第29話 流れよ刀の一振り

 一方、別の場所では。


「んーと、一体何が起こってるんだ!」

「そうだな、とりあえず放送の通りダンジョンに行ってみるか?」

「んー大槻に忍居の野郎もいない……どうなってるんだ?」


 雨あられと降り注ぐ砲撃。

 次々と消えていく電灯の中、鋼とメアリーの二人が、大通りを走っていた。


「どうなってるんだ現代ダンジョン部は……ショップも運とも寸とも言わねえ、システムがロックされてやがるぜ」

「……今なら中から何か持っていけそうだな」

「鋼……そういうのはいけないと思うが……」

「へへっやらねえよ」


 その時――であった。

 通りの向こう側に一人の浴衣姿の女が立っているのが見える。


「あら……あなたたちが来るとは、思いませんでしたこと」


 そして、その手には日本刀が握られている――


「いったい何者だ!」

「あらあら……この僕の姿はあなたたちも知っているはずです………」


 くるりと、一回転。浴衣の裾がゆらりと揺れ、その姿は美しさすら感じさせられる――


「秋津衆、都武四天王が一人。水の玄武。大槻 稔があなたたちを歓迎いたしましょう――」


「大槻、だと!?」

「ええ……あなたの知っている大槻です――同じパーティだった、ね」

「まさか――」


 メアリーが驚く。


「お前も女装――?」

「……いえ、そうではなくてですね……僕は、女なのですよ」

「「お前、女だったのか!?」」


 オーバーに驚く二人。


「はい。では驚いていただいたところで……ここは、通しません」

「お前は現代ダンジョン部の一員じゃなかったのか!?」

「部員でした。それは今も変わっておりません。だが、秋津衆の命の方が優先です……」

「くっ、なんだよ秋津衆って……」

「秋津衆。我が国の魔をつかさどる裏の秘匿されし集団。彼らはこういいました――こんな学校の地下に、ここまでの地下空間があるのはおかしい、と。その矛盾を今正しまする」

「何の理由があってこんなことをする!」

「決まっております……主命にありますれば」


 大槻が、剣の柄を強く握る。

 すると、刃先から山のような水が流れ出し始める――


「ちぃ! 戦うしかないのか!」


 ばさりと、刀を振る。


「水流、闘流斬。この剣の下には何物も通しませんこと」


 その一振りの勢いに乗り、水が衝撃波のように飛び散る。


「マルチツール! オールナイフ!」


 飛んできた水の衝撃波を、鋼がナイフで切る。

 すると、波のようにやってきた水流が真っ二つに切断された。


「あら――なかなかにやるようですわね」

「一応魔法判定って訳だな。へへっこれなら……!」

「前衛は任せたぞ! くっ、セーフティもついてるし大丈夫だよな!?」


 メアリーがガトリングガンを取り出し、弾を乱射し始める。

 だが、大量の弾を、一振りの下に切り伏せる――


「ただばらまいてもいけませんが……!」

「だが、切れるのであれば近づける!」


 迫ってくる水の波を、次々と切り伏せる鋼。


 だがその時、大槻はどこからともなく札のようなものを取り出す。


「君たちの相手は僕だけじゃないよ……!」


 それを刀で切断すると、中から――黒い、鯉が地面からぴょん、と飛び出してきた。


「なんだあれは!」

「式神だよ……僕の使役している、ね!」

「くっ!」


 水もないのに地面に潜り、どこからともなく黒いみずしぶきをあげ飛び出てくる。

 向かってくる鯉に向かって、鋼はナイフを突きつける……!


「はぁ!」


 式神が二つに切断される。

 だが――その双方から、尻尾から頭が、頭から尻尾が生えて来て、二匹に増殖してしまった。


「何っ!」

「さて、増えていく僕の式神に恐怖したまえよ……!」


 大槻は、両手を広げる。

 二匹の鯉が、地面を泳ぎながら、彼――いや、彼女の周りをまわっている――


 メアリーは、ガトリングガンを持ち上げる。


「んーと、鋼には相性が悪い相手なんじゃねえか?」

「へへっ。言ってろ。それでも俺は何とかして見せるさ……!」


 そういって、鋼はナイフを構えた。


 ***


 走る。走る。井荻は走る。


「はぁ!」


 ブレードドローンに柄をつけ、剣として利用してモンスターをなぎ倒す。


「はぁ、はぁ、くそっ行くとは言ったが一人では辛いぞ……!」


 モンスターの集団が目の前にそびえている。


 肝心の頼みの種のアンタレスは……先日の熱戦で修理中である。

 つまり、現状召喚することが出来ない。できても戦力にはならない。そういうことである。


「くそっアンタレスがこんな時に頼れないとは……!」


 だが、行くしかあるまい。

 板野がそこにいるのだから。

 ――彼女を守ると決めたのだから。


「無理でも行くしかねえ……うおおおお!!」


 俺はブレードを振りかぶる。


 と、その時だった。


「あなたの進む道を……切り開かせてもらいますわ!」


 魔法の弾が後ろからやってくる。

 着弾。その衝撃で敵の群れが爆散する。


「その声は――聖さん!」

「都武君を追っているんでしょう? わたくしも手伝いますわ!」

「なんで……とは聞きませんよ、ありがたい援軍だ!」

「事情はあとでお教えしますわ……とにかく今は現状を切り抜けるのみ!」

「了解!」


 俺は、モンスターの群れに突っ込んでいった。


 ***


「それで……聖さんも都武を追っているんですか?」


 いったん休憩し、聖さんの話を聞く。


「ええ……彼が前から何かをたくらんでいるのは知っておりましたわ。……まさかこんな早く仕掛けてくるとは」

「一体、あいつは何をたくらんでいるのやら……」

「彼が狙っているのは――この現代ダンジョン部に魔力を供給している元――『魔神』と呼ばれるものですわ」


 彼女は真剣な顔をして言う。


「これだけ広大な空間、ダンジョンのシステムを動かすには強大な魔力がいる。それをまかなうにはそれだけの存在がこの現代ダンジョン部に隠れ住んでいる……都武くん、いやはそれを狙っているのですわ」

「新ワードが出ましたね……秋津衆とは一体?」

「この国の裏で表に露見してはいけない超常現象について管理を担っている集団……魔法もその一つに入りますわ。国家機関のようなものです。彼はそこから来たスパイなのですわ」

「スパイ……まさかあいつがそんなものだったとは。近くにいたのに気づかなかったぜ」

「魔法で認識をいじりながら巧妙に隠れ住んでおりましたから、気づかなくて当然ですわ」


 聖さんは立ち上がる。


「彼らに『魔神』を手に入れさせたら、この現代ダンジョン部もただでは済まなくなる……それだけは避けなくてはなりませんわ」

「しっかし聖さんもそんなことを知っているとは……ただの一部員じゃないんだろうな」

「ええ、わたくしは魔法協会から送られた――スパイなのですわ」

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