第40話 お友達を作るんです

 ユリウスが魔術学園に通い出して幾日が経ち、レティシアは遂に自分のお茶会を開催する事にした。

 ユリウスがいなくなった事で、自分がボッチである事を改めて実感させられたからである。


 先ずは『レティシア公爵令嬢ファンクラブ』の代表者を招待する運びとなった。


 何でも代表者は少女三人で、然もレティシアと同い年だと言うのだ。是非ともお友達になりたい。


 ルシータに改めてお茶会のノウハウをレクチャーしてもらい、自ら招待状をしたためた。

 そして一週間後のお茶会迄の間、代表者三人の情報を集めてもらい、念入りに計略を練った。


(……何事も最初が肝心。この三人はファンクラブを創設する位だから、多分『幻の姫君』に相当な憧れがある筈。まずは幻滅されない様振る舞いつつ、相手の緊張をほぐし、さり気なく気さくな雰囲気を作り出し、そして……付け込む!!)



 完璧だ。




 こうして迎えたお茶会当日。



 ドレスは、胸元からスカートにかけて白を基調としながらも、フリルやリボンが桜色の淡いピンク色なAラインドレスをチョイスした。コンセプトは『花妖精の様に可憐な美少女』

 レティシアとの特訓を重ねる毎に顔がやつれていくシシリーに頼んで、ドレスに合わせた淡いピンクの花を髪に挿してもらった。


 お茶会に招待した三人が到着したと連絡を受け、早速玄関先へと向かった。



 階段を降りていると、玄関先の広間のソファーに座っている少女達が見えた。


 少女達もレティシアが階段から降りてくるのが見えたのか、三人ほぼ同時にソファーから立ち上がった。


 レティシアは食い入る様に見つめてくる三人の前に立つと、流れる様な動きでカーテシーを披露して、フワリと微笑みかけた。


「初めまして。レティシア・アームストロングです。本日はお越しくださって、どうもありがとう。皆様に会えて、とても嬉しく思います」


 三人も綺麗なカーテシーをすると、薔薇の様に赤いドレスに、その色に似た赤い瞳の金髪縦ロールの少女が顔を少し赤らめ声を上げた。


「ご、ごご機嫌よう! ご招待痛み入りますわ! ライト領、ポラール侯爵の一人娘、カトリーヌ・ポラールですわ!」


 すると、カトリーヌの隣りにいた、水色のドレスを着た、真っ直ぐなシルバーブロンドの髪をハーフアップに纏めた、グレーの瞳の少女が後に続いた。


「ご挨拶申し上げます。ロゴス領から参りました、メルクール侯爵の娘、エカテリーナ・メルクールでございます。この度はご招待頂き、ありがとうございます」


「初めまして。ディスティニー領から参りました、シュティア侯爵の長女、カタリナ・シュティアです。お会い出来てとても光栄ですわ。本日は宜しくお願い致しますね」


 最後の少女は、淡い黄色のドレスに、柔らかいプラチナブロンドの髪を一つに緩く編み込んだ、黄緑色の瞳で優しくレティシアに微笑んでいた。


「カトリーヌ様、エカテリーナ様、カタリナ様。こちらこそ宜しくお願いします。ではサロンに参りましょうか」


 レティシアは三人を連れて、サロンに向けて歩き出した。



 今回使用するサロンは、以前ルシータが使用したサロンとは違い、少人数で寛げる位のあまり広くないタイプにした。


 美しい庭が見える廊下を通り、辿り着いたサロンに、来賓者の三人は感嘆の声を上げた。



 サロンの扉の先にまず見えるのは、美しく整備された自慢の庭。


 全開放できるフルオープンサッシを全開にし、庭へと続くテラスをアウトドアリビングに見立て、庭と一体感を感じるよう装飾に緑と花を多用した。


 テラスには人数分のウィングチェアと、刺繍が美しいテーブルクロスが敷かれた円卓が設置されていた。

 円卓の上にはピンクの花々を生けた、小ぶりだがお高そうな花瓶が中央に飾られている。


「どうぞ皆様お掛けになって。今お茶を用意します」


 三人が着席したタイミングでティートローリーがレティシアの元に運ばれてきた。


 お茶会は主催者がお茶を淹れるのが基本。公爵であるレティシアも例外ではない。


(千利休になりきるのだレティシア。至高の一杯をこの手で生み出す! 唸れ私のゴールドフィンガー!!)


