ドラゴさんのみっかめー。

 



 おばあちゃんの家のリビングで、朝、自分はロンちゃんに土下座していた。


昨日さくじつは、本当に申し訳ございませんでした」

「おいオッサン、アンタきゅうにどうしたんだよ!?」

「ご迷惑をおかけした事、まことに遺憾に思っております」


 床に額を擦りつける。なんかメキって聞こえたけどなんだろう。まあいいや。


「なっ、ちょ、まて! 昨日までのアッパラパーなオッサンはどこいったんだよ!」

「アッパラパーはひどくない?」

「あ、よかった、悪霊にとりつかれたのかと」

「ひどくない?」


 ちょっと顔を上げてつい言ってしまった。

 だがしかし、結局は自分が悪かったのでそれ以上は何も言わないことにする。


「いや、あの、ほんとにずっと夢だと思って、マジで好き勝手行動してたんよ、自分」

「えぇえ。なんだよそれ、どういうことだよ?」


 ロンちゃんの疑問を解決するために、がんばって言葉を探す。


「実はさ、昨日……あれ? その前だからおとととい?」

「とが多い」

「あ、おとといか。寝て起きたら川を流れてたんだけど」


 がんばって説明しようとするけど、自分は説明が苦手なので、これでいいかな。いいよね。


「やっぱオッサンはオッサンか。川で寝るとか自由人すぎる」

「や、違くて。気が付いたら川流れしてたからもうこれ夢だと思ってたんだって」


 言い訳に聞こえるかもしれないけど、事実だ。


 誰だっていきなり川流れしてたら夢だと思うじゃん!


「ふーん、そんで?」

「で、夢だと思ってたから、マジでなんも考えてなくて」

「ふんふん」

「結果がアレになってました! 申し訳ございませんでした!」


 謝りついでに額をもっかいゴリっと床に押し付けたら、さっきよりも大きくメギって聞こえた。さっきからこの音なんなんだろう。


「うん、アッパラパーなのは変わんねーんだな」

「えっ、ひどくない?」

「だってオッサン、アッパラパーだろ」

「アッパラパーはひどいよ」


 頭上げようかと思ったけどなんか引っかかってる。え、なんだろこれ。


「で、いつまで頭さげてんの?」

「許してくれる?」

「いいよ、よくわかんねーけどゆるすよ」

「ほんと!?」


 嬉しくなって勝手に頭が上がった瞬間、バキべキッて変な音がして、目の前の床板がもげた。


「えええ?」

「うわっ、ちょ、床!」


 意味が分からんくて首を傾げると、ロンちゃんが慌てる。


「なんでだろう」

「いや、オッサン、ツノ生えてんだろ。それで頭さげすぎたらそうなるよ……」

「えっ? あっ、ほんとだ!」

「自分の外見くらい覚え……てねぇんだろうなぁ」

「えへへ」


 外見変わっちゃってツノ生えてんの忘れてた。

 しかも今自分イケオジなんだよ! すごいよね!


「どーすんだよこの床」

「あ、直すよ! トンカチある?」

「そこに置いてあるけど」


 ロンちゃんの指差す先に小さめの棚があって、その上にトンカチが置いてあった。

 すぐに手に取ってお礼を言う。


「ありがとー!」

「いや、せめて釘とか」

「直ったよー!」

「なんで!?」


 トンカチでトンテンカンと軽く叩いたら、なんか直った。

 ロンちゃんの問いかけを聞いて、そういえばそうだな、ってなったから考えてみる。


「……なんでだろう」

「えええ……」


 え……ほんとになんでだろう……。こわっ……。なんか直そうと思って叩いたら直るとか、不思議すぎる。なにこれ。


「あら二人とも、仲直り?」


 ロンちゃんと二人でドン引きしてたら、おばあちゃんがやってきた。


「あっ、おばあちゃん! おばあちゃんもごめんね? 色々好き勝手しちゃって」


 ほんとに色々やらかしたような気がしてるからこそ謝った。

 まさかこれが現実だなんてまったく思ってなかったから。

 なんか同じことばっかり考えてる気がするけど、ほんとに現実だと思ってなかったんだから仕方ない。


「あらあら、大丈夫よ~。むしろたくさんお手伝いして貰っちゃって、とってもありがたかったわ」

「そうかな? それならよかった」


 ホッとして、顔の筋肉が緩んだ気がする。


 おばあちゃんはほんとにいい人だなぁ。そういえば全然聞かなかったからまったく知らないんだけど、このおばあちゃん何してる人なんだろう。

 あとロンちゃんってどこの子なんだろう。親御さん心配してないかな。


「すげぇ、オッサンが話つうじそうなふんいきだしてる」

「通じそうじゃなくて通じるよ? 普段はちゃんとしてるんだよ?」


 ふんいきは出てないよ? 普段と同じだよ?


