第13話 閉店間近の訪問客





 ホールスタッフが少しギスギスしている。

 女性は三人集まれば姦しくなるんじゃなかったのか。


 女将さんはたぶん、(聞いていないが)50代だし、僕も別にアメリアと浮気もしていない。

 まぁ、追加のホールスタッフを女子にしたのは、店番で他の男をラウラと二人きりにしたくなかったからだ。

 相変わらず僕と言う人間は狭量だ。


 裏方も人手不足だったから働き者そうな男の子を二人ほど連れてきた。

 経営改善に伴ってこのヘンゼル・ベーカリーの給料も上がったのだ。

 三人とも悪くない条件のはずである。


 まぁ、いずれにしても追加人員は必須だったのだ。

 正直、まだ人が足りない、まである。


 きっと、ラウラもいきなり同僚が増えて人見知りしているのだ。

 スタッフ同士もいずれ仲良くなっていくことだろう。


 そろそろ閉店時間だ。


 さてさて今晩帰ったら、ラウラに何をしてもらおうかなぁ。

 あの華奢な身体を抱き寄せて、すべすべの頬に吸い付こう。

 どうも僕は体が疲れているとラウラの身体を求めたくなるのだ。

 きっと彼女の身体がチョコレートの様に甘いからだろう。


「エルヴィン?」


 おっ? その声は。


「あぁ、ラウラ。もう閉店できる?」


 そう言って僕はラウラを抱きしめてしまう。


「えへへぇ……、」


 ラウラもだらしない声を出した。


「…………」


「……じゃなくって、エルヴィン。店長さん呼んで?」


「店長? ……あぁ、奥にいるからすぐ連れてくるよ。どうしたの? 何かあった?」


「うん。変な人が来て、『店長を呼べ』って言ってるの」


「…………?」


 不審者か……。


「ラウラ。危ないと思った時はすぐに人間でも何でも、ためらわずに凍らせるんだよ?」


「うん。わかった!」







 店長を呼んで店先に出ると、一人の中年男性がいた。

 店長は彼を見ると、驚いた表情をした。


「おぉ、ハインツじゃないか。久しぶりだな」


「えぇ、お久し振りです。ヘンゼル氏」


「店長、この方とお知り合いですか?」


「あぁ、そうだ。紹介しよう。彼はハインツ・パンショップ店長のハインツだ」


「ハインツ・パンショップ……」


「はい……。ここから歩いて15分くらいのところにあります」


「あぁ、あの大通りに面した大きなところですね」


「えぇ……。それで今日は、折り入って頼みがあって来ました」


「頼み? ハインツがか?」


「はい……。私を……、ここで雇ってください!」


 僕を含め、一同が驚いた。


「ちょっと訳アリそうだな。続きは奥で訊こう……。エルヴィン、戸を閉めてくれ。今日はもう閉店だ」


「はい」





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