閑話 伊勢神幸子 その3
side:伊勢神幸子(いせがみさちこ)
「サチコさんお疲れ様、これ少ないけど今日と明日の分の報酬ね、銀貨1枚とパンとトマトは少し虫に食われて売れないから遠慮せず持って行って構わないよ
悪いねぇ報酬が少なくて、最近トマトが売れるようになったとはいえ借金を返したら手元にあんまり残らなくて」
「いえとんでもないです、倉庫で寝泊まりもさせて貰ってますし食事も充分ありますから」
「そう言って貰えると助かるよ、じゃあまた明日も宜しくね」
「はい、宜しくお願いします」
私は今、とある村でトマトの収穫作業のお手伝いをしている
帝国から無事にバルゴ王国に来たまでは良かったけれど、お金が尽きてしまったのだ
帝国ではお願いすれば大抵の物は無料で用意してもらえたので、お金は全く持っていなくて
道中出会った商人に不要な装備を売る事でお金を手に入れたけれど足りず、作物の収穫作業のお手伝いをしてお金を稼ぐ事にした
最近バルゴ王国ではトマト栽培が盛んらしく、特にこの辺りの地域では作れば作るだけ売れるので常に人手不足らしい
報酬は少ないけど屋根のある場所で寝泊まり出来るだけで充分だ、それにこの貰ったパンがとても美味しい♪
帝国にいた時に食べたパンと比べると凄く柔らかい、村人の話では最近売られ始めたパンなんだとか
私は寝泊まりしている倉庫に戻ると、パンにトマトを挟んで食べる
マヨネーズがあればもっと美味しいんだけどなぁ
そんな事より私は今とても困っている
以前任務で行ったバルゴ王国のとある街に行こうとしているのだけど、途中野営をした場所までは覚えていたのにその先はよく覚えてない事に気づいた
よく考えると帝国にいた時の記憶も曖昧で、毎日訓練をしていたと思うけれどそれ以外はあまり覚えていない
たしか大きな街だったから商人が集まる街に行けば着くかなぁ?
明日も朝から収穫だしもう寝ようかな
私は倉庫に積まれていた麻の袋を床に敷いて寝る事にした
ーーーーーーーーーーーーーーー
「ん、んん、むにゃむにゃ、、くすぐったいよぉ、、っ?!わぁっ!!」
「わん♪」
顔に何か当たる感覚があって目が覚めたら、目の前に真っ白な毛の子犬がいて私の顔をペロペロ舐めていた
「もう、くすぐったいよぉ、お前何処から入って来たの?」
「くぅ~ん?」
まあこの子に聞いても分かんないよね、倉庫の扉は閉まってるし窓も無い、本当に何処から来たの?
この村で飼われてる訳でもないよね
この村には家が五軒しかない、昨日も村人総出でトマトの収穫作業をしていたし、動物を飼っている人はいなかったと思う
「悪いけどお前の相手をしてる暇はないの、朝から収穫だから、じゃあ行ってくるね」
「うぉん♪」
ふふっ、なんだかあの子犬「頑張って来いよ」って言ってるみたい(笑)
「サチコさんお疲れ様、あなたがいてくれて助かったよ」
「こちらこそお世話になりました、それで私これから大きな街に行きたいんですけど近くにありますか?」
「ああ、それだったらそこの道をしばらく行くと分かれ道があるから、右がキャラバンシティ、左がサウスビーチ、どっちもちょいと距離があるけど大きい街だよ」
「ありがとうございます、それじゃあ行きますね」
「気をつけて行っといで」
しばらく道なりに歩くと教えて貰った分かれ道に辿り着いた
右に行くとキャラバンシティで、左はサウスビーチかぁ
ビーチって言う事は海があるって事だよね、そしたらお刺身は無理でも焼き魚くらいはあるはず
よし、いざサウスビーチへ!
わっ?!
『ドシン!』
痛ぁ~(泣)
もう何なのよぉ~、あっ?!
「お前付いてきたの?」
「わん♪」
足下を見ると私のスボンの裾をくわえた白い毛の子犬が楽しそうに返事をしてきた
「しょあがないなぁ、一緒に来る?」
「うぉん♪」
「ふふっ、じゃあしゅっぱー『ドシン!』痛ぁ~(泣)」
「がぅがぅ」
「もう!裾を噛んで引っ張っちゃ駄目だよ、、、ん?もしかしてあっちに行きたいの?」
「わん♪」
「困ったなぁ、私はお魚が食べたいのよね」
「ぐるるっ、がうがう!」
「わわっ?!分かったからキャラバンシティの方に行くから」
「わん♪」
「お前もしかして話してる事を理解してるの?」
「わふっ!」
「ん~、そんなわけないか(笑)よし、あらためてキャラバンシティに向けてしゅっぱーつ♪」
「わん♪」
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