第7話 お母様は美人で色々すごいんです
必死に神様に祈り続けているとあっという間に昼食の時間となり、忙しいであろうレオナルドと一緒に豪華な昼食を食べた。その時に子供の話を聞こうとしたが、やはり忙しいのか慌ただしく昼食を済ませると出て行ってしまった。
一人でモソモソ食べている間に、ルシータ達が夕刻前には屋敷に戻るとの連絡があったらしく、食べ終わったタイミングでセバスがダイニングに現れ、二人が到着するまで自室で待つ様に言われた。
結論誰にも何も聞けず、大人しく自室へ戻り、絵本を読んで待つ事にしてソファーに座っていたが、終始ソワソワと落ち着けなかった。長らくそうしていると扉のノックが鳴った。
ハッと扉を見て少し震えた声で返事をすると、扉の向こうからメイドの声が聞こえた。
「レティシアお嬢様、奥様とお連れ様が到着されました。応接間までお越し下さい」
(キター!!)
慌ててソファーから飛び降りた。
「わっわかった。しゅぐいくね。……シンリー、いこっか?」
「はい、お供致します。ドレスの皺は……大丈夫そうですね。では、参りましょうか」
今から死地に赴く様な気持ちで部屋を後にした。
***
(あっという間に着いてしまった……)
いつもは距離が長いと感じる広い屋敷の筈が、気が付けば既に本日二度目である応接間の扉前にいた。
首から下げたネックレスを握ると、レティシアは大きく深呼吸をした。
(今更ウジウジしても仕方がない。……よしっ!)
覚悟を決めて自ら扉にノックする。
「おかーたま。レティシアでしゅ」
「どうぞ」
部屋の中からお母様の声で返事が返る。シンリーが扉を開けてくれたので、意を決して中へと入った。
「レティ!!」
「どぅわあぁ!!」
部屋に入ると同時に白い腕によって勢いよく抱き上げられ、驚きの余り公爵令嬢らしからぬ声を上げてしまった。いきなり視野が高くなってびっくりしたが、自分を見上げる美しい笑顔にこちらも自然と笑顔を浮かべた。
腰まであるサラリとした美しい金髪を三つ編みで一つに束ね、ドレスではなく男装の様なズボンの出立は、どこぞの歌劇団の男役トップスターの様だ。しかしアメジストのような紫の瞳は、とても慈愛に溢れている。
「ただいま、レティ!! 昨日から私に会えなくて寂しかっただろう!! 泣いてなかったか? ケーキは食べたか? ん? ああそうだ! 誕生日おめでとう!!」
「お、おかーたま。おかえりなたい。そしてプレジェントもあいがと……」
「おおっ早速身に付けてくれているのか! うんうん、良く似合っている!!」
高い高いしたままクルクルーとダンスする様に回転する母。
(いつもながら、美しい容姿と言動が一致していない……)
大きな声で滑舌良く喋っているこの絶世の美女こそ、ルシータ・アームストロング。
レティシアの今世の母親、その人である。
「その装飾の緑玉はな! この母がアームストロング領の、とあるダンジョンで偶然見つけた物だ! ボス部屋で見つけたので価値はあると思うぞ!」
「……しょうなんだー。しゅごいねーたいしぇちゅにしゅるねー……」
(また一人でダンジョンに潜ったのかこの母は。しかもボスまで倒しちゃてるんかいっ!)
ルシータは女性でありながら剣士だ。貴族でも珍しい魔法剣士。それも超一流の。
剣に魔力を纏わせて戦うその姿は、美しい剣舞の様だとか何とか。実際見た事がないのでどれだけ凄いかは安易に想像出来ないが。
「おかーたま。それで、ルシアたまのおこしゃんどこ?」
ルシータに抱っこされながら辺りを見回しても、それらしき子供は見当たらない。
「ああっ、レオから聞いたのだな! あの子は客間の寝室で休ませている! ルシアを……母親を亡くして間もないのに、貴族の揉め事に巻き込んで混乱していると思ってな。レティもそうだろう? なので明日、改めて紹介しようと思う!!」
(……そっか、お母様色々考えてくれてたんだ。ちょっと肩透かしを食らった気分だけど、いきなり顔合わせじゃなくて良かった)
言動はやや脳筋ぽいが、思いやりのある優しい母親なのだ。
「わかったー。じゃあ、
今の内に情報収集しておかなくては。
「そうだな! 心づもりは必要かもしれないな!」
レティシアをソファーに下ろすと、ルシータはテーブルを挟んだ向かい側に座った。
背もたれに両腕を広げ、スラリと長い脚を優雅に動かし脚を組むその姿は無駄にかっこいい。
……貴婦人としては失格だが。
「さて、何から話せば良いか! レティはまず何から聞きたい?」
そう聞かれてふと気がつくと、応接間にはルシータとレティシア以外誰もいなくなっていた。今ならば深い所まで踏み込んでも良いという事なのだろう。
色々と聞きたい事が山積みだが、まず一番最初に聞きたい事は決まっていた。
「……おかーたまは、いもーとのルシアしゃまと、きちんとおわかりぇできた? かなしーの、もうだいじょーぶ?」
意表を突かれたのか、一瞬ルシータの笑顔が消えた。
組んでいた脚を戻すと姿勢を正して真っ直ぐレティシアを見つめた。
その顔はこれまでに見たことも無い、力の抜けた微笑みを浮かべていた。
「……本当に、レティには敵わないな。そこを突かれるとは思わなかったよ」
いつもの声とは違う、幾分落ち着いた声だ。
「心優しい私のレティシア。心配してくれてありがとう。私は大丈夫だよ。……私はね、ルシアが平民になった後も、目を盗んではよく会いに行っていた。貴族だった時よりも元気になって、とても幸せそうだった。……沢山話をして、沢山の思い出を共有した。そしてルシアの最後を看取る事が出来た。子供を頼むという遺言もある、いつまでも悲しんでばかりいられないさ。……ま、レオの前では散々泣き喚いてしまったけどね!」
肩をすくめて苦笑いを浮かべると、いつもの調子に戻って話を続けた。
「さて、それでは肝心のルシアの子供について語ろうか!」
「……うんっ!」
母は強し。悲しみを乗り越えてきちんと前を向いてる。レティシアは安心したように笑顔を浮かべた。
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