第35話 その後なんです
例の公爵家達からの手紙は、毎日のように届いた。しかしレオナルドは、殆ど見る事なく燃やしていた。……それで大丈夫なのか。
取り敢えずアルバートとウィリアムとマクシミアンには、婚約する気は無いと言う内容の手紙は送った。
するとせめて手紙のやり取りだけでも、と三人からしつこく手紙が届いていたので、仕方なく物凄ーくたまに返事を書く事を許された。
ルシータの産後の体調も問題無く、育児と鍛錬に奮闘している。
孫が産まれたのだから祖父と祖母の面会があると思っていたが、レオナルドとルシータはどちらも自分の両親を快く思っていないらしく、会う事はなかった。
レティシアの時も同様だったらしい。
それにしても、ルドルフはやはり天使だった。
愛くるしく笑う笑顔にこちらまで笑顔になる。レティシアはほぼ毎日、ルドルフのお世話をした。
そんなある日、ルシータが貴婦人達を招いてお茶会を開くこととなり、レティシアも参加する事にした。
十歳になったのだから、やはり社交界に顔を出さないといけないと思ったからだ。
相変わらずレオナルドとユリウスはレティシアを屋敷から出したくない様だったので、せめてルシータのお茶会に出席したい、と以前から懇願していた。
お陰で今回のお茶会に参加出来るのだ。
そしていずれは、同年代の貴族を招いて自分のお茶会を開いてみたいとレティシアは画策していた。
いい加減、お友達が欲しいのである。
家族や使用人達との仲は良好だが、やはり友達ではないのだ。
前世はボッチでも平気だったが、今世ではボッチでなくてもいいじゃないかと思う。
そしていざルシータのお茶会に、レティシアは鼻息荒く意気込んで参加したのだが。
「「きゃああぁぁーー!! ルシータ様ーー!!」」
「「お会いしたかったですーールシータ様ーー!!」」
見た目は普通の貴族の貴婦人な方々なのに、手に持った扇子には『ルシータ様LOVE』の文字が刻まれていた。
今回のお茶会は、幾つもあるサロンの中で一番広いサロンで行うと聞いていたが、理由が分かった。
お茶会にしては参加者が多いのだ。
普段ルシータが公爵家に貴婦人達を招く事は稀なのも理由の一つらしい。招待して欲しいとの貴婦人達の要望にルシータが応えた結果、物凄い人数となった。
もはやファンクラブのイベントだった。
ルシータが貴婦人達に微笑むだけで、数人は失神していた。
勿論レティシアにも注目が集まり、色々質問攻めにあったが、ルシータのフォローもあり何とか笑顔で乗り切った。
話の中で、貴婦人達からレティシアのファンクラブも既に存在する事を聞かされて、レティシアは驚いた。
貴族の間ではレティシアが『幻の姫君』と呼ばれている事を知り、やはり社交界へたまには顔を出さないといけないなと改めて痛感する。
お茶会の半ばには、ウィリアムの母でロゴス領主であるビクトリアが、招待を受けていないにも関わらず無理矢理乱入しようと屋敷に押しかけていたが、予め用意されていたルシータのサイン入りブロマイドで何とか事なきを得た。
その他は特に問題も無く、お茶会は無事お開きとなった。
「お母様、お疲れ様でした……」
ルシータとリビングルームに移動して、お茶会なのに満足に飲めなかったお茶を嗜みながら、レティシアは疲れた顔でルシータを労をねぎらったが、当の本人は元気そうだった。
「ハハハ!! レティもお疲れ様!! さて、貴婦人達を相手にしてどうだった?」
「少し疲れたけど、まあ大丈夫。とにかく皆さん、お母様を推したいしているのがよく分かったよ……。ね、お母様はお茶会によく招かれるの? 魔物の討伐ばかりしていると思ったけど、お母様は貴族に顔が広いんだね」
「まあね!! 今回招待した貴婦人達は、魔術学園で知り合った人が多かったな!! 後は魔物討伐の際に顔を合わせた人もいたかな? とにかく、皆素敵なレディ達だよ!!」
(無自覚タラシさんですね我が母は……)
「そ、そうなんだ。それにしても何故か私のファンクラブもあるみたいだし、一度私のお茶会を開いても良いかもって思ったんだけど、お母様はどう思う?」
「うーん。パーティなら、異性も参加するからレオ達は嫌がるかと思うが、同性のみで此処で開くお茶会であれば反対されないだろう! 私はレティがやりたいなら反対はしないかな!! お茶会を開きたい理由は、同性の友達が欲しいからだろう?」
「うん!!」
「なら、レティのファンクラブに在籍する同性で、歳の近い子を招待すれば良いのではないかな?」
「それ良いかも! 本当にファンクラブがあるか分からないけど、一度調べてもらおうかな? 誰かとお友達になれるかな? ふふ、今から楽しみになってきちゃった!」
嬉しそうに笑うレティシアを見つめ、ルシータは優しく微笑んだ。
「確かに、今までは心配のあまり屋敷に閉じ込め過ぎていたな。……これからは、レティのやりたい事を少しずつやっていけば良い! まあ、危険な事はやって欲しくは無いのは本音だがな!!」
「大丈夫、
この世界がゲームの世界であろうがなかろうが、魔物は率先して討伐したい。
『私TUEEE~!!』は別に興味無いが、魔物を討伐しなければならない理由が、この世界にはある。
世界に悪意が溢れると悪意は結晶化して魔石となり、魔石から溢れた魔力が形を成して、やがて魔石が核となった魔物になるからだ。
悪意が魔物になるのなら、いくら討伐しても真の平和が訪れる事はない。
人から悪意を完全に消す。
なんて事は、出来ないだろうから。それが人が人である由縁な気がする。
因みに魔物が討伐されると、核となっていた魔石も消滅するので、この世界で使用されている魔法石は魔石ではない。魔法が充電出来る特殊な鉱石が魔法石として使われている。
魔物が存在して良い事など無い。あるとすれば、魔物という共通の敵がいる為、人類同士の争いが前世の世界より少ないこと位だ。
だから少しでも魔物を減らして、平和に過ごせる世界に束の間だとしても、出来るのなら。レティシアもこっそりお手伝いしたいのだ。
余談だが、悪意の反対の善意は、魔力の源だとされている。
人が清き心を失った時、世界から魔法は失われると古くから言い伝えられているそうだ。
「こらこら! 危ない事はさせたくないと言ってるだろう!」
「えー? でも小さい頃、冒険者になりたかったらお母様が鍛えてくれるって言ってたでしょ? それに、魔物討伐も公爵としての大切な責務だよね? 強力な魔物が出た時の対処法を、今から学んでおくのは良い事だと思う!」
「そ、それはその通りだが……!」
ルシータは困った様に眉を寄せている。もう一押しだ、とレティシアは眼を潤ませて首を傾げた。
「魔物討伐は無理かも知れないけど、訓練は少しずつでいいからさせて? 私、頑張るから」
ルシータは天を仰いで大きく溜息を吐いてから、諦めた様にレティシアを見た。
「……レオの許しが出たらな!!」
(よし! お母様の許しがあれば、お父様を落とすのは容易い!!)
近々レオナルドの部屋に押しかける事にしようと考えつつ、レティシアは嬉しそうに微笑んだ。
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