Day.6-2 【2人プレイ】『名古屋撃ち』

 13時50分ごろ、くだんの女子高生が緊張した面持ちで入店する。

「待ち合わせで、2人です」

「2名さまですね。どうぞこちらへ」

 気を利かせて壁側の席に案内する。


 そわそわする彼女をよそに、14時になっても噂の大学生は現れない。女子高生は窓の外と時計を交互に見つめる。14時20分になったころ、女子高生は店の公衆電話でアポを取ったと思しき友達に電話をかける。

「待ち合わせって2時で間違いないのよね?…そう。」

「場所は…?…!『駅の喫茶店』って?それじゃ、別の喫茶店に行っちゃうかもしれないじゃない!」

 電話を切ると、女子高生は急いで会計を済ませ、店から出ようとする。

「ちょっと!待って!」

 俺は半ばパニックになっている女子高生に声をかけた。

「ごめん、事情は聞こえちゃったんだけど、もしかしたら待ち合わせしてる人、本当に遅れてるだけかもしれないんだよね。」

「っ、はい!でも…。」

「もしその彼が店に来たら店で待ってるように言うから、君は他の喫茶店見て、どこにも居なかったら戻ってきて。」

「…はいっ。ありがとう…ございます。」

 半泣きで、女子高生は髪を振り乱して走っていく。

 その後、彼女は帰ってこなかった。別の店で落ち合えたようだ。


 夕方ごろ、よく知る声に呼び止められる。私服姿の営業さんだった。

「おーい、兄ちゃん、この前のゲームだけど」

「はい」

「オモチャ屋のオヤジ、イマイチだって言ってたなあ。」

 それはそうだ。将来、爆死ハードとして名を残すのだから。

「でもなあ、兄ちゃんも元々勤め人つとめにんやってたんならわかると思うけどなぁ…。」

営業さんはニっと笑って続ける。

「客から売れないって言われた方が営業としては燃えるよな。」

「難しいゲームみたいに、ってことですか?」

 俺もニっと笑って応える。

「一丁前に言うじゃねえか。せっかくだから…」

 営業さんは机のアーケードゲームに100円を入れる。俺も促されて卓に着く。

「ゲームで勝負だ。おもちゃ会社歴二十数年の俺を見くびるなよ!」


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【ミッション】交互プレイで営業さんと勝負

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 強い。強すぎる。営業さんは次々と敵、高得点のUFOを撃ち落としていく。

 ーーでも何か、遊び方にクセがあるというか…。

「兄ちゃん、『名古屋撃ちなごやうち』、知らねえの!?」

「『名古屋撃ちなごやうち』…?」

「敵が一番下まで下りてくるのを待って、砲台トーチカすぐまで来たら一気に倒す裏技だよ。お前の番だ、やってみろ。」


===

【ミッション】『名古屋撃ち』を成功させよう。

===


 営業さんには負けてしまったが良い勝負だった。ゲームが終わると、営業さんにせっかくの土曜日、奢りだ、飲みに行こうと誘われる。

 オーナーからも今日は上がりでいいと言われ、夜の街に吸い込まれる。

 ーー残念だけど、今夜はもうゲームはできないだろう。



====

Day6

収入:日給の5,000円

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