老害クエスト

今村駿一

第1話 導かれし老害

 くそっ。

 随分と仕事の単価落とされたなぁ。

 あそこのおっさんもきついなぁ。

 しかも凄く偉そうだし上から物を言うし。

 個人事業をやっているとこういう事はたまにあるけどなんか仕事やる気無くなったなぁ。

 気晴らしにゲームでもやるか。

 今ツクールというもので素人でもゲームが作れる時代になった。

 そして作った物をネット販売しているサイトもある。

 まぁ単価落とされてお金厳しいから今日はフリーゲームで無料の方をやろう。

 玉石混合だけど面白い物もたくさんあるぞ。

 んっ?

『老害クエスト』

 何だ、このタイトルは?

 ゲーム説明を読んでみるか。

『あなたは田舎から都会に来て一人暮らしをする大学生です。これから様々な老害と戦いながら成長していくゲームです』

 ほう。

 今の気分にちょうどいいゲームだな。

 早速やってみよう。

『あなたは大学1年生です。これから学校に登校します』

『「よーし、新生活頑張るぞ」』

 爽やかで良いね。

 俺も大学通いたかったな。

『名前を入力して下さい』

 面倒だからああああで良いか。

『大学生にもなってそんな名前が無い事位知らないのですか?』

 無駄に面倒なゲームだなぁ。

 それこそ作っているの老害じゃないの?

 じゃあ俺の彼女を寝取った奴の名前で良いか。

『では寺沢君。大学に行くのでアパートから駅まで移動して下さい』

 地図が表示されたぞ。

 この人が寺沢かな。

 よし移動させよう。

 あれっ。

 おじいさんが向かって来るぞ?

 避けよう。

 えっ?

 避けているのにおじいさんぶつかってきたぞ。

『老害があらわれた。 「コラッ! 邪魔だ!」』

 戦闘画面になった。

『老害の先制攻撃。老害は怒鳴った。あなたは精神的ダメージを50受けた』

 何だ、それ。

『「気をつけろ、バカ!」 老害は怒鳴ってスッキリすると立ち去った』

 いきなり残り精神力が半分になったぞ。

 嫌なジジイだなぁ。

 おっと、急がないと遅刻するぞ。

 途中何回も老人がぶつかってこようとしてきたが何とか主人公を操作して避けながら駅にたどり着いた。

『電車に乗り、大学まで行って下さい』

『まずは定期券を買いましょう』

 学割で買えるから良いな。

 窓口はここかな?

 よし並ぶぞ。

 ん?

 おばあさんが前に割り込んできたぞ。

 戦闘画面になった。

『老害があらわれた 「あなた若いから教えてあげる。こういう時はお年寄りに譲らなくちゃダメ。わかった?」』

 スゲームカつくな。

『行動を選択 戦う、逃げる、魔法、道具』

 おっ、今度は戦えるのか。

 よし、戦う、を選択。

『寺沢はオドオドしながら言った 「ぼっ、僕急ぐんですけど」』

 全然戦ってねーじゃねーか。

『老害の口撃 「だからぁ、私が先に窓口使ってあげるって言っているの。あなた少しは我慢できる男になりなさい。そんなんじゃ小学校からやり直し」』

結局割り込まれたぞ。

『寺沢は50のダメージを受けた』

『寺沢は引きこもりになりました』

『ゲームオーバー』

 何だ、このゲーム?

 ヒデーな~おい。

 よく見たら製作者パワーバントホームランじゃねーか。

 俗にいうくそゲーを作り続けている奴だ。

 どうりで酷い訳だ。

 もうやめようかな。

 しかしゲームの説明部分を読んだら続けたくなってきた。

『あなたは老害をこの世から無くす事ができるのか!』

 という事は倒す事も出来るって事か?

 よし、もう一回やってみるか。

 

 よく見たら寺沢の恰好は色々変更出来る事様だ。

『変更するファッションを選択して下さい』

・髪の色

・髪型

・服装

 

 せめて若者には好かれる様な恰好にしてやろうかな。

 じゃあまずは髪の色を変えてみるか。


『選択して下さい』

・黒髪

・茶髪

・金髪

・紫髪

・赤髪

・銀髪


 ほう色々あるのだな。

 じゃあ大学生らしくお洒落に茶髪にしてみるか。

『寺沢は茶髪になった。持ち金5000円マイナス』

 美容室行ってんじゃねーよ。

 若いんだから自分でブリーチしろや。

 全く贅沢な若者だなぁ。

 でもまぁ都会に出てきて大学生になったばかりだったらこうなるのも仕方がないのかな。

 これ以上持ち金が少なくなると定期券や教科書が買えなくなると困るからこれでゲームスタートするか。

『では寺沢君。大学に行くのでアパートから駅まで移動して下さい』

 よーし、ぶつかってくる老害を避けながら駅に行くぞ。

 ん?

 あれっ?

 老害のぶつかってくる数が半分くらいになったぞ?

 何で?

 あっ、ひょっとして茶髪になったから?