「つまりそれって、素はアッパラパーなんじゃ」

「アッパラパー言うな」


 だんじてみとめんぞそんなの。


「じゃあなんて言えばいいんだよ。ほかに言葉ねーけど」

「おばあちゃん、ロンちゃんがひどい」


 ロンちゃんを指差しながらおばあちゃんに告げ口すると、おばあちゃんはにこにこ笑ったままで、まったりとロンちゃんに向けて口を開いた。


「あらあら、ダメよロンちゃん。人の嫌がる言葉を言っちゃ」

「ひきょうだぞ! ばあちゃん使うなよ!」

「人の嫌がる言葉を言っちゃうロンちゃんが悪いんですぅ~」

「ぐぬぅ」


 いえええ~い、勝った~。


「それで、ドラゴさん。これからどうするかは考えられそう?」


 おばあちゃんからの質問に対して、顎に手を当てながら考える。


「んーと、そうだなぁ。仲間が迎えに来てくれるまで待とうと思う!」

「仲間いんのオッサン」


 ロンちゃん、自分はね、オッサンって名前じゃないんだよ。とは思ったけど、言ったらなんかかわいそうだから言わないでおく。


「いるよー! カッコよくて可愛い人と、カッコよくて綺麗な人!」

「なんもわかんねぇな」

「なんで!?」


 こんなにわかりやすく言ってるのに!


「なんでもなにも……まあいいや。仲間か……そいつらが来たら村が焼き討ちにされるんだな」

「しないよ!?」


 そんな人じゃないよユーリャさんとハーツさん!

 そりゃここが山賊とかの村ならそうなるかもしれないけど!


「ジョーダンだよ、ジョーダン。オッサンみたいなやつの仲間ってことは、多分似たようなアッパラパーか、苦労人かのどっちかだろ」

「ちがうよ! 迷子になった自分を見つけてくれる良い人だよ! もう1人はものすごーいシャチク!」

「苦労人じゃねーか。んで、しゃちく? なにそれ?」


 あ、そっか。こっちにはシャチクって言葉無いのか。アッパラパーはあるのになんでシャチクないの。アッパラパーはあるのに。


「……えーとね、シャチクってのは、たしか、んー……上の階級の人にずぅーっとネチネチ言われたり言葉の暴力振るわれたり、一日で終わらない量の仕事を押し付けられること!」

「え、奴隷じゃん」

「ドレイあんの!?」


 シャチクないのにドレイあんの!?

 世界観どうなってんの!? 異世界!? あ、ここ異世界だった。忘れてた。


「いや、この国にはいないけど、国によってはあるってばあちゃんが言ってた」

「そっかー、こわいね……」


 ドレイってアレだよね。なんか……あの……すごいやばいやつ。エジプトとかローマとか、そういう昔の時代になら地球にもあったけど、今はないやつ。

 あれ? ローマって時代だっけ? まあいいや。 


「大丈夫だ、その国すっげー遠いから!」

「そっか! よかった~!」


 じゃあ自分達には関係ないね!


 その時、いつの間にか引っ込んでたおばあちゃんがやって来て、にこにこで声をかけてきた。


「二人とも、スープできたわよ」

「やったー!」

「はーい」


 朝ごはんだー!


 細かい色々はさておき、朝ごはんである。

 昨日作ったうさぎ肉団子のスープはもう食べちゃったので、今日の朝ごはんはおばあちゃんの薬草スープだ。

 あとでまたうさぎとりに行こうかな。栄養は必要だ。


「ところでおばあちゃんって何してる人?」

「私はこの村で薬師くすしをやってるのよ」


 そっかー、おばあちゃんは、くすしさんだったのか!

 えっと、くすし、って何する人だっけ。


「ばあちゃんのくすりはすげぇんだ、ケガなんてあっとゆーまに治っちゃうんだぜ!」

「えっ、すげー!」

「だろー?」


 なるほど! 薬作る人か!

 薬師でくすしさんか!

 1回聞くだけじゃ漢字出てこなかった!


「それで薬草園があるんだね!」

「……オッサン、もうちょいかんがえながら生きたほうがいいぞ」

「ぱ?」


 ごめんロンちゃん聞いてなかった!



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る