エデンへの遥か遠い旅路

玉藻稲荷&土鍋ご飯

還る

 私たちが生まれ育っているのは、動く大地パンゲアだ。そしてほとんどの者は、捕食者に食べられて生涯を終える。

 だから私たちは動き続けてくれるパンゲアの機嫌を取り、あやし、そして時には奴らに決死の反撃をし、存続しなければならない。


 そうでなければ生きてはいかれない種族なのだから。



 私たち祖先は遠く海から生まれ、そして捕食者から逃げる為、この巨大な動く生物パンゲアの上へと移住して来た。分かり易く伝えるなら巨大な亀の背中に存在している湖を中心とした世界が私たちの生存域だ。

 だけど、捕食者たちは時に雲に乗り、鳥に乗り、どんな方法を使っても私たちを補食しようとやってくる。


 世代を重ねるごとに、私たちはただ食べられるだけではなく対抗手段をいくつも見つけてきた。

 捕食者たちが使ってくる武器を参考に槍を、やつらの強靭な拳を参考にハンマーをと…。


 そして私たちが対抗できる力を得ると、捕食者たちも次々に力を変えてきた。

 もしかしたら、この時点で私たちは諦めて補食されるべきだったのかもしれない。


 もはや、指導者にまでなってしまった私にはそんなことは口にはできなかったけれど。



 文明も文化もお互いを喰らい合いながら一進一退する我々と捕食者は、それでも逃げることと捕食を止めようとはせず、ついにパンゲアを地上から離脱させることに成功した。


 空での一時いっときの自由。しかし奴らもまさかこちらと同じく空へやってくるとは思わなかった。ここに来て内部の裏切り者を疑う者も出始め、パンゲア内での派閥も生まれ始めた。時にそれを粛清し、時になだめすかし懐柔し、それでも時は流れ、争いからは逃げられなかった。


「まさか当主が自らが乗り込んでくるとは」

「受け入れてもらえるとも思ってはいませんでしたが」


 とっくに言葉すら同じになっていた捕食者と我々。私はついに捕食者側のリーダーと直接顔を合わせることとした。もちろん、腹心の部下にすら内密にだ。


「何故、我々を狙うのです? 他に栄養源としても価値としてももっと高いものが幾らでもあるでしょうに」


「本能なのかもしれないな。考えたことも無かった」


 相手は本気で考えたことすら無かったようだった。まるでその部分だけ思考が停止していたかのように。


「我がパンゲアは、もって一年ほどで沈むでしょう」

「なんだと」


 それが世界の寿命なのか、誰かの意志なのかは分からないけれど、大地でありながら生物でもあるものの上で生活するということは、いつか限界が来るのは本当はみな分かっていたはずだった。みんな見ないフリをしていただけで。


「だから提案です。逃げませんか? このことわりから」

「そんなことが可能なのか」


 現状を維持するのか、前へ進むのか、戻るのか。生きる限り選び続けないといけない。今がその時なのだ。


 我々は彼らに捕食という本能を逃げさせる。彼らは我々を追いかけるという本能から逃げる。そして互いにこの争いから逃げる。それがきっと最善手だと信じて。


 これからも確執は起こるだろう、私も食べられてしまうのかもしれない。だけど、前へ進む為に「逃げる」のだ。我々は。 



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