第2話 早いもので気が付けば三歳でした
「レティシアお嬢様、三歳のお誕生日、誠におめでとうございます」
「「「おめでとうございます、レティシアお嬢様」」」
「あいがと。シンリー。それにみんなも、あいがと」
気が付けば三歳になっていた。
赤ん坊の身体に成人の記憶を処理する程、脳が発達していなかった弊害なのか。
微睡む様に月日が流れ、私ことレティシア・アームストロングはあっという間に三歳の誕生日を迎えていた。
……オムツという排泄方法や母乳という名のご飯に、羞恥心の限界を迎え記憶が飛んだ訳ではない。
決して、ない。
過去の黒歴史を振り払う様に広い応接間を見回してみる。
フワフワのソファーに座るレティシアの前のテーブルには大量のプレゼントの山。置き切れないプレゼントはサイドテーブルに置かれている。
ソファーの横に綺麗に一列に並んで誕生日を祝ってくれる使用人達の笑顔ばかりで、自分の両親がいない。
「おとーたまとおかーたまは?」
この世界で初めて出会った第一異世界人のメイドさん。
お母様の専属メイドで、今はレティシアの乳母役のシンリーに、少し舌足らずな言葉で訪ねた。
「……旦那様と奥様は、急遽奥様のご実家であるラシュリアータ辺境伯のお屋敷にいらっしゃっています。……詳しいことは帰ってきてから伝えると」
「しょっか……」
そう言えば朝から……いや、よく考えれば昨日から見かけていない。折角子供の誕生日だというのにいないとは。
しかしレティシアは直ぐに考えを改めた。
レティシアの両親は忙しい中、レティシアと朝食が取れるようにレティシアが起きてくるまで待ってくれたりする優しい両親なのだ。
生まれてまだ三年ではあるが、自分が両親に愛されているのは良く分かっていた。
(私が転生者としての記憶があるせいかもしれないけど、お父様とお母様は公爵としての立場なのに、いつも私を気に掛けてくれている。何か急な事が起こったんだ)
レティシアはアームストロング公爵の一人娘、レティシア・アームストロング公爵令嬢なのである。
(初めてアームストロングという苗字を聞いた時は、何故かマッチョでちょび髭なおじさんを思い浮かべてしまったけど、公爵と知って愕然としたよね……。ますます乙女ゲーっぽい世界じゃないですかってね。ゲームも好きで小さい頃から結構なゲイマーだったけど、乙女ゲーなんてやった事無いんだよなー……。知識は小説からの受け売りで実は殆ど知らない!! ……オワタかも)
ちょっとインドア派なごくごくフツーの会社員だったと記憶しているレティシアだったが、何故か自分の名前などは思い出せず、断片的な人生の記憶はあるがどれも曖昧な記憶でしかない。これも異世界転生モノにはよくあるパターンではある。とレティシアは思った。
異世界転生特典は言語理解だけな様でこの世界の文字は全く読めなかったが、メイド達の絵本の読み聞かせなどで簡単なことは理解した。
ここはアトランス公国。この世界で一番広大な大陸を統べる国。
公国なので皇帝や王様などはいない。大陸を丁度四等分する様に東西南北に四つの公爵が存在し、各領土を統治している。その一つ、南側を領土とするのがアームストロング公爵だ。
公爵という最高位の爵位を持ったレティシアの誕生日。
貴族達を招いてそれは大層なパーティになるだろうと思っていたが、実際はそうならなかった。
誕生日を祝うプレゼントは各貴族から大量に届けられてはいるが、お披露目の様な誕生日パーティーは行われていないのだ。レティシアは不思議に思い、シンリーに訪ねた。
「それじゃ、プレゼントくれた
レティシアのあどけない言葉にシンリーは少し困った様に微笑んだ。
「レティシア様はアームストロング公爵にとっての大切な至宝。おいそれと下級の貴族に御姿を見せる事は出来ません」
他の使用人も当然だとばかりにうなずいている。
「し、しほう?」
至宝。いや至宝の意味は分かるが、何故自分が至宝と言われ、それが理由で他の貴族に会わせないのか。意味が分からない。
「レティシア様の御姿はこの世のものとは思えない程に生きた宝石のようにお美しく…とても可愛らしいという意味です。それに加え、とても高い魔力をお持ちでございます。レティシア様はまだ三歳と幼い。警備の万全な公爵家と言えども、他所のものを屋敷に招くのは大変危険なのでございます」
「かわいくて、まりょくがたかくて、きけん……」
聞いた言葉を並べても全然意味が分からない。
この世界は科学の代わりに魔導がある。そして魔術によって作られた魔導具があり、魔力が込められた魔法石が原動力なのは最近覚えた。生活様式は住んでいた地球とほぼ同じ。
この世界には魔力や魔法が存在する。
絵本やメイド達の話を聞いてそれを知った時はそれはもう興奮した。前世の小さい頃の夢は魔法使いだったのだ。
『異世界転生あるある』を信じ、意気込んで「ステータスオープン!」と叫んだが、何も起きなかった。
何とも言えない気恥ずかしさに加え、何の恩恵なしという事実にその日は少し泣いた。
それに自分の魔力など感じた事が無かった為、魔力が高いなんて知らなかった。
かなりテンションの上がる話だがしかし、この世とは思えない程可愛らしいとは……?
首を傾げるレティシアを見つめる使用人達の瞳は、いつも宝を見るかの様に何やらキラキラ輝いて見えた。
(ん? そう言えばこの世界の自分の顔、見た事が無かった……かも)
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