 老害は派手な人や怖そうな人には文句言ってこないからなぁ。

 駅に着くのがだいぶ楽になったなぁ。

 

 よっしゃ。

 次は定期券を買う為に窓口に並ぶぞ。

 でもここで割り込まれるのはまだあるのか。

 まぁアパートから駅までの移動が楽になったからまだ時間があるのでここは戦わなくていいや。

 

 大学に着いた。

 大学の新一年生って希望と夢に満ち溢れているのだろうなぁ。

『「君一年生だよね。テニスサークルのアルバローザリアです。良かったら見学に来てね」』

 おおっ、早速テニスサークルのお姉さんから勧誘があったぞ。

 その他にも山岳部、漫画研究会、サイクリング同好会、フットサル同好会とたくさんの勧誘があったぞ。

 寺沢の大学生活は楽しいだろうなぁ。

『サークルを選択して下さい』

 最初に誘ってくれたテニスサークルを選択しよう。

『寺沢の大学生活が始まりました。オリエンテーションがありますので指定された教室に移動して下さい』

 よし移動するぞ。

 矢印が出ているここかな?

 しっかし人間多いなぁ。

 教室もこんなにいらないだろ。

 無駄に凝っているゲームだなぁ。

 おっ、着席していたら話しかけられたぞ。

『「4年間宜しくな」』

 早速友達が出来そうだぞ。

『「隣空いていますか?」』

 おお、今度は可愛い女の子が話しかけてきたぞ。

 彼女が出来るのかな?

『「これから4年間楽しく過ごしましょう」』

 楽しいゲームだなぁ。

 俺大学行きたかったけど行けなかったからこのゲーム凄く楽しい。

 大学の知識無いのに合コンで嘘ついてN本大学卒という事にしたら「何を勉強なさっていたのですか?」と聞かれてしまい、「いや普通科だったので特に何を勉強という事はなかったです」と答えてしまったので一発で嘘とばれた位の知識しかないからなぁ。

 とりあえずこの日は男友達4人。

 女友達も2人出来るという凄く幸先の良い日だった。

『それでは帰宅して下さい』

 よし帰るとしよう。

 次の日からは色々青春イベントもあるのかな。


『2日目朝』

『ピンポーン』

『インターホンが鳴りました』

・出る

・出ない


 同じアパートの人か大家かもしれないからとりあえず出る、を選択してみよう。

『「N○Kです。これ契約の申し込み用紙だから。すぐに書いて。ほら、グズグズしていないで早く書く」』

 何か横柄な老害だなぁ。

『行動を選択 戦う、逃げる、魔法、道具』

 おっ、戦闘画面になったぞ。

 よし、戦う、を選択しよう。

『戦う「うちはテレビ無いですけど」』

 よしいいぞ!

 これは撃退しただろ。

『老害の口撃「はぁ、携帯電話持っているだろ、持っていたら払わなきゃダメなんだよ。なぁ、あとお前の住んでいる所から電波が出ているのを確認したんだよ。第一契約は国民の義務なんだよ。お前そんな事も知らないのか?」』

 あ~これは凄い老害が来ちまったぞ。

『契約書に記入した』

 結局言い負けちゃった。

『寺沢は50のダメージを受けた』 

 本当にテレビ無いのにこれじゃダメージも受けるわな。 

『ピンポーン』

『インターホンが鳴りました』

・出る

・出ない


またかよ。

今度は出ないぞ。

『ドンドンドンドン』

『ドンドンドンドン』

 結構しつこくドア叩くな。

『ドンドンドンドン』

『ドンドンドンドン』

『ドンドンドンドン』

『ドンドンドンドン』

 出るしかないか。

 出る、を選択。

『「はいこれ洗剤」』

 おっ、今度は同じアパートの住人の方か。

 受け取る、を選択。

『「はい新聞6カ月ね。早く契約しろよ。なぁ」』

 何だよ、新聞勧誘団かよ……

 そして老害かよ……

『行動を選択 戦う、逃げる、魔法、道具』

 戦闘画面になった。

 これは何とかしないと6カ月新聞取る事になってしまうぞ。

『寺沢は逃げる、を選択した。ドアを閉めようとする。しかし足先を入れられてしまった。ドアを閉められない』

『老害の口撃 「足先痛ってぇ~。折れたかもしれねぇ~。お前よぉ、洗剤貰っておいて暴力まで使うの? 治療費親に話し持って行くからさぁ実家の電話番号教えろや!」』

『寺沢は100のダメージを受けた』

『寺沢は引きこもりになりました』

『ゲームオーバー』

 待て、待て、待て。

 せっかく大学生活楽しくやれそうだったのにまたゲームオーバーになったぞ。

 第一寺沢のメンタル弱すぎるだろ。

 どこの田舎から出てきたんだよ、全く。

 やっぱりこのゲームもくそゲーの評判でクリア動画も攻略サイトもどこにも無かった。

 ただゲームの感想を書く掲示板を読んでいたら、このゲームのエンディングを見たら心が震える、と何人かが書いていた。

 複数人書いている人がいたので自演でも無さそうだ。

 このゲームで? とも思ったがそこまで書く人がいるのだったら俺もクリアしてみようと思ってしまった。

 よーし、やり込むぞ~!



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