 千利休はお茶違いだが、公爵家に仕える紅茶マエストロ達のレクチャーを受けたレティシアは既に匠の技を身に付けていた。


 レティシアが入れた紅茶を給仕が各令嬢の元へと運ばれる。レティシアが席へ着席すると、給仕がレティシアの紅茶を運んだ。

 レティシアはティーカップを手に持ち、ほんの少し口へと含んだ。カップを置くと優しく微笑んだ。


「どうぞ皆様も召し上がって下さい」


 三人はやや緊張した面持ちで礼を述べると、紅茶を口へと運んだ。


「……まあっ、これは私がよく飲むアールグレイに似ているわ! とても美味しい!」

「……この紅茶はダージリンですね。……とても落ち着く味です」

「……美味しい。これは私の好きなアッサムだわ」


 馴染みの味に緊張が和らいだのか、少し肩の力が抜けた様だ。


「初めてのお茶会なので、皆様がお好きな紅茶にしてみました。お気に召した様で良かった。あ、カトリーヌ様。ミルクがありますが、ミルクティーはいかがですか?」

「! ええ! 有り難く頂戴いたしますわ!」


「エカテリーナ様、ダージリンにはオレンジが合うと思うのですが、いかがです?」

「!! はい、ではお願いします」


「カタリナ様、蜂蜜に漬けたレモンなど、いかがでしょう?」

「まあ! 是非お願いします。私、蜂蜜レモン大好きなんです。嬉しいですわ」

「それならちょうど良かった。蜂蜜レモンの、パウンドケーキもご用意していますよ?」

「なんて素敵! 是非とも頂きたいですわー」


 さり気なく皆の好みをお勧めしていると、そこに公爵家の一流パティシエが腕に縒りを掛けた美しいケーキ達が、ティースタンドに乗って運ばれて来た。


 三人にはその見るからに美味しそうなケーキ達に目を輝かせる。


 レティシアは作法に気遣わず、思い思いに食べて欲しいと勧めると、一気に和やかなムードになった。


 美味しいケーキを食べてリラックスしたのか、三人はレティシアとのお喋りに花を咲かせた。



 暫く話をしていると、魔術学園の話が話題に上がった。


「レティシア様は変装石はご存じ? 何でも外見を自由に変えれるとか! 一度でいいので、レティシア様の様な淑女に変装してみたいですわ!」

「まあ、カトリーヌ様はそのままで十分魅力的ですよ? 特にカトリーヌ様の真っ直ぐな物言い、私は好きです」


(それにその縦ロールもとっても良い!)


「ああああ、ありがとうございます。べ、別に、それ程でもありませんわ!!」


(ツンデレな物言いがもう堪りません!)


「私も変装石は興味があります。一体どの様な術式が刻まれているのか。使用する前に、是非検証してみたいものです」

「エカテリーナ様は、魔導具に興味がおありなのですね」


(知的な美少女! とても良い!)


「はい。魔導学者になるのが密かな夢なんです。……ですが。女なら、結婚して、家庭を守るのが一番だと、よく言われます。勿論、理解はしているのですが、……夢を、捨てきれなくて」

「……捨てなくて、宜しいのではないでしょうか? 貴族の女性が仕事をする事を、はしたないと思うのは、一昔の貴族だけです。私は、エカテリーナ様の夢、素敵だと思います」

「レティシア様……ありがとう、ございます」


(夢に向かって頑張る知的美少女は、人類の宝です!)


「魔術学園は、仕事をしたい女性貴族には有難い、就職推薦制度がありますもの。リーナの夢、きっと叶いますわ」

「リーナ……? カタリナ様、エカテリーナ様と仲がよろしいのですね?」

「はい、エカテリーナ……リーナの遠縁にはなりますが、血縁関係があるのです。それに私達は、お互いにレティシア様のファンだったので、ファンクラブを作る為に連絡を取り合う内に、自然と仲良くなりました。カトリーヌ様と知り合ったのも、丁度その頃ですね」

「そうね! レティシア様のファンクラブを作るなら、私も仲間に入れなさい! と打診したわね!!」


(なるほど、推し活仲間ってヤツですね!)


「魔術学園では、皆の姿が変わってしまうので、少し不安ですけれど。学園のどこかに、一緒に学んでいる友がいる思えば、頑張れそうですわ」

「カタリナ様。その友に……私も加えて頂けますか?」

「!! 勿論ですわ、レティシア様。とても嬉しいです。……レティシア様は、やはり素敵なお方ですわね……ああ……学園にも、ファンクラブの仲間を増やしていきたいですわ……」


(どこかほんわかした雰囲気で、おっとり美少女のカタリナ様。少しオタクっ気がありそうだけど。良い子そうだから、変な薄い本は描かないでと祈っておくよ……)

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