第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その709


―――「野蛮な地域で、野蛮な敬意を勝ち取ったわけだ。農園主の命もね」。

「オレは素性を明かすことはない。麻薬王エルコバに、ケンカを売っているんだぞ」。

「したかったのは、組織そのものの崩壊。まずは、情報収集だった」。

「農園主は借金取りに殺されずに済み、オレを自宅に招いてくれたよ」……。




―――「そいつは、オレが素性や目的を明かさなかったからこそだ」。

「不意に訪れた幸運で、命を救われたばかりの農園主からすればね」。

「エルコバの敵と、これ以上、関わりたくはないだろう」。

「オレも情報が欲しかったから、ただの旅人のフリをしたんだ」……。




―――「茶葉栽培に適した土地がないかと、やってきたモロー商人のひとりがオレだ」。

「より正確に言えば、『ザ・ティー・ガーデン・オブ・モロー』に雇われた農業学者である」。

「そういう役を演じることにした、学が足りないだって?」。

「役者修行の果てに、書物の読破量だけならば本職の賢者の半分ぐらいはある」……。




―――「作物や土地について、嗅覚呪術で読み解くこともやれるからな」。

「孤児院では、クソみたいな農奴生活をしていたのを忘れてくれるなよ」。

「知識と、嗅覚呪術、あとは悲しい農業経験のおかげで、学者を演じられたのさ」。

「農園主はオレを疑った。「学者のくせに拳闘が強いなんて、ありえない」……。




「す、すごい。学者を演じようとするなんてっ」

「悪くない方法ですよね。商人に雇われた学者による、新事業開拓の調査なんて、ありふれていますから。おそらく、二百年前でも」

「そ、そうなんですね。『プレイレス』の土地って、と、とても賢いというか。文明的です。た、他の土地だと、もっと雑だと思いますよ。調査というより、畑の、りゃ、略奪のためのならず者を雇ったりする商人の方が多いような気がします」

「……ふむ。新たな農地を探したり、開墾したりするよりも、少なくとも時短は可能ですよね、その種の行為……」




―――「農園主は、期待した。エルコバをぶっ殺すため、モローの茶葉組織が動く」。

「傭兵を雇って攻めに来て、忌々しいエルコバたちを一掃してくれるのでは」。

「もっと平和的なものだと、伝えておくことにした。農園主は疑っていたがね」。

「拳闘が得意な理由は、ツイスト大学時代に教鞭を取る傍らの趣味の果て、とした」……。




―――「疑われなかったよ。見事な社交ダンスで、農園主の娘たちと踊ったときは」。

「西部では淑女に価値が与えられる。金持ち男に嫁がせるには、優秀な女が好ましい」。

「勉強はともかく、礼儀作法が重要視される」。

「社交ダンスが完璧にこなせれば、15才の少女としての地位は倍増するんだ」……。




―――「ツェベナの役者だぞ?舞踏会のダンス指導ぐらいは、もちろんやれる」。

「家庭教師として、農園主の可憐な娘たちに指導もすることにしたんだ」。

「ティー・ガーデンの調査員という仕事もしながらね。何事も、縁は大事だ」。

「少女たちの情報もバカにはならん。田舎の少女たちは、ウワサ話が大好きさ」……。




―――「可憐な少女たちには、麻薬組織のクズ男どもさえ骨抜きにされる」。

「威張り散らしながら、少女たちをものにしようと大物ぶって仕事内容を語る」。

「ハッタリも多く言うが、ならず者は自信過剰の同類を罰するものだからね」。

「西部では、少なくとも、この土地では、ならず者は乙女たちに正直だった」……。




―――「多くの情報が、農園主の娘たちからも手に入ったよ」。

「どこの誰が、エルコバの部下なのか。エルコバの敵なのか」。

「真贋不明の賭場情報もあれば、暗殺や強盗についても教えてくれるんだ」。

「著名な暗殺者だとか、有名な詐欺師まで、この土地では英雄扱いされている」……。




―――「犯罪に対して、どこか寛容的なんだよ。間違っている土地だったな」。

「『プレイレス』の諸都市が、西部を嫌う理由はよく分かる」。

「こいつらは、救いようのないほど、露骨なまでに、ただの野蛮人だからだ」。

「まあ、オレとは、つまり。相性がそれなりには、いいってことだよ」……。




「や、野蛮人……まあ、『プレイレス』に比べたら、大陸のどこの地域だって、や、野蛮ではあると思います」

「千年以上、発展を続けている土地ですからね。他の地域に征服されることは、帝国にやられてしまうまではなくて、知性を大切にするのは、すべての諸都市で守られてきました」

「か、賢いヒトたちがいないと、世の中って、だ、ダメなんだと思います。ぼ、ボクみたいな戦士がいただけでは、きっと、よ、世の中はまったく良くならない」

「軍隊により平和維持と、学者たちによる発展や、知性の伝承。それらが豊かさを支えているとは思います。ただ、アルトーが言うには……」




―――「『プレイレス』に吸い上げられたせいもある。西部がクソなのはね」。

「生まれもっての負け犬の土地で、こいつらは犬畜生のようにいじけている」。

「愛されなかった野良犬は、残酷で狂暴な駄犬の群れになっちまうよな」。

「それに、『プレイレス』もこいつらの成長を嫌うんだ」……。




―――「西部の連中が、学を得たら?発展しちまうだろうよ」。

「発展すれば、今は犯罪に使っていた力を、軍隊や経済活動の強化に使い始める」。

「『プレイレス』の実質植民地みたいな状況から、真の敵/ライバルになるんだ」。

「『学者狩り』も行われていたが、この蛮行の実施者は『プレイレス』の軍隊だ」……。




「が、学者狩り!?」

「西部に、学問を普及しようとしていた学者を、処刑するんです。『プレイレス』の軍隊がやっていたと、アルトーは主張していますね」

「ほ、ほんとうなんですか?」

「アルトーの体験談によれば、そうみたいです。『プレイレス』の周辺地域は、たしかに発展が阻害されやすいという事実も、あるかもしれません。都市同盟に入れなければ、敵になりやすい……世の中って、きびしいものですよね」



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