第4章 明日の為に

第48話 池田屋製麺所

最近色々あったけど、孤児院の隣に建てていた製麺所がついに完成した


地下1階、地上2階建ての立派な建物でとても満足している



地下室は総石造りで年間通して10度ぐらいの気温を保つのだが、初めて地下室を見た時はあまりの事に現実逃避をしそうだったよ


だって、孤児院と教会の敷地の下全部が地下室になっていて、巨大地下都市でも作る気か?!と思ったんだから


そんな巨大地下空間を作って地盤とか大丈夫なのか?と思ったのだが、ドワーフの秘技により問題無いらしい


凄いな秘技!



まあ地下が巨大になったのは俺のせいでもある


元々食材保存用だったんだけど、「酒を熟成させる場所にも使えるなぁ」って何気なく呟いちゃって


酒好きのドワーフがそれを聞いたらこうなるよね、職人総出であっという間に完成させてしまった


酒造りは興味あるしワインや梅酒は造ろうと思ってたから良いんだけど、ドワーフの皆さんの期待するキラキラした目が怖いのよ(汗)




完成した製麺所の名前は『池田屋製麺所』にした


『池田屋』は新選組が活躍した有名な場所だから名付けてみた♪


そして看板の『池田屋』は漢字で書いた


当然この世界の人に漢字は読めないのでデザインとして認識されている


異世界といえば俺のように転生や召喚された人がいるかもしれないと思い漢字を使ってみた


わざわざ探すまではしないけど『池田屋』の看板を見て助けを求めて来たら、仕事を斡旋して最低限の生活が出来るくらいの手助けはしても良いかなと思う


まあ相手が外国人だったら意味無いけどな(笑)




製麺所では作った麺の1/3を保存食用の乾麺に、残りを教会の敷地に作った飲食スペースで売る事にした


作る麺は、パスタ、うどん、中華麺の3種類


トマトソース、汁無し担々ソース、お吸い物の素を混ぜるだけの和風ソース


この中から好きな麺とソースを選んで貰うスタイルだ


これで1杯銅貨6枚、高いんだか安いんだか分からんけど、他の店に合わせてこの値段になった



今回は人手の問題も既にクリアーしている、女将さんに紹介されたシングルマザー6人に


孤児院を卒業した子供達が十数人、子供と言っても成人してるから大人なんだけどな



最近孤児院ではパンの需要が高まりまくって生産が追い付かなくなった結果


孤児院を卒業して冒険者になった子や、その辺でチンピラをやってる子を呼び戻したんだ


孤児院出身の子が出来る仕事なんて冒険者になるか、兵士になって戦場に送られるかぐらいしか無いからだ




そんなこんなで池田屋製麺所、本日オープン、、、したのだが



分かってた


オープン前から凄い人が集まってるんだもの、この後の展開を予想するなど簡単な事なのだよ


ふはははは!



だから俺は今、製麺所の地下室で梅酒を仕込んでいる


上では予想通り客が殺到して大賑わいだ、孤児院のパンやポップコーン目当ての客もいるから尚更だな


それで何故俺は地下室にいるかというと、決して人混みが嫌だからとかいう理由では断じて無い!


俺は雇い主として従業員を信用して全てを任せる放任主義系雇い主なんだ


だから俺の役目はトラブルが起きた時の対処と、仕事終わりの特別報酬の酒と菓子を用意するだけだ


だから俺は梅酒を仕込む!



ここにはスミレとニィナ、孤児院の小さな子供達もいて、一緒に梅にプスプス穴を空けている


あの人混みは小さな子供にはリアルに危険だからな、だからみんなで梅酒を仕込んでいるんだ


穴を空けた梅と氷砂糖とホワイトリカーを容器に入れて3ヶ月~半年放置すれば完成だ


今回は梅の代わりにレモンとオレンジを入れたのも作ってみた


ここまでやるとチーズも手造りしたいな、未だにこの世界でチーズを見かけないってのもある


スキルの「店」で買えばいいだろうって言われるかもしれんが、男というのは面倒くさい事が好きなんだ


今にも壊れそうな年代物のバイクも整備しながら乗りたいし


珈琲豆は手動のコーヒーミルを使って挽きたいんだ


そんな事して何かの役に立つの?なんて言う女性がいるけど


心の安定に役立っているから必要な事なんだ!



とまあ話がそれたけど、モッツァレラチーズなんかは出来立てが旨いらしいから是非とも作りたい


この世界で動物のミルクは保存の問題でその日に消費出来る量しか流通してないから、チーズで消費が増えれば多少は景気も上向いて行くだろう



よし、梅酒の仕込みも終わったな



「みんなありがとう、おかげで酒の仕込みも終わったよ、お礼に飴玉あげるから並んで~」


「「「はーい♪」」」



みんなちゃんと1列に並んでくれている、そこにスミレが並んでるのは分かるが、何故ニィナも並んでいるんだ?


小さな子供達に紛れて並ぶ姿は、なかなかにシュールな光景だ



ひと仕事終えた俺は客の様子を見るために地下室から出て来たのだが、なんだか言い争う声が聞こえた


辺りを見回すと製麺所の裏に人影が


そこか!



「うるせぇー、このクソババア!!」


「誰がクソババアだぁーーー!」


『ドゴォッ!!』



急いで駆け付けた俺は見た


シスターさんに殴られ宙を舞う男を




あれは




幻の左アッパー、、、






つづく。

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