第09話 ポイントカード導入






「店長、ポイントカードを導入しましょう」


「ポイント……、カード?」


「はい。この店で買い物していただいたお客様にカードをお渡しして、ご購入金額に応じてカードにスタンプを押すんです」


「ほうほう……。それで?」


「カードにスタンプが50個たまったら50マルク分の商品券として使えるようにします」


「ウチの損じゃないか?」


「そうですね。事実上の値下げです。しかし、ポイントカードを持っているお客さんは、パンを買うならウチでしか買わなくなります。そうした方がポイントのスタンプがたまってお得ですからね。要は顧客の囲い込みです」


「ふ~む……。お客さんは本当にワシらの狙い通りにポイントスタンプとやらを貯めるのか?」


「えぇ。そこは考えてあります。まず、期間限定で初めてポイントカードを作ったお客さんには、特別に最初から5ポイント付与します。気持ち悪いでしょう? 勿体ないでしょう? 損したくないでしょう? ですから最後まで貯めようとします。そして、ポイントを使って買い物した場合にのみ、賞品を1割引きで提供します」


「でも、本当に大丈夫か? ウチの損じゃないのか?」


「いえいえ。割引で利益率は落ちても、結果として利益の額自体は大きくなるはずです。薄利多売で実質値下げにも対応できますよ」


「ほぅ……、エルヴィンはどこでそんな話を聞いてきたんだ? 利益率だとか、薄利多売だとか……」


 ギクッ……!


「いやぁ……、教会に来られた商人の方が話していたのを聞いたんですよ……。アハハ……」


「…………? まぁ、そうだな。ポイントカード……、始めてみるか?」


 こうしてヘンゼルベーカリーではポイント還元率3%のスタンプカードが導入された。

 正直この店は客足が少なかったために商品の価格帯が高めの設定であったので、勝算はあった。


 むしろ、最初は店長に値下げを提案しようかと思ったくらいだったが、ポイント制にした方が固定客を増やせて良さそうだと思ったのだ。


 千里の道も百歩から。


 帝都の寂れた一角にあった小さなパン屋、ヘンゼル・ベーカリー。

 それが今や入り易く明るい店内。

 店に入らずとも価格やおすすめ商品が張り出された看板。

 どのパンにもあらかじめ値段が表示されていおり、腕のいい店長による色とりどりの菓子パン、総菜パン、安定の食パンが並ぶ。

 値段は少し高めだが、ポイントカードによる割引もある。

 集めて楽しいポイントカードは、スタンプを集めるとこの店の商品券になる。(なお有効期限2年。)

 オマケに、ポイント利用で購入した場合は全商品1割引きである。


 そして、近所の者たちがこの店に通い詰める理由がもう一つあった。





 ———————————————


 あとがき


 次回。ラウラ投入!





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