第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その838
「恋人がいるのに、どうして戦争なんかに?」
「……いろんな事情が、それぞれにあるんだよ」
「じゃあ、あなたの個人的な事情でいいので、教えていただけませんか?道中、ヒマなので」
「そう、だね。月並みなものだろうけれど、帝国市民権のためだ」
「それは予想がつくけれど、どうして恋人や『家族』を捨ててまで挑んだの?」
「帝国市民にならなくても、それまでの生き方でも幸せだったはずですよね?」
「より豊かな生活を、してみたくなった。それに、家族や恋人にもさせたかったんだ」
「本当に、それだけなの?」
「正直、それだけの衝動で、故郷から遠く離れた土地までやってくるなんて。おかしいように思います」
「女の子には、分からない」
「そうかな?言ってくれたら、分かるかもしれないよ」
「試しに、教えてみてくれませんか?」
「…………立派な鎧を身に着けた兵士が、何万人も並んでいる。その光景は、とてつもなく『力』を帯びているものだ」
「そうなのかもね。それは、ちょっと分かるよ」
「その一部に、なりたいと願ってしまう。ボロボロの布切れを着て、村を探しても、さび付いた槍しかありゃしない。オレたちみたいな農民が、あんな立派な連中の一員になれる。それは、すごく……憧れるものなんだよ。おそらく、男はとくに」
「帝国軍に所属したからと言って、その力の全てを使えるわけじゃないでしょう?」
「そうなんだ。そうなんだがね。何かの一部になるっていう感覚は、とても大きいんだ」
「あなたは故郷の一部だったはずです。帝国軍のそれは、故郷よりも魅力的だった?」
「……意地悪な質問だね。でも、そもそも。オレたちの故郷も帝国に組み込まれたんだ。だから、オレたちにとって、新しい故郷とも言える。そんな新しい故郷のなかで、ちょっとは発言権が欲しいと思ったんだ」
「そのために、戦争してたくさんの土地を侵略したわけだけど。悪いことだとは、思わないの?」
「……オレたちだって、侵略されたと言えば、そうだった。だが、帝国に統合されたら幸せになれた。豊かになれたんだ。街道が作られ、教育まで……学校なんて概念、オレたちの親世代はよく分かっちゃいなかった」
「ふーん。帝国がくれた豊かさのためなら、何もかも捨てられるんだね」
「そうは、言っちゃいない」
「そう聞こえますよ。帝国に攻撃されて、大切な『家族』を失った私たちからは。侵略者って、どうして被害者ぶるんでしょうか?」
「おい、ガキども。オレたちを侮辱するつもりなのか!?」
「侮辱に聞こえるとすれば、きっと自分の罪を理解しているのかもね」
「侵略を悪いことと考えているのに、仕方がないと自分に言い聞かせているんです。臆病者ですよね」
「な、何を!?」
―――挑発が過ぎたかもしれない、キュレネイの指示から逸脱はしている。
だが、それも含めてキュレネイは計算済みだった。
ストレガの双子たちは誇り高く、恐れを知らないからね。
『これぐらいはやる』と、キュレネイは理解していた……。
―――だから、双子たちの知的好奇心と攻撃的な振る舞いが出るころに。
作戦予定の土地へと到着するようには、脚本を書いていたわけさ。
メルカ・コルンよりもキュレネイの方が、実のところ感情のない計算をする。
この種の作戦において、最高のコーディネーターと言えたよ……。
「あの村かな?負傷兵が、いるというのは……」
「そうだよ。たくさんの負傷兵がいる」
「ちゃんと連れ帰ってくださいね。帝国兵に対しての感情は、すでにぶつけたと思いますので」
「……ああ。分かっているとも」
―――ククリとククルも、もちろん分かっているよ。
帝国兵が嘘つきで、男どもが美しい少女たちにどんな感情を抱くのか。
ふたりはどこか確かめたがっていると、キュレネイは考えていたらしい。
世界の邪悪さを確かめて、罰したいんだよ……。
―――姉の命を奪った帝国人に、強烈な憎悪と嫌悪と怒りを持ったままだ。
不思議なことにヒトってね、罪深い邪悪さを確かめたがる悪癖がある。
理解しがたいほどの邪悪を、『やっぱりこうでしょう』と決めつけられたとき。
未知の恐怖というわけじゃ、なくなるからね……。
―――そんなものさ、ヒトの心なんてものは。
キュレネイは感情ではなく、観察を用いることで。
何もかも見事に、予想のなかに絡め捕って見せたのさ。
ふたりにイラつきながらも、帝国兵どもを最後の舞台に招き入れる……。
―――そこは人々が逃げ去った村だ、帝国軍の侵略に際して放棄された村は多い。
ゼファーが上空から見つけたこの廃村も、そのひとつだった。
帝国兵どもはいぶかしむ、ここに負傷兵がいるのだろうか?
あまりにも静かなそこには、虫の鳴き声さえも見つからない……。
「……静かすぎやしないか?ほんとうに、ここなのか?」
「お前ら、もしかしてオレたちを―――」
「―――うん。じつはね、私たち」
「すぐに理解できると思いますが、『自由同盟』側の戦士です」
―――殺りくが始まったよ、ストレガ姉妹は帝国兵に飛びかかった。
ククリは敵の槍を奪い、ククルは敵の剣を盗むように抜く。
その速度は熟練兵のそれを数倍速かったし、双子らしい戦術も使っていたよ。
それぞれが入れ替わるように、左右にすれ違いながら敵を襲ったんだ……。
―――高速で入れ替わる双子のすがたに、帝国兵どもは幻惑されたのさ。
それぞれに反射的に選び取っていた対処の構えの、欠点を突かれてしまう。
ククリは右から攻める動きを見せていて、ククルはその逆だったから。
敵どもの防御は空振りしてしまい、手痛く致命的な攻めを喰らったのさ……。
―――二人の帝国兵が、自らの武器で狩られて。
次の瞬間には、さらに二人が斬られ突き殺されていた。
連携は続き、魔術をククリとククルは使う。
『デリバリー』と名付けた連携魔術を、この瞬間に使った……。
―――ククリとククルの魔力を、半分ずつ使うことで。
少量の魔力で、強力な攻撃魔術を『瞬時に組み立てられる』。
接近戦で魔術を使うのは、なかなか困難なことだったけれど。
この方法なら、奇襲のような早さになった……。
―――強力な『炎』が形成されて、帝国兵の半数を吞み込んだ。
ひるんだ帝国兵を見向きもせずに、ククリとククルは森に向かって走っていく。
帝国兵どもはすぐさま追いかけていったが、罠に駆られて次々と命を落とした。
森のなかに隠していた弓を拾うと、双子は村に戻ろうとした帝国兵を射殺する……。
「あいつら、何て腕だ……ッ」
「か、固まれ……家を盾に使うんだ」
「罠に、はめられたのかよ」
「あいつら……ッ。捕まえて、犯して、殺してやるぞ!!」
―――事実誤認が、甚だしい。
すでに運命は決していたというのにね、家にも罠があるに決まっている。
キュレネイは敵の動きも、計算していたよ。
『どう怯えて、どこの建物に逃げる』についてもね……。
「すごいや、キュレネイさん」
「ほんとうに、言っておられた家に隠れましたね」
「じゃあ、さっそく」
「この罠で、仕上げといきましょう」
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