第四話 『迷宮都市オルテガと罪科の獣ギルガレア』 その674


―――新型の『火薬樽』を、ソルジェは求めていた。

我らがミア・マルー・ストラウスも、その『最新兵器』にワクワクしていたよ。

ゼファーに『装備』させる以上、危険性は知っておきたくもあったし。

まあ、それよりも好奇心の方が勝っていた……。




「爆破実験、や、やりまーす!!」

「ワクワクするねえ。どーんと、やってねー!!」

『わくわく、わくわく!』

「4、3、2…………着火!!」




―――大学の一区画で行われた爆破実験は、とてつもない火力だった。

それらは最新の錬成レシピがあったというよりも、シンプルに純度を高めた結果だ。

学生たちらしい努力というか、執着心というか。

根性の手作業で不純物を取り除いて作られた火薬は、従来の倍近い威力になった……。




「すっごーい!!これなら、帝国兵を二十人ぐらいはまとめて吹き飛ばせるよ!!」

『やるっ。ぼくも、うかうかしていられない。るるーしろあだけじゃ、ないな……』

「ありがとう!!ほめられたかったんです、かなりの改良をしたので!!」

「その火薬が詰まったのが、この『新型火薬樽』なんだね?」




「ええ。とりあえず。三つほど用意出来ました。竜の腹部に吊るしておけば、ロープを切ることで、任意の場所から敵軍目掛けて落とせます!」

「なるほどね。空から爆撃するのなら、精密に獲物を狙えそうだ!」

『かきゅうで、ねらうのとちかいかも』

「うんうん。カタパルトで放り投げるよりは、融通が利きそうなのものいいトコロ」




「カタパルトの射出の衝撃で、内部の錬成反応が始まるという仕組みもあります」

「あれだよね。衝撃を与えないと、爆発する錬金薬にならない……」

「ええ。合成前の素材は、かなり安定した状態で……」

「ムズカシイの、分かんないっ」




―――13才のミアには、錬金術の仕組みなんて分かるはずもなかった。

もちろん、仕組みが分からなくても使えるのが道具というものさ。

火薬に衝撃で火花が散る『火付き粉』や、『炎』の魔力を混ぜれば発火出来る。

戦士はそれだけ知っていれば、練習次第で火薬を使いこなせた……。




「そ、そうだよね。じゃあ、教育学科の私が、分かりやすく基礎錬金術を教えてあげるからね!」

「う、うう。お勉強、嫌だけどっ。猟兵の技巧に使えそうだから、がんばるっ!」




―――教育者を目指す学生からすれば、ミアはちょうどいい教え子だっただろうね。

火薬なんて実戦で使いこなしているけれど、理屈までは知らないんだから。

このふたりは好対照で、教師と生徒役をやるにはちょうどいい。

実戦での使用例については、学生の方も知らなかったのだから……。




―――知識と実体験、それぞれを補うように知識の交流が行われていく。

ミアも火薬についての知識を更新出来た、現場では雑になりがちな管理についてもね。

湿気てしまった火薬を、復活させる方法だとか。

基礎的な調合方法だとか、強化するための単純な錬金術だとかも……。




―――13才の知的好奇心は、なかなかに吸収が良かった。

ミアはいくつか新しい火薬の使用方法を、アタマのなかにストックしていく。

学生たちも実戦での使用を聴取することで、より効果的な爆弾開発に使えた。

さらに言えば、これらの知的な会話をゼファーが聴いていたのも大きい……。




―――竜は道具を使いたがらないものだが、ゼファーにはその執着が乏しい。

黒ミスリルの鎧で武装するのを好むし、戦場で使用される兵器群も興味があった。

ソルジェや猟兵たちの影響だろう、多様な武器や道具を使いこなしているからね。

しかも、竜というのは基本的にヒトよりもずっと『賢い』のさ……。




―――ミアと学生たちの錬金術的なやり取りを聴きながら、ゼファーは考えている。

自らの『火球』について、より火力を向上するための方法があるはずだと。

竜は力に対しての興味が強い、ルルーシロアが女神の力を模倣しようと試みたように。

ゼファーは人類の知恵から、より学ぼうとしている……。




「威力の計算は、数式で管理しているのよ。算数だね!」

「うう。苦手だようっ」

『……それは、ぼくに、おしえて』

「え?ええ。竜って、数学、やれるのかしら……」




「ゼファーというか、竜は、ヒトよりも賢いんだよ。二百年以上生きるし、アタマも大きいから、脳みそもきっと大きいんだよ」

「た、たしかに!これだけの頭部の大きさなら、ヒトの脳の数倍はあるはずよね」

『すうがくのほうは、ぼくがきいて、ぜんぶ、おぼえておいてあげる』

「わ、分かったわ。じゃあ、私はミアちゃんに基礎錬金術講義をするから、そっちの男子たちから教わってね!」




「ま、マジか!!」

「竜に、じゅ、授業……っ!?」

『よろしくね。ばくはつのいりょくをあげるための、すうがくを、おしえて』

「ま、任せてくださいっ!!」




―――子供みたいな口調だけど、ゼファーの知性はソルジェやミアの数倍はいい。

人類のなかでもアホに属するふたりと比べれば、二桁違う賢さかもしれないね。

だから、大学半島のトップクラス学生が語る錬金術数式についても理解した。

熱量がどうとか、それらが物理学と数学で推定される動きや変化の予測とか……。




―――戦士が感覚的にこなしている部分を、数学で把握していくわけだ。

学生たちも、魔物に授業をするというヘンテコな行いに戸惑っていたけれど。

すぐにゼファーの知性が、どれほどのものかという事実に気づいてくれた。

単純な計算能力ならば、人類を凌駕しているという事実に……。




―――何人かの学生が、ゼファーと数学で勝負したいという衝動に駆られるほどさ。

何か月かかかってしまう計算だって、ゼファーに任せたら?

数時間で解いてしまうかもしれない、それぐらいの性能を感じさせたみたいだ。

ヒトより基本的に賢いのさ、戦闘に対しての興味が高すぎるから研究はしないけど……。




―――竜騎士というか、『猟兵でもある竜騎士』と出会った結果かもしれない。

あとは、『グレート・ドラゴン/耐久卵の子』が二匹も同時代にいる異常事態の結果かも。

通常の竜よりも、はるかに戦闘や知識への欲求が幅広く育っていたのさ。

年上のルルーシロアに勝るためには、ヒトとの交わりを深める必要もあるしね……。




『もっと、もっと。おしえてほしいな。ろろかなら、むずかしいほんでも、よんでくれるから。そういうほんがあれば、かしてほしい』

「わ、分かった。ボクらも君に期待しているっ。火薬系の錬金術の名著を、プレゼントするから。ボクらが解こうとしている数式を、計算してみてくれないかな?」

『とりひきだね、おっけーだよ』

「やったぞ!!三つあるんだけど、解けるかな!?これが解けたら、錬金術の研究にも、かなり有益そうなんだ……少なくとも、学問は、ちょっとは進歩するからね!」



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