10

「じゃあさ夏向くん!明後日、久しぶりに外で遊んでみない?一緒に!」


「……はい…!?」


彼女の突然の提案に、俺は頬張っていた卵焼きを吹き出しそうになった。


「夏向くんも私も、一人じゃ外に出ないでしょ?でも、二人一緒なら引きこもりぼっちを辞められるんじゃないかなーと思って!」


「いや…別に俺、引きこもり辞めたくはないですし…」


「私と遊ぶよりも家でゲームしてたいってこと?」


「…いや…そういう訳では…」


「じゃあ決定!女の子からのデートの誘いを断るなんて野暮なことしないでね?」


「デっ!!!?ゴホッグホッ…」


「あー、大丈夫?ほら、落ち着いて」



優しく宥めるように俺の背中を擦る鳴美さんの手が、ひやりと冷たかったのを覚えている。


耳元から聞こえてくる鈴の音のような美しい声とそれに混じる微かな吐息。


数cmの距離から伝わる体温は確かに温もりを含んでいるのに、俺の背中に触れた手だけが、何故か冷たかった。



しかし、キモオタ陰キャの俺は女子からの人生初のボディタッチに舞い上がっていて、そんな感想はすぐに忘れてしまっていた。



とにかくこうしてまた訳の分からぬうちに、俺は鳴美さんのペースに巻き込まれて気がついたら日曜日にデートの約束をしていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る