第37話 交換日記なんですね
「に、兄様……。ま、魔術の勉強に集中する為には……」
「誰からもターゲットにされなければ良いんだ。……高い魔力を相手から上手く隠さないと、勉強どころでは無くなるだろうね」
(……なんてこったい……)
今まで頑張ってた魔力インフィニティが完全に裏目に出る事実に、レティシアは軽く目眩を起こした。
ユリウスの言う通り、行かないという選択肢も視野に入れないといけないかもしれない。すこぶる面倒臭い四年間を過ごす事になるかも知れないからだ。
「……兄様は魔力制御の魔導具を使うの?」
「多分使わないかな。魔力の高い人は大勢居そうだし、魔力抑制しながら実習に臨むのは危険だろうからね。それに学園で婚活なんてするつもりは無いから問題ないし」
「え、婚活しなくていいの?」
「……どういう意味?」
「だって、もしかしたら素敵な
「レティ」
ユリウスはレティシアを両手で塞ぐ様にレティシアの顔すぐ横に両手を伸ばして、本棚に手を付いた。
レティシアはユリウスと本棚に挟まれる形で、身動きが取れなくなった。
(ピギャ?! こ、これは、壁ドンならぬ、本棚ドン?? な、な、何故??)
「に、兄様?」
ユリウスはレティシアを見下ろしながら、顔を近づけてくる。
「レティは、僕に他所の誰かと、結婚して欲しいの?」
「え、えっと……。学園で好きになれそうな
真っ直ぐにレティシアを見つめる真摯な瞳に戸惑いながらも、何とかユリウスの問いに答える。
「レティも?」
「私は……。見た目や魔力、地位とかで恋愛対象にされたくないから。変装石で姿を変えて、魔力を抑えた状態で。それでも私を好きになってくれる人がいたら…いいな、とは思ってるよ?」
「そう……なんだ。……レティは、いずれは誰かと……結婚する気は、ある?」
「そ、それは……」
両親の様な恋愛結婚には勿論憧れるが、乙女ゲームかも知れない事を考えると、物語の強制力などがあるかも知れない。となると純粋な恋愛が出来るか分からない。
だから正直言って、今は誰とも結婚したいとは思わない。というか、思えない。
けれど、一応今も時期公爵家の後継者である以上、避けては通れない内容ではある。
「あるにはあるけど、今は考えられないかな……。いずれは考えないといけない事は分かっているけど。でも。好きになった人が出来たり、そういう時期が来るまでは。今やりたい事を全力でやりたい……かな」
「……魔術学園に通うのも、やりたい事の一つ?」
「うん。私は魔術の可能性を、学園で学んでみたいから。……でも、兄様の話を聞いて本当に学園に通うかどうか、今一度考えてみないといけない事が分かったけどね」
ユリウスは軽く溜息を吐くと、レティシアの肩におでこを置いた。
「……レティが学園へ行くかどうか、もう一度検討してくれるようで良かった。今の話で、レティが魔術の事しか考えてないのが分かったし、僕の気持ちが…これっぽっちも伝わってない事がよく分かったよ。……もっと頑張らないとね」
「に、兄様?」
ユリウスは顔を上げて、両手も本棚から離してレティシアを解放した。レティシアはドギマギから解放されて内心ホッとした。
「レティ。僕が学園に行ったら、毎日手紙書くって言ってくれたの。あれ、本当?」
「う、うん。勿論。でも、ダメなんだよね?」
「そうだね、
「え、本当!? なになに、どんな方法?!」
「ちょっと待ってて。取ってくる」
ユリウスは隣の部屋に入って行き、何やら二冊の本を持ってきた。その内一冊をレティシアに渡した。
「これをレティにあげる」
「? この本は何?」
受け取った本を見ると、表紙に小さな魔石が嵌っている。
早速中を開こうとするが、何故か表紙が開かない。
「あれ? 開かないよ?」
「これは本ではなくて、転写書って言う魔導具なんだ。この転写書に魔力を込めると、その魔力を持つ人にしか本を開けないし、文字を書く事も出来なくなる。文字に魔力を込めれる魔法ペンで書くのだけど、書いた内容は、対となるこっちの転写書に浮かび上がる仕組みなんだ」
「へぇー面白い! 転写書同士がどんなに遠くても大丈夫なの?」
「うん。でも、これには色々欠点があってね。書いた内容は相手側に転写されると、自分の転写書には、書いた内容が残らないんだ。相手側の転写書には残るんだけど。だからどんな内容か忘れたら、相手に教えてもらうしかない。一度転写書に書いた文字は消せないから、これも注意が必要だしね」
「成程。確かに便利な反面、取り扱いに注意が必要なんだね。でも、これがあれば兄様といつでもやり取りが出来るね! 早速魔力を込めて良い?」
「勿論。僕も対の方に魔力込めるね」
レティシアは転写書に自分の魔力を込める。すると転写書は薄ら光って、すぐ光は消えた。
「……これで良いの?」
「うん。これでその転写書はレティしか開けないし、文字を書く事が出来るのもレティだけになったよ。」
「へぇー。あ、開いた」
転写書をパラパラとめくってみたが、中は真っ白で普通のノートと何ら変わらなかった。
「この転写書のページ数なら、僕が通う四年間はこの一冊で多分足りると思うよ」
レティシアは転写書を大切に抱き込むと、満面の笑みで笑いかけた。
「ありがとうユーリ兄様! これで少しは寂しくないよ!」
「僕もだよ」
レティシアとユリウスは嬉しそうに笑い合った。
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