人見知り賢者は他人のいる日常から逃走したい

@mika13

第1話 引き篭もりが転生しちゃいました

 お昼寝から目覚めると、目の前に『神』と名乗る男性がいました。

「あまりに不憫な引き篭もり生活だから、異世界でのチート付きやり直しをプレゼント」だそうな。


 面倒くさいです。私はもう患者の機嫌を取るような薬剤師生活に嫌気がさしたのです。今目の前にあるような、いかにもな異世界物の転生シーンが事実だとしても、どうせ夢とかそういうのに決まっています。


 私はそのまま二度寝しました。


 ◇


 二度寝から目覚めると、目の前に『おかあさん』と名乗る女性がいました。

「お腹が空いただろうから、お乳をプレゼント」だそうな。


 やり直しってどこから? 赤ん坊から?

「以前の世界とは位相の異なる世界の地球で、赤ん坊に転生してやり直しとなりました」

 疑問を脳内に浮かべると、回答が返ってきましたよ?


 ははあ、万能回答チートですか。じゃ質問、魔法とか使えたりしますか?

「私はスキル名【知識】と申します。現在所属している世界のあらゆる物事の情報を閲覧運用できるスキルですので、よろしくお願いいたします。さて、人が魔法を使用することは可能ですが、発動するにはスキルを習得するまで、それなりの訓練が必要です」


 なるほど、知識チートを使って魔法が使えるようになれば、早めに独り立ちできるかもしれません。前世では他人が怖くて働けなくなって、親から食べ物をもらうだけでしたが、【知識】さんがいれば他人と会わずに自給自足生活はできるはずです。

「身体基礎スキルが各2レベルになれば、【農耕】【牧畜】などの生産系スキルが取得可能になります」


 身体基礎スキルってなに?

「【筋力】【持久力】【瞬発力】【技巧】【バランス】の5スキルです。レベル1は5歳児、レベル2は10歳児程度です。軍人など体を鍛えている成人はレベル5〜6程度になることがあります」


 なるほど、【知識】先生の言うままにステータスを開いて見ましたが、見事なまでに何もありませんでした。

 よし、早めに10歳児並みの体まで鍛えましょ。今世では親にも誰にも迷惑かけないよう、清く正しい引き篭もりにならなくちゃ!


 ◇


 まずはろくに動けないこの体を何とかしなくちゃなりません。というわけで、お乳からタンパク質を補給しつつ、動かせる筋肉をできるだけ動かして、筋肉合成を促します。

 私、引き篭もり始める前は薬剤師免許持ってたからね。知識さんの力を借りなくても、これくらいの微妙な生化学チートくらいできます。えっへん!

 ……それにしても、おかあさん。授乳とかおむつ換えとか、いろいろ迷惑かけてごめんなさい。一刻も早く出て行けるように頑張ります。


 筋トレと並行して、魔術のトレーニングも始めました。

 【知識】先生によると、魔法とはあらゆる物質に含まれる『魔力』を操作して得られる事象であり、魔術とは目的の魔法を実行するための技術だそうな。

 つまり、自分の体や空気中の魔力を使って魔法を使う事で、存分に魔術練習はできるということです。


 【知識】先生の指導に従って、体内の魔力を練るところから始めます。

 まずはヘソ下に暖かい球を感じるように意識し、正中線に沿って股、背中、頭頂、胸、ヘソ下、と回転させます。この過程を以って、全身から魔力を集めて圧縮しておくらしいです。綿飴をぐるぐる集める要領でやったら比較的簡単にできました。

 前世世界では、『小周天しょうしゅうてん』と呼ばれていたオカルト技法ですね。オタク活動として幅広くその手の知識は網羅してますので、割とスムースにいった感じです。


【魔力操作Lv1】は、自分の体内の魔力を操作できるようになった時点で取得できました。

 ならば【魔力操作Lv2】は空中の魔力だろーなーと思って、指先に魔力を集める感じでぐるぐるして魔法球を作ったら取れましたし、調子に乗って部屋中にも魔力球を巡らせて集めまくっていたら、【魔力操作Lv3】まで取れちゃいました。


 室内に魔力が少ないのを感じたのか、授乳に来たおかあさんが怪訝な顔で窓を開けていました。感知できるってことは、おかあさんも魔術師なんでしょうか?

 まあ、単に空気が悪い、息苦しいって感じただけかもしれないですけど。

 窓が開いた瞬間、外の空気から魔力が室内に流れ込んで来ましたよ。エントロピーの法則は魔力にも通用するんですね。


 なんやかや、私がある程度自分で動けるようになるまで、じーっくり練習しておきましょうかねー。


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『私』による人物紹介


『私』

 幼少期にテレビゲームに出会って感銘を受けて以来、ゲーム作りに関する各方面のスキルを磨き始めました。

 シナリオ作りの為に読み漁った本の影響から、オカルトや科学に強い薬学を専攻すると決め、薬剤師免許取得後に実家に呼び戻されて薬局に就職したが、田舎のご老人の我儘に精神を壊され、引き篭もりになっていました。

 ある日、引き篭もって徹夜でゲームをして寝ていたら、突然異世界に転生させられて現在に至ります。


『神』

 いかにも異世界ファンタジーな冒険者服を着た黒髪黒目の東洋人っぽい人。年齢は20歳くらい。

 背後にいた誰かと話しながら私の過去を言い当てていったのはお見事。土下座して神らしくないなーと思っていたところだが、見直しました。

 チートとして【知識】のスキルをくれた人。


おかあさん

 異世界の言葉は分かりませんが、意識を取り戻してから授乳やらおむつ交換やらしてくれるので、たぶん母親。

 メイドさんっぽい人も時々育児の実技指導で来てくれていたのですが、最近は見かけません。私の社会経験(3ヶ月)から言わせてもらえば、そろそろ何かやらかす頃。


【知識】先生

 自称神様から貰った話ができる珍しいスキル。なんでもスキルは【】で括られてステータス表示されるっぽい。

 行ったことがある世界の全ての情報を知る事が出来るらしいので、前世世界の機密情報すら聞けば教えてくれます。どっかの大国の宇宙人情報とか知りたいところですねー。

 現在は異世界言語と魔法とスキルの家庭教師をしてもらってます。














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