第48話 入学案内と最後の手紙なんです
その日からユリウスの言葉の意味を、悶々と考える日々が続いた。
しかし、あの日からも転写書のやり取りは続けているが、ユリウスは普段と変わらない内容しか書いてこないのだ。
普段と変わらないやり取りに、段々気持ちも落ち着き、結局あの言葉の答えを出すことを一旦諦めた。
(兄様は私の入学と入れ違いで卒業するから、攻略対象とかでも無さそうだし……。だから今は……保留にさせて下さい!)
難しい課題は卒業後の自分に丸投げする事にして、ユリウスに負けた悔しさを糧に、入学迄にもっと強くなっておこうと鍛錬に集中する事にした。
そして学園入学まで半年に迫った、ある日。
魔術学園からレティシア宛に荷物が届いた。ダンボールサイズで例えると八十サイズ位。
厳重な手続きを経て公爵家に届けられたらしく、綺麗に梱包された荷物の表面には、特別な認証印が押されていた。
入学者本人しか開梱してはいけないそうなので、荷物を自室に運んでもらうと、レティシアは内心ドキドキしながら、ソファテーブルに置かれた荷物の梱包を慎重に開いた。
中には、辞書並みに分厚い入学案内書と、指定の人物しか開けられないよう封印された、箱型魔導具が納められていた。
まずは表紙に学園の校章らしき紋章が描かれた、ずっしり重い案内書を手に取った。
(凄い重厚感……。鈍器として使えそう。……この角なんか一撃で卒倒出来そう)
変な感想を抱きつつ、目次を確認して、学園規程及び校則が記載されているページをめくってみると、前世のネットなどでよく見る長過ぎる利用規約、よりは比較的マシな長文が並んでいた。
掻い摘んで確認して、特に気になった内容はこれだ。
当学園内では必ず変装石を常に身に付け、使用すること。
当学園に入学する者には契約魔法を行使する。(契約魔法は学園規約に準ずる。詳細は『契約魔法について』を参照)
正体が特定された時点で、誰であろうと退学とする。
学園入学者は身の回りの世話係など、他者を学園内に連れてはならない。入学迄に最低限の日常生活活動を身につけておく事。(詳細は『日常生活活動について』を参照)
あからさまに身元を探る行為、自身の身元を明かす事を強要する行為は禁止とする。
身元を特定できる荷物は、寮の自室以外には持ち込まない。持ち出さない。
寮の自室に他人を入室させてはならない。(非常事態の場合のみ、学園関係者は例外とする)
自室に結界魔法を行使する事。(詳細は『結界魔法について』を参照)
当学園卒業、若しくは退学をもって契約魔法を解除する。卒業式にて学園長の卒業許可の宣言により、契約魔法は解除される。退学者は、学園長の退学宣言により契約魔法を解除される。
その後の変装石の使用は自由とする。ただし、契約魔法解除後に学園外に出ると、変装石は魔導具としての効果を無くし、使用不可となる。
etc ……
(掻い摘んでも長い……。予想以上に細かい校則だな……)
次に変装石に関するページを開いた。
変装石についての仕様説明及び諸注意も、掻い摘んで読んでみる。
黒のチョーカー型。チョーカーに特殊な術式が組み込まれているので、取り扱いには注意する事。
四年間、変装石使用本人及び他者には外せない。しかし、一時的に変装を解く許可を得れば、特殊な方法で外す事は可能。(詳細は『変装石解除許可申請の手続方法』を参照)
変装石を身に付け、自身の魔力を流した時点での、深層心理の強い思いや感情が、性格となって現れる。この性格は変装石を外しても、再び同じ変装石を身に付ければ、その性格となる。
しかし、別の変装石を使えば、その時点での強い思いや感情が性格となる。
外見は一度変装すると、変更不可。
性別の偽造不可。
瞳の色や髪の色は自由。
体格は、本来の姿に戻る際に支障が起きない程度に留める事。
自分の成長を加味した身長が望ましいが、特に言及はしない。
年齢が合わない、学園生活に相応しくない外見にしない事。
過度に外見を変え過ぎない事。
入学式の際、学園側が入学者に対し、入学に相応しくない外見と判断した場合。その入学者の入学を取り消し、就学は出来ないものとする。
変装石は一人につき一つまで。如何なる理由を持ってしても再分配は出来ないので注意する事。
「えっと、使用方法は……」
外見の特徴を簡略な内容で、チョーカー内側に魔法ペンで記入。外見の詳細はチョーカーを装備し、チョーカー中央の変装石に自分の魔力を流す際に思い浮かべれば良い。
変装石は一度でも魔力を流してしまうと、変更再利用は出来ない。
「成程。とりあえず変装石って、強制的に性格まで変装するって感じかな? うん、やっぱりこの魔導具は面白いわ!」
レティシアは早速、変装石が入っているだろう箱型魔導具を取り出した。
この本人認証タイプの封印を解除するには、直筆のサインを魔導具の氏名記入欄に、魔法ペンで記入すればいい。
勉強机に向かい、ペン立てから魔法ペンを取り出してソファーに戻ると、気合いが入ったのか、いつもより達筆な字で自分の氏名を書いた。すると記入欄がほのかに光り、箱型魔導具は真っ二つに割れた様に開いた。
中には黒い革っぽいチョーカーが入っていた。中央の変装石である魔法石は真っ白だ。
レティシアはチョーカーを手に取ると、おもむろに魔法を唱えた。
「
瞬時に変装石の鑑定結果が、レティシアの脳内に反映される。
変装出来るといった内容の他に、自動洗浄機能や健康状態が一定以上に悪いと、学園側に知らせる危険通知機能、GPSの様な追跡機能なものまで内蔵されている。かなりの高性能だ。
(……うーん。このGPS機能は邪魔だな。別の何かに、この術式を移動出来ないかな……)
いつ何処に居るのか、常に把握されるのは避けたい。
入学までに、変装石を何とかしてバレずに改造しなければならなくなった。
他にしなくてはいけない事は、学園ルールをしっかり把握しておくこと。
後は学園の、詳しい見取り図などあればそれも把握して、最短ルートや抜け道がないか模索しておきたい。
どんな些細なことでも、破滅ルートに足を突っ込むかもしれないからだ。
(これはかなり忙しくなるな)
公爵三人トリオとの手紙のやり取りは、そろそろ終了した方が良さそうだ。
お友達になれたカトリーヌ、エカテリーナ、カタリナの三人とも初めてのお茶会以来、手紙のやり取りだけで、鍛錬に集中していたせいもあり、一度も会えていない。
最後にもう一度位、お茶会を開きたかったが。
今は学園対策と変装石の改造、出来れば変装魔法の習得、それに鍛錬にも集中しなければならない。
心苦しいが、同様の終了の手紙を送ることにした。
入学まで残り半年。
(課題が山積みだが、何とかしてみせる! 目指せハッピーエンド!!)
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