第70話 酒革命

ドワーフのガゼル親方がウィスキーを購入する為に我が家にやって来た



以前、奧さんのオリビエさんにはウィスキーをプレゼントしたんだけど


親方さんは一滴も飲ませて貰えなかったらしい、そこで俺は味見をしてからウィスキーを買って貰おうとしたのだが、、、





「おい!なんじゃこの酒は、ドワーフの火酒より強いうえに味も香りも強烈などありえんじゃろ!


いや、実際ここにそのあり得ん酒が存在しとるんだが、、、


こりゃあウチのが大事に飲む訳だわい


酒が旨過ぎて飲み干すのが勿体無いと思ったのは初めてじゃ」



「気に入って貰えたようで良かったですよ」


「気に入ったっつうかなぁ、こんな旨い酒を持っとるって事はお前さん本当はどっかの国の王族とか貴族じゃねぇのか?」


「やめて下さいよ、貴族なんて酒より甘い汁が好きな奴等と一緒にするのは」


「甘い汁か、そりゃあ良い!ガハハハハハハハハ♪」



「この酒、ウィスキーって言うんですけど今ある4本差し上げます、2本は奧さんに」


「おう、ありがてぇ♪」


「そこで親方さんに相談なんですけど、もっと旨いウィスキー飲みたくないですか?」


「なんじゃと?もっと旨いウィスキーだと?!すでに最高に旨いこの酒より旨い酒があるのか?!」


「ええあります、基本的にウィスキーは熟成させるほど美味しくなると言われているんです


ただ熟成期間が長いほど値段も高くなって俺でも買えない物もあるくらいです


そこで自分でウィスキーを作ろうと思うんです」


「確かに旨い酒の作り手は王族や貴族が自分達で囲い込んどるじゃろうな、それなら自分で作った方が良いか」


「親方さんも見たでしょ?製麺所にデカイ地下室があるの」


「ん?ああ、あれかウチのが気合い入れて作っとったやつじゃろ」


「あの地下室、元々は俺が個人的に趣味で酒作りをする為の小部屋の予定だったんですけど


予想外にデカイ地下室になったんで本格的に酒作りをしてみようかと思いまして


ただし、ウィスキーは出来るまでに年単位の時間がかかるんです、納得のいく酒が出来るには5~10年はかかると思います


俺も酒作りはそこまで詳しく無いんで試行錯誤しながらですけど」



「うむ、旨い酒を作るのに時間がかかるのは当然じゃ、ドワーフの火酒でも1年はかかるという話じゃからの、火酒よりも旨い酒なら時間がかかるのは必然じゃな」


「そう言うことです、それで色々試しながら毎年酒を仕込んでみようと思うんです、その酒の管理をドワーフに頼みたいんですけど、どうでしょうか?」


「それなら全員喜んでやるじゃろうな、はっきり言うと火酒を作っとる奴等は偉そうでなぁ、売る相手も選ぶんじゃ


火酒を飲みたいのに飲めん奴が多くてな、火酒より旨い酒が造れるならすべてを捨てて駆け付ける奴もいるじゃろうな」


「流石にそこまでされると責任取れませんよ(汗)成功するかも分からないんですから」


「なぁに何かを造るのに失敗は付き物じゃろ、その辺はワシらドワーフの方がよく知っとるから心配せんでもええ、それにお前さんに貰ったこの酒でも究極に旨いと思ったんじゃ


たまにこの酒を飲ませてやればええ、これ以外もお前さんの持っとる酒は旨いからな、ウィスキーが出来るまではそれらを売れば問題なかろう


それでこのウィスキーという酒の造り方は知ってるんじゃろうな?」


「勿論ですよ、ざっくり言うと造り方はエールとそれほど変わりません、酒精を取り出して集める事で強い酒になります


それを樽に入れて熟成させる事で木の香りが付き味に深みが出てウィスキーになるんです


これが酒精を取り出す蒸留器って装置の絵です、これを作って欲しいんですけど出来ますかね?」



俺は事前に写真を見て描いておいた蒸留器の絵を親方に渡す



「なるほどのう、酒造りは専門外じゃが理屈は何となく分かる


これがあの喉を焼く強い酒の秘密か、一応聞いとくがこの絵、これだけでも王都にメイド付きで豪邸が建つくらいの価値があるぞ、おまけに子爵の爵位ぐらいは付くかもしれん


おそらくワシらドワーフの火酒もこの技術を使っとるはず、いやだいぶ劣った効率の悪い技術か、、、この絵だけでも酒に革命が起きるぞ」


「まあそうなるでしょうね、でもこれがきっかけで旨い酒が沢山出来ればこんな楽しいことは無いじゃないですか


だからその絵はタダで配ってもいいぐらいですよ、でもそれだと争いが起きそうですから、欲しいって人がいたら適当な値段で売ってもいいんです」



「ガハハハハハ、よぉーし分かった!ドワーフの誇りに懸けてワシが責任を持ってこの装置を作ってやる!


しかしなぁ、作るにしてもやはり酒に詳しい奴の意見が欲しいところだ、里に連絡して酒に詳しい奴を来させるか」


「酒に詳しいっていうと、火酒を作ってる方達ですか?」


「あいつらは無駄にプライドが高いからのう、火酒より旨い酒があると言うても信じんじゃろ、ワシの友人に酒造りをしとるのがおるからそいつに頼むつもりだ


それより他に必要な物は無いか?」



「それなら熟成用の樽ですね、使う木によって酒の出来が変わるらしいんで2~3種類欲しいです


それと今回は時間短縮でエールを蒸留して造ってみようかと思ってるんです、それを1年熟成させてその出来次第で、次回以降の酒造りの方針を決めようと思ってます」


「うむ、新しい試みというのはワクワクするのう♪お前さんとは長い付き合いになりそうだ、改めてよろしくな!」


「こちらこそよろしくお願いします!」







◇◇◇◇◇



後のドワーフ国の歴史書には、この日起きた出来事が記録されている


人族によって酒に革命が起き、新たな時代の幕開けとなった記念すべき日として




ドワーフ国7大英雄のひとり


『酒の革命家、シン・ナガクラ』



彼がそう呼ばれるのは、まだ先のおはなし。






つづく。

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