序 章 アレストニア王国篇

DEPTH000 黒鮫

 そこは、暗く静かで残酷な真実が眠る場所だ。それは海だが場所が違う、正しくは深海だ。


 ここはアレストニア王国の沖合、深度216メートルの深海だ。海底を這うように進んでいるのは、アガサンカス帝国に所属するメガロドン級攻撃型潜水艦の2番艦ブラックシャークだ。


「艦長、敵潜水艦を捕捉。 真上を通過中と思われます」


 女性の聴音手ソナーが艦長席に座っている男の方を振り向きながら、聞こえてきた音を報告した。


「真上?」

「はい。艦種はA-50型魔導巡洋潜水艦の4番艦かと・・・」


「――副長、戦闘用意を発令する」


 少し考えた後で、副艦長の那珂野なかの史果あやかに命令を下した。


「了解です。 総員、戦闘準備!」


 艦内が慌ただしくなる中、発令所では艦長の沖野おきの海斗かいとが指示を出していた。


水雷長、2番発射管に有線誘導魚雷を装填しろ!」


 指示を出された水雷長の海田うみたかおりが、自身の目の前にあるパネルにタッチペンで番号が表示されている場所に有線誘導魚雷と記された細長く短い印を紐付けた。


「――2番発射管、装填完了!」


「合図待て」

「・・・合図、待ちます」


 副艦長が沖野艦長に目配せをし終えた時、ソナーが叫んだ。


「――南西方向より敵の駆潜砲艦が1隻、こちらに接近中!」


「機関停止、深度変更なし」

「了解、機関停止!」


 スクリューがゆっくりと止まり、しばらくの間は慣性で前に進み続けていたが数分後には完全に停止した。


「駆潜砲艦、接近! 距離350メートル」


「副長。特別無音、発令」


「了解、特無発令」


 艦内が静かになると同時に、駆潜砲艦が発するアクティブ・ソナーが真上を照らしていく。


「・・・」


「――着水音、フタ。・・・ッ、爆雷です!」


 ソナー手がヘッドホンを片手で抑えて沖野艦長に振り向きながら叫んだと同時に「圧壊限界震度まで急速潜航しろ! ダウントリム50!」と航海長に指示を出した。


「香!1番発射管に魚雷装填! 緊急発射スナップ・ショット!」

「魚雷装填、注水完了。いつでもどうぞ、艦長」


「よし、魚雷発射!」


 水雷長が艦長の声に合わせてタブレットを操作すると、艦首部分にある発射管から有線誘導魚雷が1本発射された。それと同時に激しく艦内が揺れ始めたので「衝撃注意!」と怒号を飛ばした。


 発射管より発射された有線誘導魚雷は、暫く自走した後に手動マニュアル操作で航行をし始めた。そして、海中を進み手動マニュアル操作で操作された魚雷は海上より爆雷を投下していた駆潜砲艦の艦底部で起爆し駆潜砲艦を下から打ち上げて海面に叩きつけた。そうして叩きつけられた船体に微妙ながら亀裂が入るとそこを元にして一気に海水が乱入し、轟沈ごうちんに至らせた。


「駆潜砲艦、轟沈確認!」


なぎさ、3番と5番に無誘導装填」

「了解」


 素早い指示に応じてすぐに、無誘導魚雷が3番と5番発射管に装填された。


「――装填完了!」


「アップトリム30、タンク・ブロー! 浮上しながら魚雷発射!」

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