第162話 愛と宿命と自転車 その6

商業ギルドを出た俺は自転車にまたがる


まったく復讐相手のオフューカスを助けに行くとか皮肉にも程があるぜ




復讐は虚しいだけとか言う奴も居るけど、あほか!


お前は復讐の専門家かボケが!!


復讐が虚しいかどうかは本人が決める事で、他人が決める事ちゃうやろ!



だからこそ


不本意だがオフューカスは助けなきゃいけない、こんな所で死なす訳にはいかない!



そして


ニィナに復讐させてやらなきゃ駄目なんだ


復讐して、ケジメをつけて、前に進まなきゃ駄目なんだ!



それでも


復讐は虚しくて


なんの意味も無かったって言うなら


生きる意味が無いって言うのなら・・・




あれ?



急に眠、、気、、が、、『ガシャン』




「はぁ、はぁ、間に合った!ごめんねシン君


今ここでシン君に何かあったら困るのよ、この国が消えて無くなるのを覚悟しなきゃいけないくらいには、シン君は重要な存在になってるんだから」



「ダンナァー!」


「ウォン!」


「ケイトさん大丈夫よ、シン君は魔法で眠らせただけだから。それと、あなたはリリーさん、、、でいいのよね?」


「ガルゥ♪」


「どうしてそんなに巨大化してるのか凄く気になるけれど、シン君の関係者だものそれぐらいは些細な事ね、シン君をお願いしていいかしら?」


「ガウッ♪」


「ミリアリアさんはどうするんですか?」


「私はオフューカス子爵に避難するように説得してくるから、ケイトさんもシン君をお願いね」


「雨も強くなってるし、ミリアリアさんも危険だよ!」


「大丈夫よ、エルフは魔法が得意なの♪自分を守るくらいは容易いわよ、じゃあ行ってくるわね!」



「ああ、行っちゃったよ。あたしじゃ足手まといにしかならないからなぁ、とにかくダンナを連れて帰らないと


リリーの背中にダンナを乗せるぞ、それ!」


「ガルル♪」



『ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザ!!』


「ッ?!また雨が強くなってきた、リリー急いで帰ろう」


「ガウッ!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーー




朝、目が覚めると


そこには見慣れぬ天井があった、閉じられた窓の隙間から光が射し込んでるから雨は止んでるみたいだ



「ご主人様!!」


「あぁ、カスミか、おはよう。俺は何でここで寝てんねやろ?」


「昨夜ミリアリアさんがご主人様を魔法で眠らせて、ケイトさんとリリーが連れて帰って来たんです。」


「なるほど、じゃあここは我が家の1階の客間か」


「はい」


「他のみんなはどうしてる?」


「炊き出しに行ってます。」


「炊き出し?」



「はい、ご主人様の言っていた通り、昨夜遅くに川の水が溢れたんです。それに山の斜面が崩れた所が幾つもあって、街道を塞いでしまったので街の皆さんで泥の撤去作業を行ってます。


その人達の為に池田屋商会が無料の炊き出しを行ってます。メリルさんとアルヴェロヴェールさんが責任を持つと仰って」


「そうか、あの2人に任せといたら大丈夫やな


あっ!オフューカスは無事に避難したか?」


「それが、、、ミリアリアさんが避難するように説得に行かれたんですけど、川の水が溢れるなんて有り得ない、と仰って信じて貰えなかったみたいです」


「はぁ~、マジかよ。あんなに激しい雨で逃げないとか何を考え、、、何も考えてないからこそか」


「それで、お付きの人やメイドさん達は直ぐ逃げたらしいんですけど、レオニードとニコライの2人は最後まで残った護衛の方と一緒に土砂に飲まれたそうです。


今はミリアリアさんとウェンディさんが、土魔法を使って救出作業をしてます。」


「そうか、あの2人には感謝やな


カスミ、俺ちょっと出かけてくるな、夕食までには帰って来るからみんなに伝えといてくれるか?」


「はい、、、あの、ご主人様」


「カスミ、心配せんでええ、様子を見に行くだけやから」


「ごひゅじんひゃま」



俺は心配そうな顔をするカスミのほっぺたをムニムニしてみる、やっぱりカスミのほっぺたの感触は気持ちええな♪



「ほな、あとは頼んだでぇ」


「はい!」




さてと


俺は自転車で、、、そういえば自転車どうしたやろ?


あった!


ちゃんとピカピカに磨かれてリビングに置かれてるやん♪



よし、出発!


『チリンチリン♪キーコ、キーコ、キーコ、キーコ』



あっ!


そういえば昨日から変な音がしとったな、やっぱり昨日の雨が原因かなぁ?


修理せなあかんか?


新しいの買うのは勿体ないし、とりあえずこのまま行くか


『キーコ、キーコ、キーコ』






ふぅ~


とりあえずオフューカスがキャンプしてた所を見渡せる場所に来てみたけど


見事に土砂で埋まってるな、所々穴が開いてるのはミリーさんとウェンディさんがやったんかな


なんとなく救出作業は終わってる感じするけど、見付かったんかな?





「主様!」


「ん?ニィナか、よう俺がここに居てんの分かったな」


「私は主様の奴隷なれば、主様の気配を見付けるなど容易い事です。」


「へぇー、奴隷って色々出来るんやな」


「はい。そして主様に報告です。先程レオニードとニコライが遺体で見つかりました。」


「護衛も一緒に巻き込まれたって聞いたけど」


「護衛の方は奇跡的に息があり診療所に運ばれました、なんとか助かる見込みです。」



「そうか・・・


ごめんな、一緒に復讐しようって約束したのに、出来んようになったな」


「主様がご無事なら私はそれだけで充分です。」


「なあ、ニィナは、、、これからの人生前に進んで行けるんかな?」




「私は、、、



私には


あなたがいてくれたから


あなたがいれば


私はあなたを追いかけて前に進めるから



あなたは笑顔で前を向いていてくれるだけで


それだけでいいから



だから



私の為にそんな顔をしないで、、、


お願いだから、、、」


「・・・」


「・・・」


「これは、、、夕陽が眩しくてな」


「、、、ええ、今日はとても夕陽が眩しいわ」


「・・・」


「・・・」


『グゥ~』


「ふふっ」


「お腹空いたし、帰ろうか」


「はい♪」



『チリンチリーン♪キーコ、キーコ、キーコ』












はるか彼方のそのまた向こうの何処かまで


聞こえるように優しく鳴り響くベルの音に見送られ



足に伝わるペダルの重さと、責任の重さを重ね合わせ


背中に感じる温もりは、きっとかけがえのないものだから



雲に隠れた夕陽を背に


進むふたりの心には


生涯かかる雲などありはしない







不器用な男、長倉真八


これは彼と彼女の、とても些細な日常の物語である。





第7章 完


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る