Day.5 【中断③】決断

 1980年9月5日(金)


 昨日のみっともない自分語りから、気恥ずかしさも手伝ってオーナーをなんとなく避けてしまっている。そんな自分のことも嫌になりながら、俺は粛々とホール業務をこなしていた。


 午後には先日の女子高生の一団が来店した。

「あんたの好きな先輩ね、兄貴に聞いたけど今彼女いないんだって。」

「えー!先輩大学生だし、ちょっとチャラそうなのに?」

 メロンソーダを持っていくと、早速容赦のない女子トークが繰り広げられていた。

「怖そうよねー。」

「でも、大人っぽくてかっこいい…もん。」

 恋する女子高生が反論するや否や、一団から「華の女子高校生!」と野次が飛ぶ。

「あんたがそこまで言うならさ、先輩んチ、近所だから土曜日に喫茶店で待ってるって伝えとくわ。」

 一人の提案にきゃあきゃあと歓声が飛ぶ。スマホがない時代の待ち合わせは喫茶店なのか、と妙に納得する。

 と、同時に自問自答する。あの女子高生のように、誰かがけなしたものを、それでも欲しいと言えたことがあったかと…。

 ーー俺は今まで周りが良いと言うものを選んできたんだ。



 そうこうしているうちに、店じまいの時間になった。

 オーナーとの話を反芻しながら、店内を掃除する。椅子を、テーブルを、アーケードゲームを、棚を、一つ一つ拭いていく。

 今拭いているのは最初に入店したときに座った椅子、アーケード卓だ。この家具も、オーナーも、ここから元いた時代まで40年以上、ずっとここに居続けるんだ。

 恋に悩む女子高生ですら、どうしたいかくらい自分で決めていた。

 ーーどこでどう生きたいのか、決めなきゃな。

 


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Day5

収入:日給の5,000円

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