第二十九話 ガガの町の世紀末冒険者

「「「お久しぶりで、ございやす。アルケミナの姉御あねご!!! 」」」

「おう。お前達も元気してたか? 」


 ガガの町の馬車停留ていりゅう所。

 そこにはいつものごとくオレを待つ世紀末冒険者 (ガガの町ver. )がいた。

 全員が頭を下げるなか、軽く挨拶。

 すると一人が頭を上げてオレの方を向いた。


長旅ながたびご苦労様です! 」

「そんなに疲れてない。あいつらもいるしな」


 と、アルミルの町の世紀末冒険者達の方を指さし「大丈夫」という。

 他の面々もすでに頭を上げておりその方向を見る。

 だが、少し威圧のこもった瞳だ。


「姉御と旅なんて……うらやましい」

「きぃぃ! オレなんて一回も行ったことねぇのに! 」

「次こそは……次こそは! 」


 そんな後ろの者達を見てか「失礼」とだけ言い鈍い音が聞こえてきた。


「お見苦しいところを」

「程々にしてやれよ」


 そう言いながら頭を抑える強面達を苦笑いで見た。

 軽く見渡し、少しいつもと違うことに気が付く。


「そう言えば……あいつはいないのか? 仕事か? 」

「あいつ……。あぁ、ヴィルガの兄貴は今仕事で——」


 そう言いかけると大きな足音が聞こえてきた。

 瞬間、空気が変わったような感じを受ける。


「アルケミナ殿」


 そう言いオレをかばおうと前に来るマリアンだが、肩を抑えて「大丈夫だ」と伝える。

 それを聞き一瞬戸惑うも、何かさっした様子で横に引いた。


 遠くを見ると人影が見えてきた。

 それはどんどんと大きくなり近付いて来る。

 響く音も大きくなる中、ガガの町の野郎共は更に道を開けて背筋を伸ばす。

 そして大剣を背負った二本の角を持った大男が目の前に現れ——ひざをついた。


「遅くなりまして申し訳ありません。アルケミナの大姉御」

「おう! ヴィルガ。久しぶりだな! お前今日もデカいな! 元気してたか? 」


 「この通り、おかげさまで元気にしております」と更に頭を下げるヴィルガの方をぺちぺちと叩きながら挨拶。

 周りにいる見物客のような奴らからどよめきが走るがいつもの事だ。

 気にしない。


「ア、アルケミナ殿。この方はもしかして……」

「ん? ヴィルガの事を知っているのか? 」

「は、破城のヴィルガ……殿では? 」


 横で顔を引きらせながら聞くマリアン。


「ヴィルガ、お前そんな二つ名だったのか? 」

「……不本意ながらそう呼ばれています」


 やっぱりという声が聞こえる中、一先ずここでは他の人の迷惑になるということで冒険者ギルドへ向かうオレ達だった。


「ア、アルケミナさんは一体……」

「慣れだよ、慣れ。時には環境に順応じゅんおうすることも必要だと思うのだがね。エルジュ嬢」


 ★


「あっらぁ~、今日は大勢ね」


 冒険者ギルドへ向かう途中、どこからか女性の声がした。

 その方向を見るとひとりのおばさんが声をかけて来ていた。

 そしてそれに応じる世紀末冒険者。

 ツルペカの頭に手をやり頭を下げながら話し、こちらへ戻ってきた。


「仲良くやってるみたいだな」

「仕事を積極的に受けるようになり、こうして引きめられることも」

「いいんじゃないか、前に比べれば」


 隣にいるヴィルガを見上げて、彼らをめた。


 実際この辺りはあまり治安ちあんが良くなかった。

 あちらこちらにゴミが放置され、住民と冒険者の間もギスギスした感じで。

 それをめあげ、こうして比較的住みやすい町へと変貌へんぼうしたのだが。


「しかし良く短期間でここまで改善したな。きっかけを作ったオレがいうのもなんだが異常なスピードだぞ? 」


 隣の冒険者に声をかけると苦笑いされた。

 おい、お前達。なにか強硬きょうこな手段をとってないだろうな?


「姉御が心配するようなことはしていません」

「そ、そうか? なら良いんだが」

「ええ。俺達の心が入れ替わったことを、見える形で見せただけでさぁ。これも姉御のおかげで」


 ……。そこにオレが関与しているのか?

 どれだ。いや、こいつら何をした?!

