第2話 名前を聞いた後は

「えーっと、行くって、あの……どこに……」

 置かれている状況に未だに理解できていないサクラが、不安そうに問いかけると、髪の長い女の子がパンッと両手を叩いてエヘヘと笑った

「そうだね、私がサクラをおんぶするから、その間にサクラはこの本を確認して、状況を理解してて」

「確認と理解って……。ちょっと無理です」

 無理矢理サクラをおんぶしようとする女の子。力強さに負けて、サクラが身を任せるようにおんぶされると、二人な様子を見て、髪の短い女の子が呆れたようにため息をついた

「ちょっと、恐がっているじゃん、もう少し優しくしないと」

「えー。だって、急がないと」

 そう返事をすると、ふわりと空を飛び公園をサクラと共に後にする女の子。髪の短い女の子も後を追うように空を飛ぶ





「残念。間に合わなかったかー」

 公園からもサクラの家からも大分遠く、見知らぬ場所まで飛んできた女の子。辺りを見渡して残念そうに地面へと降りていく

「あの、私も降ろしてください……」

「ああ、ごめんね」

 思っていたよりも長く飛んだため、少し酔ったサクラ。降ろしてもらうと足元がフラフラと動いて、ペタンと座ってしまった

「この状態じゃあ、間に合ってても邪魔なだけだったね」

「仕方ないよ。サクラに何も教えずに来たから」

 サクラの様子を見て、またため息混じりに髪の短い女の子が言うと、サクラに手を伸ばしエヘヘと笑いながら答える髪の長い女の子。サクラがその女の子の手を取りゆっくりと体を起こし、ふぅ。と深呼吸をしていると、髪の長い女の子が、サクラに話しかけた

「そう言えば、なんで私の名前呼んでくれなかったの?もっと早く来れたのに」

「名前ですか?あの時、遠いし周りの音で聞こえなくて……」

「ああ、そっか。それなら仕方ないか」

 と、サクラの返事に納得すると、髪の短い女の子の隣に移動すると、サクラにエヘヘと微笑む

「私の名前はノイズ。こっちはノオト。これから、とても迷惑をかけると思うから宜しくね」

 髪の短い子にぎゅっと抱きしめながら、自己紹介をするノイズ。抱きしめられて嫌そうなノオトに、更にぎゅっと強く抱きしめる


「私の顔に何かついてる?」

 と、驚いた顔しているサクラに気づいたノイズが頬を触りながら問いかけると、サクラが慌てて何度も首を振る

「いえ、とても素敵な歌を唄っていたのにって思って……」

 と、ノイズの名前を知ったサクラがそう言うと、ノオトも少し驚いた顔をしてノイズを見た

「唄?ノイズ、うたうの?」

「……私だって鼻歌くらいするよ」

 さっきまでの明るさとは違い、少し声を小さく返事をしながら、ノオトから離れると三人の会話が止まったその時、突然ノオトの左肩に黒い猫が現れた


「ノオト、ノイズ。今日はもう帰っていいって」

 と、黒い猫が二人に話しかける。驚くサクラに対し、二人は困ったようにその黒猫を見ている

「そう。じゃあ私は帰るけど……」

「私はサクラといるから」

 ノイズを見ながら問いかけたノオトに答えながらサクラにエヘヘと微笑む

「今日、サクラのお家に泊めて」

 突然のお願いにすぐに返事が出来ず、ノオトの方を見た。サクラと目があったノオトが、呆れた顔でノイズに話しかけた

「ほら、あの子困ってるでしょ。私と一緒に帰ろ」

「えー。ついでに色々話せていいじゃんねぇ」

 と、ノオトの注意も聞かずサクラに近寄りまたエヘヘと笑う

「朝には帰るよ。だからねっ」

「わ、分かりました……」

 両手をぎゅっと掴まれ言うノイズに負けてサクラがゆっくりと頷く


「ありがとー。早速帰ろ!ノオト、報告お願いね!」

 返事を聞いて嬉しそうにサクラに抱きつきながらノオトに言うと、黒猫と一緒に呆れた様子でサクラとノイズから背を向けた

「ノイズがワガママ言っていたって報告しておくから」

「えー、ちゃんと見つけたって報告してよ」

「お願いしただけでしょ?」

「そうだけどさ、けど大丈夫だよ」

「……そう」

 ちらりとサクラを見たノオト。その視線にサクラが一瞬ビクッとする。すぐにサクラから目線を離したノオトは、黒猫と一緒にふわりと空を飛んでどこかへ行ってしまった。その後ろ姿をサクラがぼーっと見ていると、突然後ろから、ぎゅっととても強く抱きしめられ、ノイズがサクラの耳元で囁いた

「私達も帰ろ。サクラのお家までの道案内お願いね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る