閑話 ラウールの戦い・後編

side:傭兵ラウール



背後から誰かの声が聞こえる。


確認しようと振り返ると、教会の入り口に男性が立っていた。


あの人は確か、、、


グラフィアス商会のレサト殿だ!


かつて冒険者をしていたボクが世話になった商会の人だから、何回か挨拶をしたのを覚えている、でも何故彼がここに?



「貴方が誰か知りませんが、女神様に失礼では?」


「いえいえ、先程も申しました通り、ここにある像は女神像ではありません。」


「ではいったい何だと言うのです!」


「創造神像です。その証拠に神父様やシスターさんが居ないでょう?勿論神殿の神官もね」


「たっ、確かに居ませんが、だからと言ってここにある像が創造神像だという証拠もありませんよね?」


「創造神様に証拠も何も無いでしょう。この世の全ては創造神様が創造なさった物なのですから。

したがって祈りを捧げる者の心次第で、その辺の石でさえ創造神像となるのですから。」


「ふんっ、詭弁ですね。全てを創造したと言うのならそれは女神様以外にはあり得ません。女神様を否定なさるつもりなら、こちらにも考えがありますよ」


「詭弁で結構。ですが最初から私は神殿の考えを否定する気も、女神様を否定する気もありません。

ただ、この教会にあるのは創造神像だと言っているだけであり、グラフィアス商会会長であるこの私、レサト・グラフィアスが保証します!」


「グラフィアス?何処かで聞いたような、、、あっ、スコーピオンの御用商会か!」


「正解です♪サワタリ神官長は創造神様がキャラバンシティに降臨された事は御存知ですか?」


「そんなものは誰かが流した嘘に決まっています。」


「創造神様の事は『サダルスウド侯爵、アリエス辺境伯、ピスケス伯爵』が連名で公式にお認めになられています。

その事を神官長である貴女が否定なさる、となるとそれは神殿の総意と受け取りますが、宜しいですね?」


「まっ、待ちなさい(汗)誰も創造神様を否定などしていないでしょう!分かりました、この教会にある像は創造神像だと認めます。

ですが女神様に詭弁は通用しないと覚えておきなさい。ではラウール君、次に会う日を楽しみにしています。」


「あっ、はい」





ふぅ~


サワタリ神官長が帰るのを見届けると、一気に疲れが(汗)



「レサト殿ありがとうございました。お陰で助かりました。でも何故レサト殿がここに?」


「シン・ナガクラという名前は知っていますか?」


「ええ、バルゴ王国内にある商会で、今1番勢いがあると言われている、池田屋商会の会長の名前ですよね」


「そのナガクラ殿ですが、ラウール殿が戦って負けた相手ですね。」


「えっ?!あの大商会の会長が、ボクの一方的な言い掛りにも等しい戯れ言を受けて戦ったと言うのですか?」


「ナガクラ殿なら、たとえ相手が『神』であっても全力で戦うでしょうね。まぁ私もナガクラ殿と知り合ったのは最近ですから、偉そうに言える立場ではありませんけどね(笑)


ラウール殿がナガクラ殿と戦ったお陰で、私はナガクラ殿と親しくさせて頂いています。

だからこそ、戦いに負けたラウール殿が良からぬ事を考えていないか、ずっと監視をしていたのです。


とはいえラウール殿はプロプスの町で堂々と活動をしていましたから、直接監視をしなくても酒場で孤児院の様子を聞くだけで済みましたけど。」


「そういう事でしたか、心配しなくてもナガクラ殿に何かをしようなどとは微塵も考えていませんよ。むしろボクの目を醒まさせてくて感謝しているのですから」


「おや?よく見ると冒険者時代のラウール殿と比べると、顔色が良くなったような、何か憑き物が取れたような、そのような印象を受けます。」


「レサト殿の仰る通りかと、ちなみにレサト殿は最近の神殿の動きについてはどのように考えていますか?」


「きな臭い、その一言に尽きるかと。

私がジェミニ辺境伯領にあるプロプスの町に来たのも、神殿とジェミニ辺境伯が何やら怪しい動きをしていると情報があり、直接確かめに来たからです。

そこにサワタリ神官長が現れたものですから、こっそり後を付けて来たらラウール殿との会話が聞こえたという訳です。」


「そこまで知っているなら構わないでしょう。幼い頃のボクが孤児院でお世話になっていた時の話ですが、王都の神殿からシスターとしてジャンヌが派遣されて来たんです。

そしてジャンヌはボクや他の子供達に、洗脳魔法を施して力を求めるように仕向けたんです。

幸か不幸かジャンヌの洗脳魔法が効いたのはボクだけだったみたいですけど、そのお陰で冒険者時代のボクは死ぬほど嫌な奴だったでしょう?」


「ええ、まあ、お世辞にも尊敬出来る人では無かったですね。」


「全てを洗脳魔法のせいにするつもりはありません。少なからずボクの心の中には、馬鹿で才能の無い奴は消えてしまえ、という思いがあったのは事実ですから。」


「今も洗脳されている可能性は無いのですか?」


「無いと断言出来るほど魔法に詳しくはありませんけど、洗脳されていたと気付けた時点で洗脳魔法の効果は消えていると思われます。」


「ならば確認の為にも一緒にキャラバンシティに行ってナガクラ殿に会いましょう。あの御方は博識ですから洗脳魔法の事も知っているかもしれませんし、エルフのミリアリア様も居ますからどうにかしてくれるはずです。」


「駄目です。ボクはニ度とあの方の関係者の前に姿を見せないと誓ったのですから。」


「今回は特例という事で問題無いでしょう。事情を知った上で私が無理矢理連れて行きますし、神殿の事も話さねばなりません。さぁ、行きますよラウール殿!事は一刻の猶予も許されない状況かもしれないのですから!」


ガシッ!


痛っ!、、ちょっ、えっ?


レサト殿が掴んだボクの腕が痛いだと?!


これでもボクはSランクになる日も近いと言われた元Aランク冒険者、それが痛みを、ダメージを受けている?



「レサト殿、腕が痛いので離して欲しいんですけど(汗)」


「真剣に他人を想う気持ちは時に痛みを伴うものですよラウール殿♪」



ズルズルズルズルズルズルズルズル


レサト殿ぉー!その理論まったく意味が分からないんですけどぉー!


その前に、自分で歩いて行くから引摺りながら行くのは、やぁーめぇーてぇーーーーーーーーーーー(泣)


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