第46話 公爵子息
「オイ! 俺を待たせるとはどういう了見だっ!」
少年の怒鳴り声が聞こえた。
「申し訳ございません。ただいま、試着室には御予約のお客様がおみえです」
「何だと⁉ 俺も予約していた客だぞ!」
まだ声変わりもしていない少年の怒鳴り声はキンキンと響く。
ラウラも怖がって委縮し、僕の腕に抱き着いてきた。
「お客様のご予約は午前10時で頂いておりました」
午前10時⁉
僕たちの予約が13時……、今は試着も終わって14時前だから、この少年は四時間近く遅刻してきたのか……?
そりゃぁ、待たされても仕方ない。
「今、上がっていったのは何処の家のどいつだ⁉」
「お答えできません」
そりゃそうだ。
個人情報だろう。
学園の制服を扱うことを許されるこの店はそれなりのクラスの店である。
このあたりの対応は徹底している。
「俺を誰だと思っている⁉ コンラート公爵家のグスタフだぞ!」
ほうほう……、コンラート家のグスタフ君ね。
お名前頂きました。
「後ほどご案内いたしますので、1時間ほどお待ちください」
その後も少年は怒鳴り散らしたが、店員は毅然として対応した。
ついにグスタフは諦めたのか、彼はふてくされたような顔でロビーのベンチにドカンと腰掛けた。
彼の背後に控える使用人も困り顔である。
そこで丁度、僕たちの制服の引換券の手配が出来た。
僕はあのコンラート公爵家の厄介そうな少年と関わり合いにならないように、ラウラの手を引き、目も合わせずそそくさと店を出ようとした。
しかし、
「オイ! そこのお前たち!」
はぁ~。
どうしてこうなる……。
グスタフに呼び止められ、僕たちは渋々彼を向いた。
「はい。何か?」
「見ない顔だなぁ? お前たちも学園の新入生か?」
言いたくないが、隠していててもどうせバレる。
「まぁ。そうです」
「おぉ。そこの女もか?」
「…………」
「オイ! お前もか?」
ラウラは僕の後ろに隠れる。
「オイ! 何で逃げるっ⁉」
さっきから、『オイ! オイ!』うるせぇんだよ、オメぇ!
グスタフは僕にいきなり歩み寄ってくると背後にいるラウラに手を触れようとする。
その為、仕方なく僕は彼の前に立ちふさがり、ラウラをかばうようにした。
「おやめください」
ラウラは僕の背中に顔を押し付けて隠している。
「オイ! 何のつもりだお前! 俺に歯向かうのかっ⁉ 俺はコンラート公爵家嫡男、グスタフ・フォン・コンラートだぞっ!」
僕はグスタフの目を見て悟った。
コイツはヤバい奴だ……。
「コンラート様。不用意に彼女へお手を触れるのはお控えください。お願いいたします」
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