新しい生活

 四月十一日



 四月四日にそれぞれの道へ進むことを決めた日から、約一週間が経過した。学院内で共に行動する時間が、りっちゃん先生の配分が多くなるのは必然となる。



 ただ、だからといって、よーちゃん達とお昼になれば、食堂棟で一緒に食べたりなどして、定期的にスキンシップを取っている。




 毎日、桜色の道を登下校し、そこからは各々で課題をこなしながら、昼休憩に集まり、帰宅時間に教室へ集まり帰る形である。最近は、りっちゃん先生も時間に余裕ができたのか——共に行動している。




 ——修行開始三日目の時は、そんな余裕がなかったんだけど、いやはや、人の慣れとは恐ろしい物だね…。




 このサイクルの唯一の問題点は、梓が日に日に、食堂で頼むメニューが低下していっていた事だが、その問題は僕が介入する間も無く既に解決していた。




 どうやら、僕の家に泊まった時に食べたドリアの味に感動したのか——玲緒奈とよーちゃんが梓を晩御飯で雇っているらしい。




 ——二人の家ならば、料理を作ってくれる専門の人がいるだろうに…。もしかしたら、彼女達なりの梓への気遣いかもしれない。




 二人から合わせて四万円程をもらっているらしく、そのうち二万を家計に、二万を自由に使えるらしい。




 それ以外の場面でも、梓におつかいと称して、ジュースをあげたりしているらしく…最初こそ、歪みあっていた三人の仲が深まっているのがわかる。




 太陽と月に栄養を与えられて成長していく大樹…ほんの少しだけ、寂しい気持ちもあるけれど、それでも僕は今の彼女達を、雲と共に見守っていければ嬉しい。



 そう考えていると、いつもの修行の時間が訪れる。その時、何故か今までの修行トラウマの苦悩がフラッシュバックする。




 ◆◇◆◇




 時は少し遡ること修行初日




 僕とりっちゃん先生は…実践棟の大広間がある一階ではなく、二階に集合している。殆どの場合、一階は『神降ろしの儀式』で使われるのだ。




 では、二階は…その答えは、トレーニングである。奇跡魔法にも、当然、色んな種類がある。




 りっちゃん先生のような雲を編み出す。




 僕のように特殊な条件で強くなる。




 そして、エリスと契約した如月健斗の奇跡魔法は、

『特定の人物を一人だけ定めて、その人を嫉妬すれば、するほど強くなる』というものだ。




 当然、作者の僕が設定したものなんだけど…本来の嫉妬対象は黄泉穂花ぼくではない。




 ——偶然とは思えない。こんなことを実現可能な人物は、僕が契約する神がアフロディーテと知っていなければ、打てない対策だね…。




 もしかして…僕のエロ漫画を作成していた時の仲間が敵側にいたりすることなんて、流石に…ないかぁ。



 

 今、その話は置いといて、改めて、ジャージを着こなして、やる気満々のりっちゃん先生へ向き直る。



「アフロディーテ様曰く…まず体力作りから始めるため、現在いま錘を持てるだけ身体に纏えとのことです」

「はい!!」



 先生に伝えた後、僕も複数錘を身体の部位につけて調整する。この行動の意味は、自分の持てる限界を知るための物かな…?




 僕の場合は、奇跡魔法が常時発動しているタイプだから、既に強化されている状態のため、八十kg程度は軽々と持ち上げれる。



 一方でりっちゃん先生は三十kgが限界みたいだ。




『ふむ。それでは、穂花はその倍、あの教師は、小さな錘を一つ追加で二十キロランニングしてくるのじゃ。もちろん、水分補給と塩分チャージを忘れずにな』

 ——へ?この神…今なんて言った? そもそも百六十kgの錘ってそもそも存在しないからできるわけ…

「この学院の錘って不思議で、重量を自由に設定できるんですよ。流石、のお手製だけありますよね。でも、肉体強化をしようとする生徒はほとんどいませんからねーってどうしたんですか?」

 ——僕の脳内で、『トッカータとフーガニ短調』が音色を奏でているよ…不思議とJAハッバが自分の両親指を立てながら、僕に満面の笑みで煽ってくるよ。




「りっちゃん先生の場合、小さな錘一つ追加でいいらしいです…。そして、僕は重さの調整をしなきゃ…なので、良ければその錘は僕がもらってもいいです?」

「へ?ええ、構いませんが、そんなに重たいものを既に持ってるのに…大変そうですね」

「…はい」


 身体のあちこちに錘をつけまくっていたが…一旦外して、先生に渡し、代わりに先生からは重さを自在に変えられる不思議な錘を借りることに成功する。




 なに…これ…、先程の強くなっていた感覚が嘘のように感じる。一瞬でも力を緩めば…巨大な物に背中を押し潰されそうだっ…




 一瞬だけ振り返ると、りっちゃん先生の方もかなり辛そうだ。それもそのはずだろう。アフロディーテが彼女へ錘一つの追加のみを指示した時点で、既に全力を出していたのだろう。


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