、どちらかというと貧しい人々が住んでいる地域のようだ。正直言って、どの家も立派とは言えない。



「ここよ。」



 カンナの家も他の家と同じようにボロボロだった。



「お母さん。薬草採ってきたよ。シルバーウルフに襲われたんだけど、ケン兄ちゃんが助けてくれたんだ。」



カンナの母親は、起き上がることができずに、布団の中から頭を下げてきた。



「娘を助けて、ゴホン、ゴホン、助けていただいてありがとうございました。」


「大丈夫ですよ。それより、オレは薬の勉強をしています。お体を見させていただいていいですか?」


「ええ。」



 オレは家に上がって、母親の病状を確認した。服の上から身体全体に手をかざしていく。実はこの時、魔石を握り締め、治癒魔法の『ヒール』を発動していた。



「このオミナエ草を煎じて飲んでみましょう。良くなるかもしれません。」



 すでにオレの魔法で病気は大分快復したと思う。だが、薬を飲まないといかにも怪しくなってしまう。そこで、オミナエ草を煎じて飲んでもらうことにした。



「明日も様子を見に伺っていいですか?」


「お兄ちゃん。ありがとう。」



 オレは残りの薬草もすべてカンナに渡した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る