第106話 熊耳さんは獣人ではありません。 その2
「熊耳(くまがみ)さん、商会で雇うには少し条件があります、でもその前にお店はいいんですか?雇うならキャラバンシティに来て貰う事になりますけど」
「構いません、私のような孤児院出身の平民ではお店を続けても大きな商会に搾取されるだけですから
それで条件というのは何でしょうか?」
「たいした事では無いですよ、俺の隣に座っているカスミに服の作り方を教えて欲しいんです」
「ごっ、ご主人様?!」
「カスミ、服作るならやっぱり師匠が必要やろ♪」
「シンさん、それはカスミさんが服作りを手伝ってくれるという事なのでしょうか?そうであれば教える事に問題は無いですけど」
「カスミが手伝うかどうかは今は未定です、でも人手が必要なら商会の従業員を使ってくれて構いません
熊耳さんを雇うにはこの条件を承諾して欲しいんです、どうしますか?」
「その条件、謹んでお請け致します」
「即答ですか、今更言うのもなんですけど俺が悪人だったらどうするんです?」
「ふふふっ、それは無いでしょうね、シンさんの隣に座っているお二人、どういう関係かは分からないけれど、とても大事にされているのでしょう?
そんなお二人を見ればシンさんが悪い人で無い事は分かります、誰かを騙したり貶めたりしているなら、お二人がそんなに綺麗で真っ直ぐな目をしている筈がありませんもの」
予想外の高評価だな、隣のカスミを見ると耳を真っ赤にして俯いちゃってるよ
ニィナは、、、表情を変えず微動だにしてないけど、髪の毛で隠れた耳の辺りが微かにピクピクしている、あれは喜んでる証拠だ
「それじゃあ熊耳さんを池田屋商会で雇います、これからよろしくお願いします」
「はい!こちらこそよろしくお願い致します!」
「俺達は明日キャラバンシティに帰るんですけど、熊耳さんはどうしますか?一緒に帰っても、後から来てもどちらでもいいですけど」
「それでしたら一緒に連れて行って下さい」
「じゃあ明日、夜が明けたら俺達が借りてる家に来て下さい、一緒に朝食食べましょう
熊耳さんは朝は米派ですか?パン派ですか?」
「こめ?、、、米と仰いましたか?!米があるのですか?!」
「ええ、商会を経営していると色々と手に入りますから」
「でしたら朝食は、塩だけのおにぎりにして頂けますでしょうか」
「いいですよ、他にも色々用意しておきますから楽しみにしていて下さい」
「勿論です!お米が食べられるんですもの、今夜は眠れるか心配だわ、こうしてはいられない早く帰ってお店を片付けないと、それでは失礼します!」
米が食べられると聞いて熊耳さんは急いで帰って行った
熊耳さんにとっては32年振りの米になるのか、俺なら絶対泣いてるな
創造神様の事だからこの世界にも米は絶対にある筈なんだ、それでも未だに見ないって事は食べ物として認識されてないのか?
もしくは家畜の餌になってるのか?
いったい何処にあるんだ米!!
だがしかし
見付からないならこちらから米を普及させれば良いじゃない♪
野営の時に周りに気を使って米とか珍しい食材を使わないようにするのは面倒なんだよな
米の旨さが分かれば誰かが勝手に米を探してくれる筈
例えば、貴族から冒険者に米を探す依頼も出されるかもしれないし、そうすれば流石に米も見つかるだろ
俺はスキルの「店」で米とか色々買えるけど、出来るだけチート能力には頼らないようにしたい
どんな事でも何かひとつの事に頼り過ぎるってのは駄目だ、いざという時に困るからな
「カスミー♪」
「ふぇっ?!ごひゅじんひゃま?」
俺は未だに俯いているカスミの頬っぺをムニムニしてみる、やはりなかなかの弾力
素晴らしいものだな、若さ故の肌の張りというものは♪
「腹も減ったし帰ろうか」
「「はい♪」」
「シンさーん」
宿代わりの家に向かって歩いていたら、樽を積んだ馬車に乗るタコヤーさんが手を振っている
「やあ、タコヤーさん」
「ちょうど良かった、今から伺おうと思ってたんですよ、さあさあ馬車に乗って下さい」
「ありがとう助かるよ、するとこの樽は全部魚が入ってるんですか?」
「ええ、その通りです!簀立ても沢山魚が捕れるんですけど、釣り竿が凄いですね
餌や針等を付け替えればある程度狙った魚が釣れるのが良いです♪」
「そりゃ良かった、俺達は明日キャラバンシティに帰りますから、これからも頑張って下さいね」
「ええ?!シンさん、もうお帰りになるんですか、もうすぐ父も帰って来ますのでそれまでは居て欲しいのですが」
「タコヤーさんのお陰で迷惑料以上の収穫がありましたからね、それに帰り道で会うかもしれませんし、この街にもまた来ますから」
「そうですか、残念ですが仕方ありませんね、次にお会いする時までに少しでもシンさんと池田屋商会のお役に立てるよう、精進してお待ちしております。」
「楽しみにしてますよ♪」
『ガシッ!』
俺はタコヤーさんとガッチリ堅い握手をする
なんとなく、この街とタコヤーさんとは長い付き合いになりそうだ
つづく。
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