第三十四話 ダンジョンの町 三 教会

あねさん! ご無事で!!! 」


 オレ達が教会へ急いでいると仲間の冒険者が声をかけてきた。


「おう。お前らもなんかあったのか? 」

「へい。何やら襲ってきたのでかましてやりました! 」

「殺していないだろうな? 」

「言い付けの通り、しばっているだけでございやす」


 ならいい、と言いオレ達は走る。

 十人以上の世紀末冒険者達を連れて行くという大所帯おおじょたいだ。

 これをアルミルの町の外でやることになるとは。

 だが犯罪者の町で逆に良かった。

 普通の町だと完全にオレ達が犯罪者と間違われる。


「あっし達もついて行っても? 」

「ああ構わねぇ。オレ達はこれから急いで教会に行き、この町を出るから準備しろ」

「教会のもんを外に連れて行くんですかい? 」

「ああ」

「なら教会に全員集めましょう。その方が安全でさぁ」

「そうだな。頼んだ」

「了解しやした! 」


 そう言い、一旦彼は離れた。

 すると走っている横からエルジュの声が聞こえてくる。


「申し訳ありません。このようなことになって」

「気にするな。それにカムイ司祭の恋人を少人数の護衛でここに向かわさなくてよかったと思うよ」

「感謝の念にえません」

はからずともアルケミナが動いたおかげで公爵家の騎士マリアンが着いてき、大人数の護衛が付いた。もし感謝するのならばアルケミナではなく神にでもこの天運を感謝すると良い」

「……何気なにげにオレが非難ひなんされていないか? 」

「そんなことはない。彼女の運は天性てんせいの物だろう。そう、アルケミナ。君のように」

「……ケルブにめられるとそれはそれで気持ち悪い」

吾輩わがはいにどうしろと? 」

「着きました! 」


 オレとケルブが話しているとマリアンが全体を止める。

 前を向くとそこには古びた、今にも崩れそうな教会があった。


「……これはひどい」

「中の様子も大体想像つくな」

「あっしらの家よりひでぇ」


 と、崩れそうな三角の屋根やがれ落ちている外装がいそうを見ながら、口々に感想を言う。

 隣を見ると痛ましいといった表情を浮かべるエルジュが。

 そして彼女はオレ達を前に出て、決意に満ちた表情で緑の瞳を向けてきた。


「わたしはこれから話を付けてきます」

「わかった。だが中は危ないかもしれないぞ? 」

承知しょうちの上です」

「ならば私が付いていこう」


 青く長いポニテをらしながら前に出るマリアン。

 長剣ロングソードつかに手をやり「任せてください」という。

 ならば二人に任せようか。


「こいつらの内誰か護衛に付かせようか? 」

「それはありがたいのですが、その……」


 なにやら少し言いにくそうな表情をするエルジュ。


「ふむ。今回は彼らを教会の中に入れない方がいいかもね」

「どういうことだ? 」

「いやなに。今まで賊の圧政あっせいに苦しんでいたと仮定するのならば彼らの格好は少し刺激的過ぎるかもしれないからね。エルジュ嬢の交渉に影響を及ぼすかもしれない」

「ひでぇ」

「だが言い訳が出来ねぇ」


 ケルブの言葉にダメージを負う野郎共だが理解しているようだ。

 なにも言わない。

 そしてオレ達とエルジュ達の二手に分かれた。


 ★


「……難航なんこうしているみたいだな」

「それも仕方ないだろうね。賊に何か弱みをにぎられている可能性もあるのだから」

「オレ達じゃ……どうにもできないか」


 エルジュ達が入ってしばらくした。

 中からはなにも聞こえないので喧嘩けんかの様にはなっていないようだ。

 しかし進展がないのか外には出てこない。

 そうしているうちに大勢の賊、いや世紀末冒険者達がやってきた。

 他の宿に泊まっていた奴らだ。


「遅くなってすみません」

「いや。距離がある。仕方ないだろう」

「途中妨害が入りましてね」

「妨害? 」


 ソルムが前に出て来て頷きそう言う。


「どうやら奴ら町のあちこちに情報もういているようで、オレ達が反撃したことがすでに町中にバレているようでさぁ」

「それでここへ来る途中度重たびかさなる襲撃を受け、遅れたというわけで」

「「「申し訳ありませんでした!!! 」」」


 一斉いっせいに頭を下げるソルム達モヒカンとスピルニ達肩パット。


「いや。仕方ない。見た感じ怪我がないみたいだな。お前らにけがが無くて何よりだ」


 そう言うと頭を上げて目をウルウルとさせる野郎共。


「おいこら。この程度で感動するな。それが本当ならすぐにでも襲撃があるかもしれねぇってことだろ? 気合い入れな! 」


 そう言うとすぐに顔を引きめ悪者顔になる。

 あるモヒカンは短剣を手に取り、ある肩パットは集中を始める。


「……来たみたいだ」


 ヴィルガがそう言うと遠くに武器を構えた集団が見えてきた。


 ★


「早くこの町から出ていきましょう」

「そう言う訳にはいかないのです。何卒なにとぞご理解ください」


 教会の中。エルジュとマリアンが一人の老婆ろうばに詰め寄っていた。

 しかし老婆も頭を下げつつ、かたくなにこの町から出ようとしない。

 その様子を見てエルジュがポツリと呟いた。


「やはり何かおどされているのですね」

「そのようなことは……」

「もしくは人質を取られているか、だ」


 マリアンが付け加えるとボロボロの修道士の服を握る老婆。


「……私が帰ればすぐにでもこのダンジョンの町、ひいてはガガの町に捜査そうさが入るだろう。あらぬ罪を着せられる前に脱出することを進めるが……」

「それでもっ! 」


 と、強く言っていると外から「ドン!!! 」と爆音が中に響いた。

 建物自体が揺れているのか上からほこりが落ちてくる。

 同時に外からたけびのような声が聞こえてきた。


「何だ?! 」

「戦闘! 」


 すぐさまエルジュと老いた修道士を護るようにマリアンが長剣ロングソードを入り口に向かって構える。

 だがマリアンは後ろから大勢の気配を感じた。

 それと同じくしてエルジュは奥から大勢の子供達が出くるのを見た。

 それにエルジュが驚き、その声に反応してマリアンが後ろを向いた。


「この子達は?! 」

「エルジュ殿、一体」

「きゃぁぁぁぁ」

「おおきなおと! 」

「あ、あれ? しらないひと」

「おねえちゃんたちだれ? 」

「みたことないひとー」


 十人を超える子供達が一斉に出てきて質問めする。

 老婆が「こ、こら。危ないから勝手にでてきちゃだめでしょう? 」ととがめるとすぐに収まった。


「……助祭じょさい。この子達は一体」


 そう言われ老婆は狼狽うろたえ、下を向く。

 だが決心したかのような表情で顔を上げてエルジュの方を向いた。


「この子達の事をお話しましょう。そして……子供達を、この町の子供達を助けてください。何卒なにとぞ、何卒」


 り響く男達の雄たけびが聞こえてくる中、助祭の説明が始まった。

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