 気になるが……聞かない方が良いんだろうな。


「さ、着きました。冒険者ギルドでさぁ」

「……やっぱり日に日に綺麗になってるな。このギルド」


 そう感想を呟きながら、強面達が扉を開けて、先に入った。

 それを追うかのようにオレ達も足を踏み入れた。


「「「おつとめご苦労様です! 姉御!!! 」」」


 いや、その迎えられ方はちょっと……。


 ★


 冒険者ギルドで世紀末冒険者達による歓待かんたいを受けた後、オレ達は集まり机についていた。


「まさか破城のヴィルガ殿までアルケミナ殿の傘下さんかとは」

「いや傘下なんて大袈裟おおげさな。単なる……そう単なる友達だ」

「この状況をみて君がアルミルの町とガガの町の冒険者を動かしていると思われても仕方ない、と吾輩わがはいは思うのだがね」

「そんなことはない。野郎共は自発的に行動しているだけだ」

「最初は皆、そういうのです」

「騎士が言うと洒落しゃれにならん」


 そう言うとマリアンがクスリと笑い場がなごんだ。


「エルジュ殿も求めている情報があるといいのですが」


 そう言いながら受付で色々聞いているエルジュをマリアンが見た。

 それにつられるかのようにオレも見る。


「ダンジョンの町、か。そう言えばオレも行ったことないな」

「姉さん、もしかしてダンジョンの町まで行くつもりで? 」


 オレが呟くと、モヒカン冒険者が聞いて来た。

 軽く頷き肯定する。

 しかし彼はそれには反対のようだ。


「止めておいた方がいいと思いますが」

「だがオレはダンジョンの町にあるという教会まであの魔族の神官——エルジュにつきそうように約束した。反故ほごにするわけにはいかん! 」


 止めようとする彼に強く言う。

 どうにかして止めたいようで、周りの冒険者達もその危険性を訴えてくる。

 だが約束は約束。

 破るわけにはいかない。


「姉さんの性格は分かっているつもりです……。しかし今回ばかりは……」

「なら、我が護衛に着こう。異論いろんは、ないな」


 ふと気づいたらヴィルガがこちらを見降ろしそう言った。

 冒険者達が慌てて後ろを向いて場所をゆずり「ないです! 」と言い引き下がる。

 頷くヴィルガにお礼を言う。


「助かったぞ、ヴィルガ」

「いえ。それほどでも。しかしダンジョンの町は危険。本来なら我も止めたいところではあります。しかし——行くのでしょう? 」

「ああ、もちろん。それが約束だ」

「分かりました。手続きをしてきますので、しばしお待ちを」


 そう言い三メル程ある巨体を受付に動かした。


「……一先ずアルケミナ殿の影響力が異常というのは分かりました」

「そんなことはない」

「あるさ。Aランク冒険者をあごで使っている時点で、無いとは言わせない」


 ケルブの言葉にマリアンも頷く。

 くっ、確かに普通からは離れているかもしれないが異常ではない!


「おや。エルジュ嬢の情報収集が終わったようだ」


 ケルブがそう言い受付の端を見るとこちらにやって来るエルジュが見えた。

 軽く手を振り、こちらに来るよう促す。


「お待たせしました」

「お目当ての情報は得られたか? 」


 椅子に座り錫杖しゃくじょうを置いて首を横に振る。


「わたしが知っていること以上のことはあまり」

「そうか……。力になりたいがオレもダンジョンの町には行ったことがないからな。情報は現地調達ちょうたつになりそうだ」

「なら冒険者の皆さんから聞くというのは如何いかがでしょうか? 」

「うむ。それは良い考えだ。だが、しかし同時に情報は金になる、というのを……マリアン嬢なら知っているだろ? 」

「確かにそうですが……」


 そう言いながらチラチラこちらを見るマリアン。

 言いたいことは分かる。

 分かるが、本当はそれはエルジュ自身がやらないといけない事であって、例え彼らを統率とうそつしているからと言ってオレがやることではない。

 いややるべきではない。


「それに関しては自分で情報を集めてくれ」

「……はい」


 少し見放す感じになるが、仕方ない。

 野郎共が命がけで得た情報だ。

 それをオレの一声で貰うわけにはいかない。


 エルジュも分かっているのだろう。置いた錫杖を少しギュッと引き寄せて顔を引き締めこちらを見た。


「じゃ、今日の所はこれで解散としよう」


 こうしてオレ達はガガの町での一日を終えた。

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